1997 『新アトランティス伝説 夢大陸』

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[パンフレット][ルールブック]

キャラクター

設定

[サキ]

名前
サキ
人種|職業|性別|年齢
獣人|武道家|女|17歳
身体的特徴
  • 目は幾分たれめ。人前では、基本的に泣いたりすることはしない。
  • 小柄だが、身体付きはしっかりしている。肌の手入れとかはあまりいい方ではない。
家族構成
実の家族は不明。教会の人達が親兄弟がわり。
過去
  • 拾われ子。神殿の前に捨てられていたのを拾われ、以後、その神殿で育てられた。
  • 幼い頃から身体を動かすこと(特に戦うこと)が好きで、親代わりの神官には反対されたが、武道家としての修業を積む。
性格
  • 口より先に手が出るタイプだが、なんとかそれは意識的に抑えられるようになった。
  • 人見知りはせず、誰にでも気軽に話しかけられるが、自分が獣人であるという引け目があるためか、深入りはしないし、して欲しいとも思わない(獣人であることは、できるだけ隠そうとする。)。楽しい時間を過ごしているときでも、心のどこかで孤独を感じることがある。

  • 生来の部分もあるが、自分を拾って育ててくれた神殿の人達に心配はかけないようにと、「元気で明るい性格」を演じているところも多々ある。
  • 自分が拾われ子であるためか、子供に対しては優しく接する。
  • 時折、衝動的に力を振るいたくなることがあるが、そんなときは聖印を手に祈りを捧げることで精神を落ち着かせるか、武術の訓練を通して昂る気持ちを発散させる。
装備
  • 基本的に法衣を着用。ショルダーアーム、レッグアーマーをつけており、腰には短刀を佩いている。露出度低し。
  • 首から聖印を下げており、精神を集中させるときにはこれを強く握る。
  • 紐に通した指輪をいつも持っている。これは拾われたときの唯一の所持品。

説明

MT3『竜創騎兵ドラグーン』とMT4『サイコマスターズ AD2077.J-File』で同じブランチに参加していた方が主催された同人PBMです。「勇者側と魔戦将軍側とに分かれて戦う」という内容で、私は勇者側に上記のキャラクターを登録しました。

当初は「人間」の「神官」とする予定でしたが、当時連載中だった『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』(源義経編)の武蔵坊弁慶の影響を受け、「心の奥底から沸き上がる戦いへの欲望を抑えようと神官としての修行を積んでいるが、完全に御することはできていない」というキャラクターにしようと「獣人」に変更し、さらに「神官として修行しているが、未だ法力が使えない」ことにすれば面白い負い目になるのではないかと考え、「武道家」になりました。以上のような過程を経て作成したキャラクターでしたので、もっと暗いキャラクターになるはずだったのですが、何故か最終的には「田舎から出てきた世間知らず」がコンセプトの極めて前向きなキャラクターとなっています。

ゲームの方は、圧倒的な文章量を誇るだけではなく、全てのキャラクターに一人称描写と挿絵があるというゴイスーな内容だったのですが、その一方、キャラクター対立型の構造となっているためか、「次回、どこにキャラクターが移動し、どこで戦闘が起きるか」ということがあらかじめ決められていましたので、物語の流れに反逆するアクションを掛けることが多い私にとっては、納得のいくアクションを考えるのがなかなか難しいゲームでした。

なお、私のキャラクターは、第3回にてオーディンの斬鉄剣で宇宙の悪魔の如くまっぷたつにされたものの、敵側キャラクターのレイズを受け復活……というところで、諸般の事情によりゲームは休止となりました。残念。

項目

第01回

リアクション

一人称:サキ

「てやーっ!」

バキバキと潔い音をたてて木は倒れた。

あたしの廻し蹴りは完璧だった。傍にいた神官のカイルは目を真ん丸にして、ぼかんと口を開けている。いわゆる間抜け面。そのまま二、三度ロをばくばくとさせて、くるーりとあたしの方を向いた。

「サ‥サ、サ、サ‥サキ‥」

サ、サ、サ、サって、あたしの名前はサキなんですけど。

「はい?」

「ま、また強くなっているみたいですね‥‥」

「そお? がんばって修行しているからね。でも、もっともっと修行するわよーっ」

あたしはガッツポーズをとってそう宣言した。うっ‥‥カイルがあからさまに顔をひきつらせている。失礼しちゃうわねぇー。まるであたしのことを化け物みたいに見てる。

「なーに、その顔は‥‥いいたいことでもあるの?」

「いえ‥‥別に‥‥。でも、女性はもう少しおしとやかな方がいいと思うのですが‥‥」

言ってくれるわねぇ、カイルってば。まぁ、神官達の中でも一番気がやさしくておとなしい彼だから無理もないんだけど。

そんなに驚くほどのことかしら?

「あら、カイル。女性だからこそ強くなる必要があるのよ。いつどんな危険がやってくるか分からないんですからね」

「それはそうですけど‥‥でも廻し蹴りで木を倒すほど強くならなくても大丈夫なのではないでしょうか?」

‥‥い、痛いところをつくわね。

このカイルは神殿にいる神官達の中で最も年が近くて、あたしの二つ上で現在十九才。ほとんど兄弟のように育ってきたんだけど、性格は正反対と言っていいくらいなのよね。

言葉使いだって丁寧だし、年下のあたしにまでかしこまったように話すんだから、すごいわよね。

やさしいお兄ちゃんって感じかな?

