「実年齢より若く見えるキャラクター」第6号です。とは言いましても、不老のハーフヴァルキリーですので、それが普通なのですが。
……などと思っていたのですが、このページを作成するに当たって改めてプレイングマニュアルを読みましたところ、不老であるのは純粋なヴァルキリーであることが判明。ハーフヴァルキリーは人間の3倍程度の寿命しかありませんので、それ相応の速度で老化する種族だったのかもしれません。しかし、神龍に認められる(ヴァルキリーになる)のが遅かった場合、熟女のヴァルキリーや老婆のヴァルキリーといった悲しい存在になってしまいますので、ハーフヴァルキリーも死ぬまでは若い姿を保つ種族である……ということにしておきたいと思います。プレイヤーキャラクターとして認められる最高齢の150歳でありながら、子作りができていますし。
なお、第1回の「マスターより」で「空姫代理お願いします」
と役職を仰せつかったのですが、他の例に漏れず、役職に負けてしまいました。どうも私は、役職に就いていない場合は卓袱台返しを仕掛け、役職に就いている場合は現状を維持しようと抑え気味のアクションを掛ける傾向にあるようです。
というわけで本日から定時退庁である。
昨日までは土日出勤、10時過ぎ帰宅という状況だったというのに、なんとも切り替えが早いことよ。税務課職員が「季節労働者」と言われる所以である。
そんなわけで、久しぶりに6時に帰宅してみたりなんかしちゃったりしたわけだが、思わずこの有り余る時間をどうしようかと途方に暮れてしまったりする自分を発見。いや、やりたいこと、やらなければならないことは色々とあるのだが、どうも切り替えが上手くいかないのだ。というより、気が緩んだために今までの疲れがここに来て一気に押し寄せてきたという感じである。
とりあえず積極的に行動を起こすには気力ゲージが足りないので、先日届いた『ネットワールド』を読むことにする。目的は『レマンシアの竜騎士』のブランチ確認だ。
『レマンシアの竜騎士』には、2キャラ分を振り込んである。そのうちの1人は、既に前回に引き続き、和田マスターのPAブランチ『怪獣王女』に投入することが決定済み。もっともキャラクターはコンバートではなく、新キャラクター(そろそろお迎えが来る200才近いハーフヴァルキリー)であるのだが。
PAブランチの紹介文を読み、どうキャラクターを動かしていこうかと思案する。
……。
自キャラクターが活躍している状況が全く思い浮かばないというのは、かなり問題あり?
『レマンシアの竜騎士』のマニュアルが届く。
2キャラクターのうちの1キャラクター……PAブランチに投入するハーフヴァルキリーについては、9割方が作成済み。先に届いたキャラクターシートが『ソル・アトスの姫君』とほぼ同様だったため、『ソル・アトスの姫君』のマニュアルで作成してしまっていたのだ。あとは正規の『レマンシアの竜騎士』マニュアルに番号を対応させ、微調整を行うだけである。
って、なにーーーッ!! 「誘惑」技能が消えてるーッ!!?
今回のハーフヴァルキリーは子沢山なキャラクターにしようと思っていた。ダークレイスやスヴァルトを滅ぼすために「産めよ増やせよ」を実践してきたという位置付けだ。ゆえに、ぜひとも「誘惑」技能は持たせてやりたかったのだが……。これは「俺のキャラクターは誘惑技能が××レベルあるのに、どーしてあのNPCは落ちないんだーッ!?」とか騒ぐ人達が結構いたということなのだろうか。
いたんだろうなぁ。
シフォン山。この高山のほぼ頂上にヴァルキリーたちの住まう城がある。麓の人々から『天空城』と呼ばれているその城にも、かつてこの地に封印されていた大怪獣『森羅万象』の封印があったことを知る者はいない。
現在はこの城の主たるヴァルキリーはひとりもおらず、ハーフヴァルキリーたちが時たま訪れる程度だ。
もっとも、空姫こと現主であるハスアーキュリー・プロフィトロールが、数か月に一度、城内の清掃のために帰ってきているおかげで、城が朽ちるというような様相はまるでない。
そして今日、ふたりのハーフヴァルキリーがこの『天空城』についた。本来、飛翔能力のないハーフヴァルキリーはとんでもない労力をもってシフォン山を登らなくてはならないのだが、先代の城主が麓から城まで直行の移動手段をこうじてあるので、知っている者ならなんの労力も無く城までたどり着けるのである。
さて、その直行移動手段である界獣『翼』から、コロン・アットマークとプティーラ・ホワイトは降立った。
そして真っ直ぐ城門の隣にある扉へと向かう。
コロンのなんの迷いもない行動に、プティーラが先ほどから思っていた質問を口にした。
「コロンさんはここに来たことがあるの?」
「わたし? えぇ、5、60年くらい前に。だから随分と久しぶりですが、ちっとも変わって――」
そこまで云って、不意にコロンが言葉を途切らせた。して彼女が目を細めて見ているものを、その後ろからプティーラが覗き見た。
そこには、扉に寄りかかるようになにか白いものがうずくまっていた。
「白クマさん?」
プティーラが首を傾ぐ。
するとその白いものが動いた。その腕には、ぐったりとしたラオプティーアの少年が抱えられている。
「キミたちはこの城の人たちなのかなぁ」
その白い毛玉はふたりを見つめて尋ねた。
「しゃ、喋る白クマさん」
「違いますよ、プティーラ。サスカッチです」
コロンがプティーラをたしなめる。
「ごめんなさいね。えぇ、わたしたちはこの城のものです。どうしたんです?」
「この子がこの山で遭難していたんだぁ。それでこの城にまで来たんだけど」
そういってサスカッチ、ポルト・プリーンが高い城壁を見上げた。
「変ですね。その扉、開きませんでしたか?」
コロンが尋ねると、ポルトは頷いた。
「仕方ありませんね。扉から入らないのは無作法で嫌なのですけど……」
コロンはブツブツいうと、『翼』のところまで戻った。
この『翼』を使って城壁を飛び越え、直接城内に入ってしまおうというわけだ。
かくして四人は界獣に乗り、城内の庭園へ降立った。
「あったか~い。外はあんなに寒かったのに」
「あれのおかげですよ」
コロンが空を指差し、説明しようとしたとき、ひとりのハーフヴァルキリーが庭園に姿を現した。
なんだよ。リリエムいるんじゃん。
それなのに、どうしていつも施錠してない扉まで閉めたんだ?