何を隠そう、あたしは赤ん坊の頃、この神殿の前に捨てられていたらしい。そんなあたしを神官だった父様は拾って育ててくれた。

だから本当の両親は分からないし、兄弟がいるのかどうかも知らない。

あたしの本当の両親がなぜあたしをこの神殿の前に捨てたのか、知りたくないと言えばうそになってしまう。

会いたくないと言えばうそになる。

悲しくない、寂しくない、と言えばうそになる。でも‥‥‥捨てられたこと‥‥恨んではいない。

今の父様や神殿の人たちはみんな優しくしてくれるもの。本当に大切にしてくれるもの。

あたしは十分に幸せだわ。

あたしが四つの時、カイルはこの神殿にやってきた。神官になるために修行にやってきたんだけど、実はここだけの話し、あたしはカイルのこと女の子だと思っていたのよね。顔も女の子みたいだったし、すごくおとなしくて、もの静かな子だったんだもの。

ま、今でもそれはあんまり変わっていないんだけど。

あたしより肌なんかも奇麗だし、おしとやかだし‥‥うーん、言ってて落ち込んじゃうわ。

で、まあ、しばらくしてカイルが男の子だと分かってからは、なんて言うか‥‥初恋だったのかなぁ。変に意識しちゃって、わざと意地悪したりしてよく泣かせてたっけ。

そのたびに父様に怒られて‥謝るあたしを カイルは笑って許してくれたんだ。あ、それも今と変わらないわ。

あたしが育ったこの神殿は第六王国のそれはすごい田舎にある小さな村の神殿なの。

この辺りの村にはほかに神殿がないから、あちこちの村の人がここへやって来るわ。そのせいもあって、小さな神殿だけど割とにぎやかかな? あたしもいろいろとお手伝いしているのよ。体を動かすのが好きだから、事務的な仕事より肉体労働派だけどね。薪割は大得意よ。ほとんど第七王国ま国境沿いにあるここはかなり寒い所で一年を通して暖炉には火がくべられている。

もちろん薪はかかせない生活必需品なわけ。その薪をとりに来て、今も木を倒したところなんだけど、一緒に来ていたのがカイルだったからえらく驚かれてしまったわけね。

「あたしはカイルとは違って、強くなりたいのよ。男とか女とか関係ないの」

「そうですが‥‥それについては反対しませんけど、あまり無理はしないで下さいね。サキの体が心配ですから」

カイルは穏やかにそう言ってあたしに笑顔をむけた。

あたしはその言葉が嫡しいような、なんだかくすくったいような感じがして、自分でも顔が赤くなるのが分かって、くるりと背中を向けてしまった。

そんなあたしを、カイルはいつもの笑顔で見守っているんだろうなー、なんて思いながら、振り返ってみると、カイルはさっさと帰り仕度を始めていた。

あ、あれ? そんなのあり? 期待がはずれてがくりとよろめいたあたしにカイルが

サキ、もう日が暮れてきましたよ。早く神殿に帰りましょう」

「はーい‥‥‥」

あたしは、投げやりな感じて返事をして、神殿に向かって歩きだした。

「これが唯一の手がかりかあ‥‥」

夕食のあと、自室に戻ってベットの上に寝転がりながら、あたしは首のひもにひっかけてある指輪を取り出した。

これが、あたしと本当の両親をつなぐ、たった一つのもの。

あたしは、ここの神殿が大好きだし、本当の家族だと思っている。

でも、だけど‥‥本当の両親が分かったら‥‥

トントン

「はい」

そんな時、ドアをノックする音が聞こえてあたしは反射的に返事した。

サキ‥‥起きていますか?」

「あ、カイル。うん、起きてるわ」

「少し、話があるのですが‥‥」

カイルはそう言って、遠慮がちに部屋に入ってきた。

「その‥‥サキは将来をどうするのでしようか‥‥?」

あたしの前に腰をおろし、ためらいがちにカイルはそう切り出した。

‥‥切り出すまでにえらく時間がかかっちゃって、ちよっぴりムカついて、げんこつおとしたりしちゃったけど、それはお約束ってやつね。

「は?」

あたしは、えらく間抜けに返事した。

何よ、いきまりそれは!

「あ‥‥いえ、その、言い方がよくなかったようですね‥‥」

その通り! こくこく領くあたしを見て、カイルは困った顔をしたけど、困ったのはあたしの方だって!

「実は‥‥少し前に夢を見たのです。サキが‥‥どこか遠くで戦っている夢です」

「それって‥‥いつもの夢?」

「それが、はっきりしないので、私にも分からないのです」

いぶかしむカイル。

カイルは昔から‥‥いわゆる予知夢というものをよく見ていた。カイル自信もその夢を見ると夢を見ながら、これは夢ではないと分かるらしい。

だけど、今回は本当に分からないようだった。

「ふーん‥‥それで、将来どうするか‥‥なんて聞いてきたわけね」

「え、ええ‥‥まあ。あまり夢がはっきりしないので、例の夢ではなくただの夢なのかもと‥‥サキはいつでも武道家を目指して修行していますから、それが頭の中に残っているだけだったのかもしれません」

本当は神官を目指していたんだけどね‥‥と、あたしは子供の頃の思いをチラッとつぶやいてみたけど、しよせん心の中でのつぶやきなので、カイルには届かない。

「‥‥ま、今はまだ、そんな先まことなんて考えていないわよ」

「そうですか‥‥だったらいいのです。すみません、こんな遅い時間に」

安心したのか、カイルは照れ笑いを浮かべて部屋から出て行った。

あたしは‥‥というと、実はカイルの言葉が気になっていたりする。遠くへ行って戦っている夢だなんて、本当に唯の夢なんだろうか‥‥他の人が見た夢ならともかく、カイルが見た夢だなんて‥‥

もしかしたら‥‥

「うーん、やめやめ、もう寝ようっと」

あたしは頭を大きく振って、ベットに潜りこんだ。

そして、その翌日不思議な声を聞くことになる。

『勇者よ‥‥第六王国へ‥‥』

三人称

第六王国とはいえ、外れにある小さな村の神殿で育ったサキは、国の中心部にある神殿を目指して旅をしている。

服装は法衣で、背中には大きめのリュックを背負っている。そのリュックの中身はというと、簡単な旅用品と武道用品など。

年ごろの娘にしては、装飾品やら化粧品などに興味を抱かず、どちらかといえば野性美といった感じか。

旅をしている目的はというと、『勇者よ、第六王国へ‥‥』という呼び掛けに従ってのことなのだが。

歩きながらサキは思う。本当にあたしが勇者なんだろうか、と。

あの日、村であの声を聞いたのはサキだけだった。神殿のみんなは笑っていたけど、父親だけは真剣な顔で行くようにと言った。

もともとサキは村の神殿の前に捨てられていたらしい。それを神官たちが拾って神殿で育ててくれたのだ。父親といっても本当の父親ではない。だから自分が本当はどういう生まれなのかは分からない。ただ、唯一の所持品の指輪がかなり高価なものだということくらいだ。