「おまえ達は何者よ!?」
リリエム・イルザーブがコロンたちに詰問する。
「何者もなにも、久しぶりに帰ってきただけですよ。それよりも、この子が大変なんです。治療を」
ポルトが少年を降ろすと、リリエムが駆け寄った。
「た、助けて――」
意識を取り戻した少年が辛うじて呟く。そして――。
「助けて欲しい? 助けて欲しい? それなら全財産の半分をおよこしなさ――」
「いったいなにを云っているのですか!!」
だがしゃあっ!
いきなりリリエムの顔面にコロンが見事な蹴りをぶちかました。
リリエム、吹っ飛び2、3回バウンドして止まる。
しかしお前、相変わらず人の足元を見るあこぎな真似してんだな。本当にそのうち羽根が黒くなるぞ。
リリエム、起き上がるとコロンを指差し喚いた。
「なにをするのよ! 痛いわね!!」
噴出す鼻血。
「それはこっちの台詞です! 全財産の半分寄越せとはどういうことですか!!」
「そんなのあんたに関係ないことよ!」
「よろしい、ならばわたしが指導してさしあげます」
ボキボキと指を鳴らしながらコロンが睨む。
「ふん。あたしの槍をその身で思い知るがいいわ」
コロンとリリエムの睨み合い。
プティーラは思わずポルトにしがみついた。
いくらハーフヴァルキリーとはいえ、齢10歳の彼女に同族同士の争いは刺激が強すぎるというものだ。
すっ……。
いきなりコロンがうっすらと笑みを浮かべて、右手を天に差し上げた。人差し指をしっかりと真上に向けて。
その姿に、リリエムはあるものを思い出した。
それは、あの時の空姫の姿。
だが、そんなことはありえない!
そしてコロンが呟く。
「天罰。てき――」
「困っている人を助けるのは私たちの務めよね!」
リリエムはコロっと態度を変えると、いそいそと少年の状態を見て、聖光の呪文を掛け始めた。
冗談どころではない。この城の上空には、この城そのものを快適にするために界獣『青天霹靂』が常時浮いているのだ。その名の通り、空姫の命に従い、雷を自在に落す強力な界獣が。
「くくくく。なにやら騒がしいと思うたら」
「お久しぶりです。サイレンさん。お変わりはありませんか?」
「息災じゃ。しかし本当に久しぶりじゃな。56、いや、57年ぶりくらいじゃな」
サイレンが懐かしそうに呟く。
サイレン・マロングラッセ。タ・メラの元宮廷魔女。そして、ここ天空城の主と同じく大怪獣『森羅万象』の封印の番人をしていた者だ。
「シルバ様はどこに?」
「シルバはもうおらぬ。大分前に旅に出たわ」
シルバとはシルバスティーナ・プロフィトロール。即ち空姫の母親のである。
「それでは……」
「シルバの後は、シルバの娘が継いだ。じゃが、その役目も3年前に終わったからの」
「終わった?」
「『森羅万象』は滅ぼした。気付かなかったか? ムースが歩いていなかったじゃろう」
たちまちコロンの顔が青ざめた。
「そんな! 私としたことが肝心なときに留守にしていたなんて」
「さして面白い見物ではなかったからの。そう嘆くほどでもなかろう。で、こやつはどうしたのじゃ? 確かミルク・ウミウシとかいう魚屋の居候のはずじゃが」
「山で死にかけてたのを拾ったんだぁ」
ポルトの言葉にサイレンは顔をしかめた。
「確か前に砂漠でも遭難しておったのぅ」
「ところでサイレンさん。そのシルバ様の娘御はどこにいるのでしょう?」
コロンに問われ、サイレンは視線を彼女に戻した。
「ハスアーキュリーなら、母親を捜しに旅立っておる。数か月ごとに戻ってきてはおるようじゃから、ここにいればそのうち遭えよう。で、コロン、さっきは本当に『晴天霹靂』がお主の命に従うと思うたのか?」
サイレンの問いにコロンは肩をすくめて見せた。実際のところ、あれはシルバの真似をしてみただけである。
「ねぇ、サイレンさんはここでなにをしているの?」
プティーラが不思議そうに尋ねた。
ヴァルキリーの住む城にモルーハがいるというのは、なんだか妙だ。それにここは山のてっぺんなのだ。
「儂はふたりに代わっての見回りじゃ。これだけでは心配じゃからな。そうは思わぬか?」
そういって、視線も向けずにサイレンの指差すものをみて、三人は納得した。
サイレンの指差していたもの。それはリリエムだった。
今日もアイシンクの森ラオプティーア族族長の屋敷には、多数の防衛軍隊員が集まっていた。
目的は、タルト村を制圧した『トライフル騎士団』への対処方法の検討のためである。
何日もこの会議は繰り返されてきたのだが、いまだに結論がでないままだ。
まぁ、あんな20ラングもある人型兵器がたくさん出てきちゃ、誰でも二の足を踏むというものだ。
それに、タルト村の村民は人質であるともいえる。
下手な手出しはできない。もしするならば、絶対に連中に勝たなくてはならない。それも被害を最小限に抑えるという条件でだ。もちろん人命を失うことは論外だ。
とりあえず、こんなところまで決まるには決まった。
とはいえ、それを実現するような奇跡的な策はいまだにでない。
まぁ、理想に対を成す言葉は現実だしね。