「父さまはあたしに行くように言ってくれたけど、どうしてなのかしら‥‥他のみんなは笑って信じてくれなかったのに‥‥‥」

あの時の父親の真剣な顔を思い出す。

「父さまは何かを知っていたのかも‥‥」

そう思いながらも、サキには父親の考えていたことなど分かるはずもない。ただ、呼ばれていることは確かだし、父親も行くようにと言ったのだから行くべきだ、としか認識していないのだ。

それでもまあいっか。などと思いながら、軽やかな足取りで歩いている。

「それにしても、どうして『勇者』なんだろう‥‥‥。どうして行かないといけないんだろう‥‥。何かあったのかな?」

でも何が?

もちろん、この時点ではサキには分からなかった。未だエンペラーの反乱を知らず、神官レギオンが勇者を集めてエンペラーと戦うつもりだ、などということは。そのうえ各国へは魔戦将軍が派遣されてしまっているということなど。

たとえ知っていたとしても、サキはレギオンのもとへ行くだろうということは、あるいは父親は分かっていたのかもしれない。だからサキから呼び掛けのことを聞いて、おそらく戦うことになるだろうと分かっていて、それでもなお行くように言ったのだろう。

サキが幼いころから、反対されても武道家としての修業をやめなかったのは、もしかしたらこの時のためだったのかもしれない。

サキは首から下げている聖印を強く握り締めた。いつもは精神を集中させるときにそうするのだが、今はこれから先のことを思っての行動だった。

とはいえ今はまだ街までの旅の途中、村を出たことのないサキにとって、見るものすべてが新鮮でドキドキする。ついついあっちへこっちへと目移りしながら楽しんでいた。

「うわぁ、おっきな建物‥‥。あ、あれ何だろ? わっ、すごいーきれいだわ!」

一人で驚嘆しながら歩いていくその姿は、道行く人たちの視線を集めたことは言うまでもない。

「エンペラーはすでに動きだしている。諸王国では魔戦将軍によってかなりの被害も出ているという。お前たちには立ち上がってもらわねばならない、このアトランティスを守るために!」

レギオンの言葉は途切れた。

集まった『勇者』たちの表情は、みな厳しいものへと変わっている。にわかには信じがたい話だ。いや、信じたくないというべきだろうか。

しかし集まった『勇者』たちの思いは様々だった。

「ずいぶんと勝手な言い分じゃねえか」

真っ先に口を開いたのはセヴィルだった。

「それはどういう意味ですか?」

聞き返したのはレギオンではなくサラで、それに同意してエストリスが言う。

「エンペラーが反乱を起こしたのは紛れもない事実です。僕のいた国は魔戦将軍が派遣されていました」

「そうよ、そのおかげであたしは仕事ができなくて困ってたんだから」

と腹立たしげに言ったのはアルテミアだ。

「俺が言ってるのは反乱のことじゃない。勝手に集めて戦いに行けって言ってることのほうだ」

セヴィルの意見は一同に衝撃を与えた。

「でも、誰かが戦わなくては、エンペラーの思うままになってしまいます‥‥‥」

遠慮がちに、それでも意志の強さを内に秘めたサキの言葉だ。そして、不安そうな顔をしながらも、それに同調したのはネイビーだった。

「そうだよ、自分の力が役立つならそれを果たすべきじゃないかな」

「冗談じゃないわよ! 自分とこのゴタゴタは自分とこでケリをつけなさいっての。自慢じゃないけど、あたしはただの女子高生だよ? 攻略本もリセットボタンもなしに、そんな無謀なことできるわけないじゃないっ!」

と、すごい剣幕で怒鳴ったのは言わずと知れた望だ。その中の、ただの女子高生という意見には、他の二人の未来人、要と難姫も同感だった。

「あたしも望さんと同じ、ただの女子高生だもん、もうちょっと人選考えたほうがいいと思うけどな」

他人事だと思って聞いていた話が、いきなり自分に降り掛かってきているので、少々慌てた要の意見だ。

部屋に入ってからアルティナは泣き通しだった。無理もない、たった一人の姉が永遠の眠りについたのだから。

カルタスはそんなアルティナを、ただ優しく抱き締めて気が済むまで泣かせてやった。

涙と一緒にアルティナの悲しみが流れていくように祈りながら。

そんなアルティナの様子を、心配そうにサラとサキとアルテミアが見守っていた。

「何もかもエンペラーのせいなんですね」

怒りを込めてサラが言った。

「あたしたちが戦わなくてはいけないんですよね」

サキは不安を隠しきれない様子だが、それでもエンペラーに対する怒りが勝っているようだ。

「そうよ、すべてエンペラーが悪いのよ。あたしたちがやっつけなくちゃね」

アルテミアはウインクをした。

それに答えてサラもサキもうなずいた。そして三人は笑って、しばらくお喋りに花を咲かせた。

一人称:オリアス・デン・ローウェル

「ここが・・・そうなの?」

「ああ」

と、ネイビーが答えた。

目の前の・・・今にも潰れそうなテントを見て僕は・・・どういう顔をしていたんだろう。

「有名な占い師らしいわ。あたしここに来る時けっこう道に迷ったから、その時色々情報を聞いたの」

と、ネイビーの傍にいたサキ・・・少女が言った。

二人はやっばり僕と同じように気分転換に街に出て出会ったらしい。僕はとりあえず二人に実家の事が心配で占いをしてもらいに街に出たと言った。その途中、あのアバズレ女にお店に引き込まれそうになったと・・・。

そうしたら、連れてこられて来たのがこのテント。今日は嘘ばかりついているな。いや、いつもの事か・・・

「あたしね、この国に来て真っ先に神殿に行ったのよ。そうしたら全然相手にされなくて・・・仕方ないから、とぼとぼ歩いていたら、ここのテントを見つけたの。そしたら中のお婆さんが声をかけてくれて、占ってもらったの。そして、その後、街を歩いていたレギオン様と会ったんだ。」

と、サキが言うと、

「へえ、何を占ったの?」

ネイビーも初耳だったらしくて、サキに問いかけた。だけど、

「・・・な・い・しょ」

と言って、サキがウィンクした。

「ケチだなあ」

と、僕は笑った。

まあ無理に聞く気はない。別段興味はないし、何より人には言いたくない事だってあるだろう。

それより、サキはレギオンに出会ったのは偶然だと思っているみたいだ。街を歩いているレギオンと勇者が偶然出会ったねえ・・・すごい偶然だこと。

まだまだ、何かありそうだな・・・ま、おいおい分かるだろう。そんな事より・・・

「ネイビー。変じゃない?」

「何が?」

「だって、女の子って苦手だって言ってたのに、サキとは平気で話してるじゃん」

「えっ・・・」

僕が突っ込むとネイビーはびっくりしたように、サキを見た。

「そ、そういえば・・・って、突っ込むなよ、オリアス!」

「何だぁ、照れてるのぉ?」

「こらっ!」

赤くなるネイビーをつっつく。

サキも赤くはなっていたけど、楽しそうに笑っていた。僕も声を上げて笑って、とりあえずこんなのもいいかな、なんて思った。こうして、純粋に馬鹿をやっているのは考えていたよりずっと楽しかった。

でも、ちょっと残念。サキって僕の好みでもあるんだよね。ま、いいか。第一僕達はみんな出会ったばかり。チャンスはいくらでもあるさ。

その後、僕は占い師のところへ行ったけど、サキを占ったというお婆さんはいなかった。

ネイビーががっかりしたように、テントの中から出てくる。

「ちょっと用があってどこかの国に出たみたい。当分帰ってこないだろうって」

素早くその辺から情報を仕入れたサキが言った。

「残念だよなぁ」

何を占ってもらいたかったのか、ネイビーが本当にがっかりした顔を見せる。

「仕方ないよ。占い師なんていっぱいいるさ」

そう言って僕は二人と一緒に帰る事にした。

だけど、占ってもらわなくて良かった・・・と、後から思う事になる。みんな行方不明だなんて・・・今の僕は知るよしもなかった。

第01.5回

プライベート・リアクション

preface

夢見望さんのプレイヤーさん「未来人である望さんが持っているポケベルやカメラなどを見まして、質問責めをするかもしれませんが、そのどきはどうか御容赦ください」といったことを記載した手紙をお送りしましたところ、そこからわずか2週間の間に頂戴することとなった3本のプライベート・リアクションです。

ちなみに最初の『ディア・フレンズ』は、私のキャラクターの一人称となっています。

『ディア・フレンズ』

夜もずいぶん更けていたけれど、街へ出ようと部屋を出た、あたしの耳に妙な音が居く。

ごん。

鈍い音。って……。なんだろう、と振り返ったあたしの視界に飛びこんできたのは、廊下の壁とお友だちになっている、茶色い髪の女の子の姿だった。

えええっと確か……レギオン様が未来から召喚したという『勇者』の方たちの一人よね。名前は、確か……。

「あ、あのう……望、さん?」

返事が……ない。それどころか、望さんの体はそのまんま、ずるずるっとへたりこんでしまって、ええぇぇえええっっ?

「望さん! どうかしたの? 気分でも悪いの?」

あたしは慌てて駆けよって、望さんを助け起こした。とりあえず熟はないみたいだけど……やだ、どうしよう?

と。

「だ……大丈夫……」

呻くように、望さんは呟いた。

「ちょっと頭使いすぎただけだから……」

「あ、頭?」

「うん。もーっ、こんなに頭使ったのってうちのパソのホームページ立ちあげたとき以来だよぉ……うううう、脳みそが煮えてる……」

「そ、そうなの……」

……ぱ、『ぱそのほーむペーじ』ってなんだろう? 気にならないわけじゃなかったけど、とにかくあたしは頷いた。

ややあって、

「えっと、サキさんだっけ? ごめん、失態さらした」

望さんは完全復活、しゃきんと立ち上がる。ぱんぱん、と頬を叩いて。あたしを見あげてるのは、風変わりな色合いの瞳。

「なにをそんなに頭を使ったの?」

「ん、ちょっといろいろ情報収集を……ほら、あたしってば、この世界に関すること、なぁんにも知らないからさ。みんなにいろいろ聞いてたの」

望さんはあっさり『情報』で片付けてたけど、後で聞いてみるとその『情報』というのはとんでもなく広範囲に渡るものだった。単にエンペラーのことにとどまらず、政冶・経済・歴史……確かに頭もゆだっちゃうわねって、あたし納得してしまったもの。

「ちょうどよかった。今、少し時間いい? サキさんにもいろいろ教えてもらいたいんだ」

「あたしだったら全然構わないけど……でも、お役にたてるかなぁ……」

あたしは第六王国の外れの小さな村で育ったし、ここに来るまではエンペラーの存在さえ知らなかったんだもの……。そのこともはっきり言ったんだけど、望さんは笑って手を振った。

「ううん、ぜーんぜんオッケー、ノープロブレム。だってあたし、それ以上にここの常識判ってないんだもん」

「常識?」

「そ、常織。だってあたしのいたところでは『剣』も『魔法』も、『勇者』って奴も、ゲームと小説の中にしか存在しないものだったんだ。そんなもの実在しないっていうのが常識だったんだから」

「そ、そうなの……」

あたしは『魔法』がない世界と言うのを想像しようとしてみたんだけど、うまくいかなかった。当たり前かな。

「じゃあね……んっと」

なにから聞こうかなぁ、なんて言いながら、望さんは手に持ってた白っぽい表紙の手帳を開く。中にはさんであったペン……って、あれ、ペンよね? あたしには黒いペン軸に見えるんだけど、それのおしりを親指でちきちきって二、三度押して……そしたら……えぇっ?