まずそういう案を出すのは無理だと思うぞ。
そして今日も、お屋敷の食堂には茶を啜る音だけが響く。もはやネタも尽き果てた。
「で、どうするのじゃ? このまま傍観していたのでは、なにも変わらぬぞ」
海姫が腕を組みながら云った。
このほっそりとしたモルーハの姫君は、森姫と違ってこういった席での存在感が非常に強い。
「いずれにしろ、彼等とは戦わなくてはなりません。それなら、少なくとも村人に掛かる被害を最小限にとどめることを考えましょう」
空衆代表であるコロン・アットマークが、膠着したこの会議を進めるべく、ひとまずの目標を提示した。
こうでもしなければ、またもや単なるお茶会になってしまう。
「――これ馬鹿娘。お主も桃にむしゃぶりついていないで、何か意見をいったらどうなのじゃ?」
先ほどから嬉々として採れたての桃に夢中になっている森姫に、海姫が痛烈な視線を向けた。
このふたりの仲がいいんだか悪いんだかは、タルト、トルテの両村に知れ渡っている。
森姫は指をぶんぶん振り回しながら、どうにか口の中の桃を喉の奥に詰め込んだ。そしてお茶を一口。
「ゆ~ちゃん! 馬鹿娘ってゆ~な!」
「お主こそその呼び方を止めい!」
まただよ、このふたりは。
「ま~ま~、落ち着いて、れ~ちゃん」
リュドミラ・カシアナムが森姫をなだめた。
いいかげん、リュドミラも呆れ顔だ。
「ねぇ、どうしてそう呼ばれるのが嫌なのぉ?」
ティア・ダークスがなんとなく海姫に尋ねた。
海姫のこの嫌いようはどうにも気になるところだ。
「妾の母の名を思い出せば、理由もわかろう」
素っ気無く海姫。
海姫の母親。即ちタ・メラ女王の名はユーフォリア・マドレーヌである。
つまり森姫式の呼び方だと『ゆ~ちゃん』になる。
なるほど。確かにそれは無礼だな。
森姫とて族長をそんな風に呼ぶことは絶対にない。
つ~か森姫、いまの説明を聞いて、手を打って「お~」とか云ってるし。
いままで気が付かなかったのか? こやつは。
「よし、それじゃゆ……ユーディリットをなんて呼ぶことにするか決めよう」
「じゃから、今決めるのはそんなことではなかろう!」
バンバンバン!
海姫、テーブルを叩く。
いらいらいらいら。
流石の海姫もそろそろ限界らしい。
「今日もこんな感じでなし崩しに終わるのかしら?」
「困ったもんだわね。そうそう、サクランボもあるけど、食べる?」
レン・カルナベルが、引きつったような笑みを浮かべて湯のみを持つコロンに尋ねた。
ちなみに、ハーフスヴァルト許すまじなコロン(ハーフヴァルキリー)が、こうしてレンと穏やかに会話しているのには理由がある。
レン、しっかりと全身をファンデーションで白塗りにして、エルフ娘に化けているのだ。
なかなかの事勿れ主義である。
「わ、わふ。提案があるです」
その時、ロボが手を上げた。
「なになに、どう呼ぶの?」
期待に満ちた目で森姫。
こらこら、そうじゃないだろ。
ほら、ロボ、ぶんぶんと慌てて首ふってるし。
海姫が恐ろしい目で睨んでるから。
「ち、違うです。トライフル王国への対処です」
ロボはもはや逃げ腰だ。
「なんでそんなこと考えてんのよ!」
こらこらこら。
本来の目的を忘れるな。
「お主、この会議の目的をなんと思っておる?」
「新ニックネーム検討会」
森姫即答。
あ、さすがに海姫頭を抱えてうずくまった。
まぁ、泣きたい気分なのはわかるけれどさ。
「ロボ、案を云ってください」
コロンが無理矢理会議をすすめた。
もはや会議と呼んでいいのかかなり怪しいが。
「わふ。和平を結ぶです」
ロボが自信満々なくせに、何故だか頼りなさ気に見える調子で提案した。
いや、仲良くしようと思ってれば、連中だっていきなり侵略なんかしてこないと思うぞ、ロボ。
「和平とは、弱者が強者に頼むものではないわ! 強者が弱者に押付けるものよ!!」
また極端な。まぁ間違ってるとは言い切れないけれどね、リュドミラさん。
「和平と云っても、どこの誰にいうのです? タルトを占拠している連中は、所詮は使い走りでしょう」
コロンが口元に手を当て、眉根を寄せる。
確かに、問答無用で意見を云った者を殺そうとしたジョニーには、和平を云っても無駄なような気がする。
恐らくはそのジョニーが、タルト村占拠のリーダーであるようなのだから。
「それにだ、ロボ、ひとつ忘れておるぞ」
「わふ?」
「あやつらは、ローレライに怪我をさせた」
「わふ」
「ローレライはサイレンおばの血縁じゃ」
「わ、わふぅっ!?」
ロボ、椅子から転げ落ちた。
「……もしかして、ぶち切れてる?」
「ここ一ヶ月、不眠不休で対『森羅万象』戦で使った岩バスターとクィンMを修復しておる」
海姫の答に、森姫は頭を抱えた。
サイレンが本気で何かをしでかそうとしたら、それこそこの辺りに大災害が起こるようなものだ。
『森羅万象』に比べれば遥かにマシとはいえ、ロクでもないことになることはまず間違いない。
下手するとエクレア島の主を連れて来かねない。
それは困る。それは困る! それは困る!!