「ええっ? なにそれなにそれ?」

あたしは思わず身を乗り出してしまった。

「何が出てきたの、そこから?」

「……芯」

あたしの勢いにたじろぎつつも、望さんは答えてくれた。

「あたし筆圧強いから、ふつーのシャープじゃなくて、製図用の0・7ミリを……って、そ-ゆ-問題じゃなかったね……」

……途中で消えてしまった言葉。どうしたのかな、ってあたしが困っていると、望さん。

「……そっか」

くすっ、て。肩の力が、ふわっと抜けて。

笑った……?

「そうだよね。ここ、二十世紀の日本じゃなくて、アトランティスなんだもんね。シャープなんて、あるわけないんだ★」

くすくすくす。

なんか……意外。望さんって笑うとすっごく可愛いっていうか、普通って言うか……。先刻、レギオン様にくってかかっていた時とは、別人みたい……。

でもあたし、なにかへンなこと言ったのかしら?

「あ、あのお……」

「あ、ごめん。サキさんのこと笑ったんじゃなくって……なんていうのかな。ちょっと、嬉しくって」

「……嬉しい?」

「うん。だってあたし、ここに来てからずーっと人に聞いてばっかりで、教えてあげられることってなんにもなかったんだもん。なんか自分がすっごいお荷物みたいでさ。まいってたんだ」

……そんなこと、思ってたんだ……。

「いろんなことが判らないのはお互いさまよ。あたしだって、どうして自分が『勇者』なのか判らないんだもの」

あたしがそういうと、望さんはも一度微笑んだ。

「あたしも。他の人……セヴィーとかは剣が使えるし、そういうんなら判らないでもないけれど、でも、あたしはほんとに何もできないんだもん。いっそ敦が呼ばれればよかったのよ。あいつ、こーゆーシチュエィション、ネコにマタタビで好きだからさ」

「「あつし』……さん?」

「あ、あたしの……友達って言うか……『連れ(ダチ)』かな。ファンタジーとかSFとか好きなオタクなんだ」

「そ、そうなの?」

『ふぁんたじー』……『えすえふ』……け、見当もつかない言葉なんだけど、望さんの口調からすると、なにか危険だったりいかがわしかったりするものなのかしら? 後でまた聞いてみようっと。

「だから『勇者』なんて言われたら、すっげー張り切るだろな、あのバカ。『白百合の聖女』……じゃなかった、雛姫さんもいるし。きっとビデオ回しまくって……と」

まじまじ。望さん、突然、あたしのことを凝視した。あたし……じゃ、なくて、あたしの……服?

「……そっかあたしもカメラ持ってたんだっけ。ねえ、サキさん。写真撮ってもいい? その服、敦にも見せてやりたいんだ」

「しゃ、しゃしん?」

ああん、望さんっ! あなたの言う事って、判らないことばっかりなんだから!

「……って、なに?」

「あ、そっか。ごめん。写真って言うのはねえ、……ええっと」

望さんは、手帳のページをぱらぱらめくると「これ」って、あたしに向けて差し出した。

小さな……あたしの親指くらいの大きさかな。それくらいのサイズの、つやのあるラベルみたいなものが、そのページにはぎっしりと張り付けられていて。

「あれ? これって……望さん?」

お花とかイラストとかそんなもので縁取りされたラベルの中に、望さんの顔がある。すごい、そっくり!

「そ。これが写真のちっちゃいやつ。プリクラってあたしたちは呼んでるけどね」

つまり『写真』って言うのは、すっごくリアルな肖像画……みたいなものらしかった。人間だけじゃなくって、景色も撮れるれるって望さんは言ってたけど、どういう仕組みなのかなあ?

望さんが『カメラ』を取ってくる間、あたしはしげしげと『プリクラ』に見入ってしまった。

望さんって、友達多いんだなあ。何回も一緒に写ってる男の子がいるけど、これが『あつし』って人なのかしら?

 

……ここに、あたしの知らない『常識』がある。

『魔法』のない世界。

でも、これって立派な『魔法』じゃないかしら?

 

「じゃ、撮りまーす」

ちっちゃな四角い緑の箱を目の前に掲げ、望さんが嬉しそうに言う。

「3・2・1、でシャッター切るから笑ってね。3…2…1」

パシャッ!

「きゃああああああっ!」

叫んだのは……あたし。

びっくりしたびっくりしたびっくりしたあぁぁっ!

だって、だってねっ。突然、目の前で、ちっちやな太陽が爆発したみたいな閃光が炸裂したのよ?

思わず胸の聖印を握りしめ、あたしは望さんにくってかかってしまった。

「望さん、ひっどおいっ! いきなりライトニング・ボルト唱えるなんてっ!」

目がしぱしぱして、開いていられないようっ。

「ちょっと待ってよ、そんな器用なことができるわけないでしょ、このあたしにっ! ただのフラッシュだってばっ!」

「呪文の詠唱もなしに、そんなことができるの? ……だからレギオンさまは、未来人を召喚したのねっ」

「……なんか、すっご-い誤解してるでしょ。サキさんってば」

ちょっと残念なのは『写真』はすぐに見られるわけじゃないっ、てことだった。お店に持っていって『現像』してもらわないといけないんだって。あたしがどんな風に見えているのか、知りたかったんだけどな。

「まあ、これぱっかりはどうしようもないもんねぇ……デジカメならその場で見れるけど、インスタントじゃなー。……あ、そうだ。じゃ、替わりにこれあげるね」

……『プリクラ』一枚もらっちゃった……。

「……いいの? 大事なものじゃないの? せっかくお友達と一緒に撮ったのに」

「ううん。あたしはいつでも撮れるから」

そんな事を言ったけど、でも。望さんの表情がさっと曇ったのをあたしは見逃しはしなかった。

 

『プリクラ』をいつでも撮れるのは、望さんが元の世界に戻ってからなのよね。

 

「……望、さん」

「なに?」

「あの」

言いかけて。でも、うまい言葉が思いつかなくて。

「……あの、明日からよろしくね。あたし、旅慣れていないから、いろいろ迷感かけるかもしれないけれど……」

「それはこっちの台詞だって。あたしこそ、よろしく。クレイトー集めて、エンペラーさくさくっと倒そうね★」

望さんはそう言うと、「あと、話を聞いていないのは……」なん、てぶつぶつ言いながらどこかにいってしまった。

先刻、なにげに望さんが言った言葉がよみがえる。

『あたしにできることったらとりあえず、考えることだけだから』

 