「こ~なったら、あのおばちゃんがなにかしでかす前に、連中をどうにかするわよ!」
流石に森姫の顔にも焦燥感が漂ってきた。
彼女はかつて、サイレンに冗談半分で煮込まれかけた経歴がある。
「とりあえず、和平の件は後にしましょう。いきなり提示しても蹴られるのがオチです」
「そ~よ、連中にあたしたちの実力を思い知らせるのよ。そうすれば、ロボのいってた和平交渉もまともにできるってものよ!」
リュドミラ、さりげなくフォロー。
「では、当面の問題の、あの人型に対する対処法を検討しよう」
「あの人型への対抗手段があればいいんだよねぇ。紐で足を引っ掛けちゃったどうかな」
ティアが提案する。
「対『春一番』戦で使った綱を使ってみる?」
「ロープはそんなにないわよ。まぁ、連中も馬鹿じゃないから、全員が引っかかるわけないでしょうけど」
レンが防衛軍の装備リストをめくりながら答えた。
もっとも彼女が持っている時点で、装備リストというより、台所備品リストに変貌していたりする。
まぁ基本的に、防衛軍は個人所有の武具、怪獣がメインの戦力であるからかも知れないが。
「やらないよりマシです。しかし、場所は考えないといけませんね。被害を抑えるためにも。敵の数は多いですが、タルト村ではなく、ブライニー湖へ攻撃をしたほうがいいでしょう」
「そうね、こうなったら徹底抗戦あるのみよ!」
コロンの言葉に頷き、森姫が拳を振り上げる。
恐るべきサイレン効果。あれよあれよと会議が進む。
もしこの場にサイレンさんがいたら、複雑な気持ちではあるだろうが。
「でも、そうしたらタルト村は!?」
リュドミラが隣の森姫に尋ねた。
そうだ、もちろんタルト村を無視してはいけない。
「大丈夫よ!」
森姫が自信満々に腰に手を当て立ち上がった。
ぐるるん。びしぃっ!
森姫は一回転するとロボに指を突きつけ叫ぶ。
「タルトの平和は、ロボが守る!」
「わっ、わふぅっ!?」
ロボ、あまりのことにうろたえすぎて、完全に狼にまで獣化。
「……あからさまに動揺しておるようじゃが」
「そうですね」
海姫とコロン。
「大丈夫。なんてったって子沢山の平和主義者よ」
なんだよそりゃ。
……根拠になってねぇぞ。森姫。
ほらほら、とうとうウロウロしだしたぞ、ロボ。
「そうやって、完全に犬になれば村に入り放題よ!」
ロボは犬じゃない犬じゃ。狼だ。……一応。
「とりあえずタルトに行って、避難の先導役よ!」
森姫がそういった直後、全員が彼女を凝視した。
あまりのことに、森姫が目を瞬く。
「な、なに?」
「嘘みたい。れ~ちゃんがまともなこと云った」
リュドミラが放心したように呟く。
親友その言葉に、流石の森姫も打ちひしがれた。
シン、操縦席から湖に転落。
そしてシンの『サブレmk-Ⅱ』は勝手に動き出した。
すげぇ、コヴィ、操縦できんのか!?
――って、どこいくんだ?おいおい、そっちはトルテ村で戦場じゃないぞ。
っつ~か、勝手に歩いてるだけじゃないのか?操縦しているわけじゃなくて。
あ~あ~あ~。
「なんという失態。これではサブリナ様に――」
「痛い?怪我してる?治してほしい?それなら『聖光』一回50クランで掛けてあげるわよ」
どこから来たのか、リリエム・イルザーブが、どうにか岸辺に這い上がってきたシンに取引を持ちかける。
「なりません!!」
リリス・アリファがリリエムを突き飛ばすようにシンから押しのけた。
リリエム、両手をばたつかせて湖に倒れる。
ざばっ!