望さんにできること。

そして、あたしにできること。

あたしがここにやってきたのは、レギオンさまに『呼ばれた』からで……父さまも行くようにって言われたし……。

どうしてあたしが『勇者』なのか、それはやっぱり判らない。

でも、少し見方を変えるなら。

望さんにとっての常識があたしにとっては魔法であり、あたしにとっての『常識』が、望さんにとっての『魔法』であったように。

あたしにも、できることはある。

少なくとも、あたしは………戦える。

父さまにどんなに嘆かれても武道の鍛錬を止めなかったのはきっとこのためだったんだ。

今のあたしにエンペラーを倒せるとは思わないけれど、望さんや他の人……アルテミアさんたちを守るくらいのことはあたしにだってできるはずだもの。

だから。

「……『とりあえずできること』、か」

そうね、まずは街に行ってみよう。昼間、あたしを占ってくれたおばあさんを探して、ちゃんとレギオン様に会えましたって言わな

いと。心配しているかもしれないものね。

あたしは背筋をしゃんと伸ばして、軽い足取りで歩きだした。

『ファジィな痛み』

災難は、忘れた頃にやってくる。

なーんて、実際よくも言ったものだと思う。

本当に……ほんとに、あたし、忘れていたんだ。

 

きっかけは、サキさんのなにげな一言だった。

その日……というか、その時。あたしたち……サキさん、アルテミアさん、でもってあたし、レギオンが召換したところの未来人である夢見望(くそう、早く結婚でもなんでもして、名字だけでもまともになりたい……)……はキャンプの焚き火の前で、火の番しつつおしゃべりに花をさかせてたわけ。

話題はいろいろ変わったんだけど、結局のところは、あたしの……『未来の話』っていうのかな? だってほら、あたしもこの大陸のことや習慣をあれこれ二人に質問するんだけど二対一じゃない。割合的にどうしても、二人があたしに質問して、あたしが答えるってかたちになってしまうんだ。

ひとしきり、あたしの持ち物や学校のこと、普段の生活や社会習慣のことを話してて……ふっ、と話題が途切れた瞬間だった。

サキさんが、その質問をぶちあげたのは。

 

「未来のアトランティスって、どうなってるの?」

 

小首を傾げてにっこり笑って……だけど、茶色の瞳は興味津々、わくわくの好奇心をたたえて。

だけど、あたしはかたまってしまったんだ。

 

理由なんて、言うまでもないよね。

そう。

少なくとも……あたしが住んでた二十世紀の現代社会には、アトランティスは存在していないんだ。

信頼していた友達に、背中から不意打ちくらったって、たぶん、この時のあたしの心境だったに違いない。

本当に、どうしてこんなことに気がつかなかったんだろう……。このあたしともあろうものがっ。

アトランティス。ギリシアの哲学者プラトンが、その著書(『ティマイオス』と『クリティアス』だったっけ?)の中で触れている……と言われてる、伝説の大陸。

そしてアトランティスははるかな昔に、突然の天変地異によって海に沈んでしまったとか。

……実は、敦がこの手のトンデモな超大陸伝説に、どっぷりとハマってた時があってさ。やれアトランティス人は超高度な科学文明を持っていたとか、オリハルコンっていう謎の金属使って宇宙船を作っていたとか、マジで信じていたんだよね。で、あたしはいちいちそれにちゃちゃいれて。プラトンの本コピーしに、国会図書館まで行ったこともあったっけ。

アトランティスっていうのは、架空の大陸なんだ。

プラトンが書いた本そのものが、フィクションなんだもの。海底調査によって、大西洋に巨大な大陸が沈んでいる可能性は否定されてるし……あ、でも、ちょい待ち。ここって大陸っていうよりは、むしろ島に近いよね?

「望さん?」

サキさんの声に、あたしははっと我に返った。

「あ……うん。えっとね」

ど、どうしよう。言えないよ、こんなこと! 未来にアトランティスはありません、なんて!

「その……ごっ、ごめん!」

「え?」

ぱっと頭を下げるあたし。びっくりしてるサキさんの気配。

「じ、実はさぁ、あたし、世界史選択じゃないのよ」

「え……?」

「ほらぁ、さっき言ったじゃない。受験戦争が激しいから、勉強内容片寄りまくりだって。……あたし日本史選択なんだわ。だから世界情勢にうといのよ」

「そ……そうなの?」

「そうなの」

えーい、断言しちゃえ! 断言! 三段論法もディベートも、あたしの得意技なんだから!

「おまけに日本……あたしの住んでる国ってば、つい最近まで鎖国政策とっててさ、外の情報ってば極端に少ないの」

嘘は……言ってない。言ってないぞ、うん。日本が開国してから、たかだか百年ちょっとしかたってないんだからっ。

「だから、ごめんね。今のアトランティスがどんなかってのは、あたしもよくわかんない。でも、観光客が多いって聞いたから、きっと綺麗な……素敵な国なんだと思うよ」

「……そうなんだ……」

サキさんが、微笑む。ふんわりと。

「じゃあ、あたしたちのとってる行動は、間違ってはいないのね」

え……。

あたしは息を止める。

「サ……サキさん?」

「だってそうでしょ? レギオンさまもおっしゃってたじゃない。エンペラーがこのままアトランティスを支配したならば、この大陸は滅んでしまうって」

…………。

「でも、未来のアトランティスがそんな国なら、大丈夫よね。あたしたち、エンペラーを倒せるんだわ」

…………。

あたし……あたしってば……。

あたしが黙ってしまったから、この話は打ち切りになっちゃったんだけど。

 

あたしはその日の晩ごはんを、飲みこむことができなかった。

 

……そうなんだ。

どうして気付かなかったんだろう。

 