「なにをするのよ!」
ずぶ濡れになりながら首に巻きついたおさげ髪をはらいつつ、リリエムが怒鳴った。
「弱者の弱みにつけこむなど、恥を知りなさい!」
まけじとリリスも怒鳴る。
……拙者、どうなるのでござろう。
例え下が水だったとはいえ、20ラングもの高さから放り投げられたために結構なダメージがある。
するとふたりに気付かれないように三人目がやってきて、シンを担ぎ上げるとその場から逃げ去った。
「か、かたじけない。しかし、拙者は捕虜となるのでござろうな」
「そういうことです。でも、その前に少々楽しいことをしましょう」
コロンは背中のシンに微笑んだ。
「呉君、私が悪かったーッ! あんなアクションなど書くのではなかったーッ!!」
そんな思いが日に日に大きくなる中、ついに『レマンシアの竜騎士』のPA&KBブランチのリアクションが届いた。ここで問題となるのは、これらを読む順番である。PAブランチはどうなっているか楽しみなのだが、KBブランチの方は上記の台詞のような状況だ。はっきり言って、KBブランチを読んで落ち込む可能性は非常に高い。
KBブランチでズンドコになった気分をPAブランチで持ち直すべきか、KBブランチのことを心の隅に追いやりながら、できるだけ真っさらな状態でPAブランチを読むべきか。
>コマンド?
結局、後者を選択。過去の経験から言って、一度落ち込むと、その後楽しいことがあってもなかなか持ち直さないものだからだ。というわけで、早速封を開け、個別シートに目を通し……絶句。
妊娠してるよ、うちのキャラクター。
いや、確かに備考欄に「強そうな男がいたら、粉をかける」とは書いたのだが、まさかこんなにも早くこのような状況に達してしまうとは……。
「私は、忘れはしなかったぞ。あの日、ナニがあったかを!」
先のトライフル王国軍の戦いより三ヶ月余りが過ぎた。この期間、さほど変わったことは起こらなかったが、昨日、決定的に変わったことが起きた。
それはコロン・アットマークが、行方不明となっていたトライフル王国の騎士を捕らえてきたのだ。
というか、真実はコロン嬢がどさくさにまぎれて拉致って、天空城へつれてっちゃったんだけど。
とりあえずこの三ヶ月、なにをやっていたのかは語るまい。
……どうせすぐにわかるし。
さてさてそんなわけで、20ラングもの高さから転落して受けた傷も癒えたトライフル王国騎士シン・タピオカは、コロンに連れられて、この防衛軍仮設本部に連れられて来たのだ。
そして彼は、現在捕虜となっている。
そこで当然はじまるのは尋問である。
相手はあの白い巨人に乗っていた奴だ。
下っ端兵士ということはあるまい。
ということは、色々と知っているはず。
「問題は、どういう順番にするかってことよね」
グリフィール・ファーラウェイが居並ぶ皆に云った。
は? 順番? どういうこった?
「俺は――ちと厄介だから、最後でいいぜ」
レモネード・キャンディが云う。
「あたし一番にして。あんまり時間取れないから」
レン・カルナベルが手を挙げていった。皆の食事を預かるレンとしては、早めに尋問をして皆の食事の準備に取り掛からなくてはならない。
「そうね。それじゃ一番手はあんたね。で次は――」
「ボク!」
クエルノルンのディア・ダークスが手を挙げた。
なんつ~か、なんか違うような気がするんだけど。
面接とかじゃないんだからさ。
まぁいいや。とりあえず今シンのいる捕虜尋問室へいってみましょうかね。
尋問室は思ったよりも広かった。というのも、もともとこういったことを目的としていた部屋ではないのだ。基本的に防衛軍の者が仮眠を取るための部屋である。ふたり部屋であるその部屋は、寝台などを運び出してしまった今、意外に広く感じられた。
部屋の中央には机がひとつ置かれ、部屋の奥側の椅子にシンが……
って、なんだって着ぐるみなんか着せられてんだよ。
怪獣の着ぐるみ、というか、見た目にはなんだか雪だるまの出来そこないみたいな格好のシンの両隣には、ユニ・ハルモニオデオンとコロンが待機している。
いわゆる、見張りである。
「あの……ユニさん」
「なに?」
「この着ぐるみにはなんの意味が?」
熟考した末、どうしてもまともな答が得られず、コロンが遂に尋ねた。
「ふふ。こうしておけば、例えトライフルの連中が彼を取り返しに来ても、まず気が付くはずがないわ」
ユニが声高らかに答えた。
確かになぁ。まさかこんな格好させられてるとは思わないよなぁ。
とはいえ、なんだかコロンは釈然としない面持ちだ。
「それじゃ、キリキリはじめるわよ。最初は誰?」
ユニが扉を開けて、最初のひとり目、レンを部屋に入れた。
「うっ……」
ほら、レンも怪獣の着ぐるみのシンに引いてるし。
「どうしたのよ」
「なんでもないわ」
レン、気を取り直すとシンに近づく。
「あんた、シンっていったかしら。とりあえず騎士団の軍力の規模でも聞こうかしら。えぇ、わかってるわよ。喋る気なんてないんでしょう? じゃあ、たっぷりと可愛がってあげるわ。さぁ、まず服を――」
「ねぇ、キミ。なにひとり芝居してるのよ」
ユニがレンに問うた。
その隣ではコロンが険悪な表情を浮かべている。
バン!
「ちょっとちょっとレン、お昼はど~するのよ! なんだか変なのが勝手に作り始めてるわよ!」
突然ノックも無しに入って来たラチャ・ラチャチャが、レン襟を引っ掴んで詰め寄った。
「なんですってぇ! なんで止めないのよ!!」
「だってあんたがこっちで忙しけりゃ、誰かが代わりに作んなくちゃ駄目じゃない」
ラチャの一言でレンは髪をかきむしる。
「えぇい、森衆の食糧事情を預かる宮廷お鍋番のこのあたしに断りもなく厨房を仕切るとは許せないわ! こうなったら食材の変更よ! そいつを煮てやる!」
やっぱりそうか。目的はそれだったんだな、レン!
コロンとユニは納得した目でレンを眺めた。
かくしてレン、ラチャを引き連れて退場。
面白そうだから、ちょっと厨房へ行ってみよ。
ティアがまずしようとしたことは、どこからか手に入れてきたヤツメウナギにシンを噛ませるというもの。
だが生憎ヤツメウナギは出番前に死亡していた。
次にしようとしたことは、やたらと長い凶悪な針を取り出し、それを爪の間に刺した上に更にハンマーで指をつぶすというもの。
どうでもいいが、そりゃ尋問じゃなくて拷問だ。
それを聞いたコロンが慌ててティアを止めた。
「やだなぁ。冗談だよぉ」
ニコニコとティア。
だがその準備してあるブツはいったいなんだ。
「真面目にやってください」
「うん。それじゃぁ、足、だして」
「は?」
ユニが目をぱちくりとさせた。
「足なんか見てなにするのよ」
「ボクの尻尾でくすぐるんだよぉ~」
ティアの答に、ユニは思わず口をへの字に曲げて、額に指を当てた。
「う~ん、もういいわよ。うん。もういいわ」
ユニがティアの肩を掴んで、くるんと身体を百八十度回転させると、ぽんと背中押して退場させる。
そして次に入ってきたのは殆ど全裸のグリフィール。
「うふふふふ。だんまりは、だ・め・よって、ちょっとなにするのよ。どうして駄目なの? ちょっと~」
血相を変えたコロンがグリフィールを部屋から締め出すと、扉の前に立ちはだかった。
「……ひとつ質問してよろしいでござるか?」
「なに?」
ユニが疲れたようにシンを見た。
「これは……尋問なのでござろう?」
「それについてはわたしももう疑問だらけよ」
ユニはうなだれた。
「次、いきます」
「そうね。さっさと終わらせて、わたしたちでまともに尋問をやりましょう」
まともって、こんな着ぐるみ着せたユニちゃんも似たようなもんだと思うが。
そして扉は再び開かれた。
「次は俺の出番だな」
そういって部屋に入って来たのは――
うっ。
白いハイソックスに黒いビキニパンツ一丁の男。それ以外に身につけているものはといえば、裸の胸にやたらと目立つ紅いネクタイ。即ち、パンツ一丁にハイソックスで真っ赤なネクタイだけの半裸のマッチョマン。ヴァリオ・サイヴァリオンが入って来たのだ。
さすがにこれにはシンどころかユニとコロンも引いて、思わず二歩逃げた。
「さぁ子羊ちゃん、気分はどうかね?」
左手の甲を口に当てて云うはヴァリオ。
いつのまにかその手には鳥の羽根など持っている。
そのときユニの目がきらり~んと光り、いきなりヴァリオを指差し叫んだ!
「さてはキミ、ボンゴ人ね!」
ぼ、ボンゴ人!?
ユニちゃん、またあの攻撃か!!
「なっ!?」
いきなりの謎の断言に、ヴァリオはうろたえた。
「ボンゴ人でしょ!」
「ち、違……」
ヴァリオ、否定しようと声を出す。
「違うの? それじゃキミ、○○○○ね! 不潔よ! けがらわしい! どーぶつ以下ね!」
や、やっぱりそこまでゆ~か、ユニちゃん!
「ち、違うぞ。俺は断じて○○○○ではない! 俺は……。俺は……。俺はただの変態だ!」
ヴァリオの魂の叫び!
ってヴァリオ、ただの変態って。
そんなもん魂で叫んでどうすんだよお前。
「変態? 変態!? 変態ですって!! 不潔よ! 汚らわしい! 見苦しい! ど~ぶつ!」
「うわぁぁぁぁぁ~っ! 違うんだ~っ!」
だだだだだっ!