そんな状態なものだから、当然のように、あたしは寝つくことができなくて。

毛布だけ持って、こっそり寝所を抜け出す。

外は満矢の星空だ。肩に毛布を巻きつけて空を見上げれば、馴染みの星座を幾つかトレースすることができる。

……昔はもっと、たくさんの星座が判ったんだけどね。いつからだっけ、空に星が見えなくなったのって。こんなにたくさんの星がある空は、かえってあたしにはよそよそしい。

召喚されたばかりの頃は、それでも、見慣れた星座を見つけるたびに、ここはおんなじ地球の上なんだって、自分を慰めることができたんだけど……。

……まったく知らない星座ならよかったって、今、初めて思ってしまった。

そうしたら、サキさんにあんな嘘つかなくてすんだのに。こんな思いをすることもなかったのに。

二十世紀に、アトランティスは存在しない。

でも、あたしはアトランティスにいる。過去の世界の。

そして生じる、当然の課題。

『ソレデハ、ナゼ、現代ニあとらんてぃすハ存在シナイノカ?』

天変地異が起こって、沈んでしまったから。

『ナゼ、天変地異ハ起コッタノカ?』

あたしはたまらなくなって、毛布に顔を埋めてしまった。

結論出すのが怖い。まさか……まさか。そんなのって、あり?

あたしたちがやってることが、全部ムダになってしまうって。全然なんの実も結ばなかったって。そんなのって……。

どれくらいそうやって、きりきり痛む胃を抱えていたんだろう。

「望」

柔らかな声と一緒に、あたしの肩に触れた、誰かの手。

「アルテミア……さん?」

「なにしてるの、こんなところで」

アルテミアさんはあたしの隣に腰を下ろす。ふわっと香る、いい匂い。大人の女の人の匂い。

「なに、って……」

「下手な言い訳はしなくていいのよ。見れば解るから。年頃の女の子が、まぁ、ひっどい顔しちゃって」

暗がりでよく見えないけれど、笑ってる……のかな。あたしは慌てて顔をこする。やだ、泣いてた? 大失態!

「望」

おたおたしてるあたしに構わず、アルテミアさんは言葉を継いだ

「あんた、何かを知ってるのね」

「え……」

「もっと早くに気づいてしかるべきだったわ」

一人言のように、アルテミアさんは言う。

「あんたたちは未来から、ここに召喚されて来たのだもの。当然、これから先の歴史を……あんたちにとっては『過去』の……歴史を知っているのよね」

「…………」

「竪琴弾きなんてやって、たくさん歌を歌っているとね。作り話ってすぐ解るようになるの。サキは……あの子は世聞知らずだから、あっさり信じたみたいだけど、あたしには、解る。あんたは必死で作り話をしてた。ま、とっさにでっちあげたにしては上出来だけど、それじゃまだまだ、男なんてだませないわよ?」

「だます……って」

ったく、なんて言い方よ。アルテミアさんじゃなかったら、あたし、殴ってるところだよ?

思わず、ゆるむ、口もと。

「あら、笑ったわね。じゃ、話ももうできるかな」

「……うん。でも、あたし……」

「いいのよ。言いたくないなら、言わなくて」

アルテミアさんは、あたしの頭をぽんぽんと叩くようになでてくれた。

「……いいの?」

「ええ。悪いけどね、あたし、自分の運命は自分で決めたいクチなのよ。運命と宿命の違いって、知ってる?」

「……ううん」

あたしは首を横に振る。

「宿命っていうのはね、これはもう、生まれつき定まっていて変えられないもののこと。でも、運命っていうのはそうじゃない。決まっているのは大体の方向だけ。後は、目分でなんとでも変えられる。そういうモノなの」

「……レギオンはあたしがここに来たのは運命に選ばれたからだって言ってた……」

「そう。そしてそれは、望がレギオンの召喚に応じたからよね。あたしが思うに、レギオンの声を聞いた未来人は、あんたたち三人の

他にもいたはずだわ。けれど、応じたのはあんたたちだけだった。そして、あんたはここにいる」

「…………」

「未来は変えられる。そう思っていけないって理屈はないわ」

アルテミアさんはそう言うけど。でも。

それじゃあたしが未来に戻った時に、アトランティスが実在なんかしちゃってる……そんなこともあったりするんだろうか?

あ、なんかそんな主題のSF読んだ記憶がある。過去に戻って、一匹の蝶をうっかり殺してしまったばっかりに、以後の歴史がすべて狂ってしまう、そんなSF。

タイム・パラドックス。アンビバレンツ。

レギオン。あんた、一体、何をしたの?

あたしは今、どこにいるの?

この行動は、ほんとに正しいの? 間違いだったりはしないの?

あ、まずい。思考の袋小路に入りこんでるの、自分で解る。こういう思考パターンの時って、大体、ろくな結論にならないんだよね。

そんなあたしを横目で眺めて、アルテミアさんほまた笑ったようだった。

「おせっかいついでにもう一つ忠告をあげるとね。夜にする考え事ってのは、ろくな実をつけないものなのよ」

「……そうだね。うん、そうだった」

あたしはよっ、と声かけて立ち上がった。

「……あたし、もう寝るね。おやすみなさい」

「ん。おやすみ。なんなら子守歌でも歌ってあげるわよ?」

あたしは好意に甘えることにした。

アルテミアさんの優しい声を聞いてると、遠かった眠りの波が、ひたひたよせてくるのがわかるみたいだ。

ぼうっとなった意識が、深い睡魔の淵にすいこまれる、その最後の一瞬に……。

あたしはサキさんのことを思った。

嘘ついてごめんね、って。

でも、今のあたしにあれ以上の事は言えない。今とってる行動が最善の結果を生むのかって、それさえも判らない現状のあたしには。

ひょっとしたら……あるいは……ううん、もうやめよう。

信じるしかない。自分自身の選択を。その選択をする自分自身を。

変化してしまうかもしれない未来が怖くないわけじゃない。でも、それと同等に……あるいはそれ以上に……。

ここで知り合った人たちを、なくしてしまうのがあたしは怖い。

 

すべての答えが出るのは、エンペラーを倒してからだ。

努力が常に最善の結果に結びつくとは限らない。それは判っているけれど……いや、それだから、かな。

あたしは初めて、神様にお祈りしてもいいと思った。

 