ヴァリオ、泣きながらその場から逃げ出した。
違うんだって、変態って宣言したじゃんかよ。
「……泣いてたわ」
ユニがヴァリオの逃げ去ったほうを指差して、傍らのコロンに云った。
「いえ、そこで私にふられても」
そりゃ困るわな。
「ひとつ質問させてもらってよいでござるか?」
「なに?」
「防衛軍には、その、ああゆう変わった方ばかりなのでござろうか?」
シンが気を使って遠まわしな表現で云う。
はやい話、変態ばかりかと聞いているのだ。
その質問に、ユニとコロンは悲しそうな顔で互いを見つめた。
答は否だ。断固として否定しなくてはならない。
ならないのだが……。
あのヴァリオのあとでは……。
「あの、勘違いしないで欲しいんですけれど……」
「変態はいまのだけよ。それもあたしも今知ったのよ! あいつはアンナに近づけないようにしなくちゃ」
声高に云ったかと思うと、ユニちゃんは部屋の隅っこを見つめて胸元で拳を握り締めブツブツと……。
あ、あの。なんがすげー怖いんスけど。
アンナちゃんの教育上、アレが凄まじく好ましくないというか、思いっきり悪いのはわかるんですが……
……あぁ、ヴァリオ可哀相に。完璧にユニちゃんのブラックリストに載っちゃったよ。多分なにかの拍子でアンナちゃんの周囲10ラング以内にはいったら、タマちゃん(怪獣『青天霹靂』)の雷を食らうに違いない。
合掌。
「もういいわ。全然すすまないもの。あたしがやるわ。さぁ、キリキリ吐い――」
「拙者、トライフル王国騎士団左団長、シン・タピオカと申す。拙者の任務は海底に眠る我等が祖先の残したと思われる遺物の発掘でござる。されど、それをなんの目的で入手しようとしていたのかは、次期トライフル国王であるサブリナ王女にしか分からぬでござる」
シン、ぺらぺらと喋る。
なんだかユニちゃん拍子抜けで、フライパンを振り上げた格好はなんだか間抜けである。
「え、え~と。それじゃ、キミたちは――」
「残念ながら拙者は学がない故、詳しいことは存ぜぬ。されど、我等の先祖が怪獣を生み出し、その生み出した怪獣『森羅万象』によって地底に追われたことは学んだでござる。もっとも、地底に住まうようになって以来今日まで、やはり地底生活は平穏とはいかず、数々の災害、外壁の崩壊による洪水、天井崩落による住宅街の大惨事。そのようなことが数え切れぬほどあったがために、我等が歴史は失われてしまった。『トライフル』を名乗るようになったのも、わずか4世代前のこと。それ以前の歴史は口伝という形でしか残っておらず、それも切れ切れの瑣末な部分のみでござる。そしていま云ったように我々の生活圏は地底。しかし残念なことにこの地底都市は長き歳月のために浸食し、崩壊の危機が迫っているのでござる。そのため早急に新たな生活圏を模索することになったのでござるが、東は砂、西は海、北と南は強固な岩盤に覆われ、さらに上には『森羅万象』。どこにも逃げ場がなく、街を覆う壁が崩れ、水没するのを待つばかりであったのでござる。しかし、神は我等を見捨てはいなかった。常に我等の頭上にあった封印されし大怪獣『森羅万象』の消失。我等の絶望は希望へと変わったのでござる。遥けき昔より帰ること叶わなかった地上へ立つことを。あまねく恵みをもたらす陽の下で生きることを。拙者たちが行なっていたのは、そのための調査でござる。トライフルの民全てが、墜ちる空(天井)に怯えずにすむ世界へ来るために」
シンはそこまで云って息をついた。
「ちょちょちょちょっとちょっとちょっと。どうしてさっきから訊いてもいないことまでぺらぺら喋るのよ! 尋問する醍醐味がないじゃない!!」
そんなことで怒ってどうする。
「それは、申し訳ござらん」
「え、あ、いや。話してくれるのはいいんだけど。……嘘ついてたりしないわよね」
なんだか複雑な表情でユニが問う。
「すべて真実でござる。我々は地上に戻りたかっただけでござる。しかしながら、ジョニー殿がこのような武力による暴挙にでたことが、いまだに拙者には理解できぬ。なぜこのような暴挙にでたのか。我々はただ、地上で生きる術を学びたかっただけというのに」
ユニとコロンは顔を見合わせた。
確かにそれならタルト村の現状は理解できる。
一種の箱庭として連中は観察しているのだろう。
けれど……。
「その、こんなこと訊いても無意味だと思うんだけれど、嘘じゃない証拠ってあるのかしら?」
「拙者、恋をしたのでござる」
「へ?」
突拍子もない答に、ユニは目をぱちくり。
なんとなくコロンはそっぽを向いた。
「わふっ。こんにちわです」
そしてコロンの目に入ったのは、いつの間に来たのか、小さな木箱を沢山背負ったロボ・シルヴァーナ。
「こんにちは、ロボさん。……なんです? その箱」
「これ、お祝いです」
ロボは木箱をコロンとユニ。さらには縛られているシンにまで手渡した。
箱を開けてみる。
中身は紅白の饅頭だ。
「カール、これはどういうこと?」
ユニが尋ねた。
カールとはロボのこと。彼はかつてその名でトルテ村太陽神教会の番犬をしていた経歴があるのだ。ちなみに、彼は他にもプジョーという謎の名前をもっている。
「わふ。コロンさん、おめでとうです」
「おめでとうって……」
「コロンさん御懐妊です」
ロボの宣言に、コロンは頬を染める。
「でもロボさん、どうしてわかったんです? いえ、隠すつもりはなかったんですけれど」
「わふっ。ぼく、嗅ぎつけたです」
ロボがさも当然の如く答える。
その答えにユニは怪訝な顔で更に問うた。
「嗅ぎつけた?」
「わふっ!」
「嗅ぎつけたって?」
「伊達に子沢山じゃないです」
「いや、そうじゃなくて。言葉どおりの質問」
「わふっ。ぼく、匂いでわかるです」
「匂い?」
「コロンさん、妊娠の匂いがしてます」
ロボが自信満々、胸を張って答えた。
さすがのコロンも顔を真っ赤にする。
ユニはなんだか感心して、ロボを凝視していた。
「って、ちょっとまって」
そこでユニは、はたと重大な事実に気がついた。
「カール、いまキミ匂いで分かるっていったわよね」
「いったです」
「ということは、その、匂いをかぐわけよね」
そりゃそうだな。
匂いをかがずに匂いで嗅ぎ分けるのは不可能だ。
ロボ、しっかりと頷く。
「するとカール! わたしがアンナを妊娠したときも――」
「わふっ。わかってたです!」
ロボ、なぜだかVサイン。
ひぃ。っと、ユニが頭に手を当てて、一瞬息を吸い上げるような微かな悲鳴をあげた。
そしてその直後、ロボをギロリンと睨む。
うわ、こわっ!
「いやらしい!」
顔を真っ赤にしてロボにフライパンをつきつけた。
「いやらしい! いやらしい!! いやらしい!!!」
ぶんぶん振り回されるフライパン。ロボはユニの突然の豹変にたじろぎながらも、部屋の中を逃げる逃げる。
「スタイルで見分けるのならともかく、匂いで嗅ぎ分けるなんてサイテーよ! わたしはキミをそんなふうに躾た覚えはないわ! 修正してやるぅっ!!」
「わ、わふぅっ!!」
怒りと恥ずかしさでますます顔を赤くしたユニが、フライパンを振りかざしてロボに襲い掛かかる!
ロボ、扉を蹴破って慌てて逃走。
「ぅお待ちーっ!!」
その後をユニが必殺のフライパンを振り回しながら追っていった。
部屋に残されたのはふたり。コロンとシン。
「……随分と賑やかでござるな」
「あんなのまだ序の口です。それよりシンちゃん」
「なんでござる?」
「女の子の名前、考えてくださいね」
コロンはにっこりと微笑んだ。
「ふぅ。ここまでくればひとまず安心ですわ」
ほっと息をつき、ユエ・ツァンロンはしっかと掴んで放さなかった手の主に目を向けた。
ユエが手を繋いでいたのは――
「ふっ。なかなか積極的だね、お嬢さん」
ウイロウの大番頭、オーグ・アクセラロン!
「な、なんでですの!? ちゃんとわたくしは捕虜の方の手を――」
ユエは驚いたように辺りを見回した。するとこの濃い霧の中、数人の人影が見える。
もっともこの霧は、ユエの怪獣『霞』が発生させたものだったりする。そう、全てはユエの計画!
「拙者はここにいるでござる」
「いったいなにがどうなってるのよ」
「シン、無事だったか!」
「なんだか周りにやたらと紐が……」
「鳴子みたいですね。カラカラいってます」
ユエの声に答えてざわざわと。
どうやらいるのはオーグのほかに、シン、ユニ、ニコマール、セバス、そしてコロンのようだ。
「どうしてこんなにいるのですか!?」
「私たちも彼に逢いにきたのだよ。そうしたらお嬢さんが飛び込んできて――」
なんだか予想だにしなかった事態に、ユエは困り顔。
「では、わたくしと一緒にトルテへ来てくださいませ。サイレン様がお待ちですわ」
ユエがあらたまった面持ちで皆に云った。
そう、彼女はトライフルに組しているわけではなく、あくまでもシンをサイレンの下へ捕虜であるシンを連れて行くためにこんなことをしたのだ。
……手段を選ばないというところが、サイレンの影響かどうかは定かではないが。
だがニコマールは首を振った。
「いや、私たちはトライフルへ戻る」
「どういうことだね?」
突然のニコマールの宣言に、オーグが尋ねた。
「決心した。姉上は間違っている。私は姉上を弾劾し、民を陽の下に導く! シン、手伝ってくれるか?」
「で、殿下。そのお言葉、拙者、感無量にござる」
シンがニコマールの前に跪いた。
「よし、それじゃ行きましょ。わたしも地下の王国を見てみたいもの。こうなったらとことん行くわよ!」
ユニがそう云ったその時――
「捕虜を逃がしは――」
突如脇から槍を振りかざしたリリエムが襲い掛かってきた。だが――
シュッ! ばちぃん!
凄まじい破裂音がして、リリエム気絶。
そう、いち早く殺気に気付いたオーグが、愛用の鞭で迎撃したのだ。
リリエム、顔面に鞭の痕を張り付かせて失神。
「ふっ。またつまらぬものを……」
おいおい。
「では、はやく行きましょう。ここに長いをしては、いらぬ誤解を受けます」
コロンが促す。
かくして、一行はトライフル王国へと向かった。
「ところで、どうやって君の国にまでいくのかね?」
「この塔に入り口があるでござる。皆には拙者を救っていただいた勇者とすれば、なんの問題もござらん」
シンがオーグに答えた。
「ついにシンちゃんの故郷が見られるのですね」
コロンさんはなんだか嬉しそうだね。
プレイ当時に設置していたウェブサイトを再構成したものです。