どうか、すべてがうまくいきますように。

みんながみんな、幸せな『結末』を迎えることができますように。

そして、かなうことならぱ。

楽しみにしてたコンサートに間に合うように、何一つ変わることのない、あたしの世界へ戻ることができますように……。

『インターリュード・カリビアン・ブルー』

「エウロース……南東からの風の神 軽やかに天駆ける旅人たちよ どうか私に教えておくれ 南のきらめく海の碧 カリビアン・ブルーという色は 空の高みにもあるものなの?」

 

切りだすのは、大抵が望だと決まっている。

「ね、アルテミアさん。なにか謡ってよ」

第八王国へと向かう旅の途中のちょっとした小休止。あるいは、食事の後のたわいないおしゃべりが、ふっと途切れた一瞬。ちいさな町の宿屋の一室、眠りにつく前の静かな一瞬。未来世界から『勇者」として召喚された小柄な少女は、ことあるごとにアルテミアの歌をききたがった。

「また? 別にあたしは構わないけれど……」

「えへへー。だって、アルテミアさんの声って、とってもあたし好みなんだもん。聞いてると、すっごい落ちつくんだ」

そんな訳で。

午後の穏やかな陽光の中、皆が緑の草に腰をおろし、疲れた脚を伸ばす傍らで、アルテミアは竪琴を奏でることとなる。

「……『そして世界は回り続ける」、すでに周知のこの事実 『それとまったく同じこと』 はるか彼方に広がるあの空の色こそが カリビアン・ブルーなのだと人は言う。けれど、信じてしまっていいのかしら? ほんの少し前までは回っているのは世界ではなく 天空の方であったと言うのに」

堅琴の響き。柔らかな声。

「人が確かに全能であり、けっして過ちを犯さないのなら 天上色もまた カリビアン・ブルーなのだと信じることもできるでしょう。……けれど…… ボレアース……北風の神 ゼフュロス……猛々しき西風の神よ。私の声は届いていますか。エウロース……南東からの風の神。軽やかに天駈ける旅人たちよ どうか私に教えておくれ。南のきらめく海の碧 カリビアン・ブルーという色は 空の高みと同じ色なの?』

 

なめらかな声がフェイド・アウトするのに合わせ、弦の響きも青空にすいこまれるように……消える。

「……素敵」

夢からさめたような面持ちで呟くのはサキだ。望は一杯拍手する。

「あたしのいた村にも、時々吟遊詩人のひとって来たけれど、アルテミアさんみたいに上手な人はいなかったわ」

「あら、ありがと。そういってもらえると、あたしもまだまだ捨てたもんじゃないって思えるわね」

「え?」

「今の歌ってね、十代の女の子の声で歌う唄なのよ。内陸……多分山岳地帯に住む少女が、海の青さに憧れるって内容だからね」

「へーえ、やっぱ、その土地々々で、歌われる唄って違うんだ?」

瞳を丸くした望の発言で、思いがけなくも一同は、それぞれの出身地に伝わる唄を披露することになった。

サキは村に代々伝わるという祭りの唄を、頬を染め、恥ずかしそうに歌いあげる。オリアスとネイビーはそれぞれ小夜曲と古謡を、エルフ特有の繊細な節まわしと複雑なメロディラインで。意外にも(と、言ったら当人は怒るかもしれないが)唄がうまいのがセヴィルで、戦の凱歌を朗々と歌い上げ、皆の喝采をあびた。

そして望は、自分が大好きだという唄を歌う。

「それって、望さんが行くコンサートの歌うたいの唄なの?」

「ううん、それとはまた違う。でも、大好きなアーティストなんだ」

「……未来には、ヒトもモノもたくさんあるのねえ……」

しみじみと呟くサキ

「ん、まぁね。でも、ありすぎるのも結局、なんだかなあって感じだよ。だって、所詮、自分の体は一つっきりなんだもん。一度に二つの音楽は聞けないし、服だって着られる数には限界あるし」

と、望はロを尖らせる。

「そんなことより……あたし、ここに来て初めて知ったもの。空がこんなに青いものだって。ほんと、カリビアン・ブルーだ」

彼女の言葉につられ、皆は一斉に頭上をふりあおいだ。

青い空。自い雲。月並みな表現ではあるが、事実なのだからこれ以上言い様がない。

「未来じゃ、空は青くないの?」

「あ……」

サキの無邪気な質問に、一瞬、望の表情に狼狽の色がはしる。気づいた者はいたのかどうか……。

「別に、同じだよ。青」

望は慎重に言葉を選んだ。慎重に。うっかり未来に関する情報をリークすると、歴史が歪んでしまわないとも限らないのだから。

「ただ…日本って国は高温多湿でね。雨、多いから。こんなにすかーんと晴れることって珍しいの。だから」

「ふうん。そうなの」

望は嘘はっいていない。さりとて、真実を話しているわけでもない。素面に信じているらしいサキを見るたびに、望の良心はちくちく痛む。

「望、あんたそんなコト言ってるけど、『カリビアン・ブルー』っていう色を見たことはあるの?」

いいタイミングでアルテミアのつっこみが入った。

「え……。ない……けど」

「じ。あ言い切ったらダメじゃないの。歌の中にもあったでしょ? 人間の言うことなんてアテになりゃしないって」

「じゃ、アルテミアさんは見たことあるの?」

「もちろん。伊達に吟遊詩人なんてやっているわけじゃなくってよ? 大概のことは経験済み」

アルテミアはにっこり笑い、手にした竪琴をかきならす。

「考えようによっちゃ、勇者に選ばれてラッキーだったかもね。あたしの場合」

「え?」

「だって、考えても見てよ。あたしは、一部始終を見るわけよ。この……この戦いの。吟遊詩人なんて名乗るからには、見た以上、唄をつくらなきゃ。これって凄いことだと思わない? エンペラーと勇者の戦いよ。これは確実に伝説になる。その唄をあたしが歌うの。あたしが土にかえって、名前も忘れられてしまったとしても……唄だけは残る。街角や広場や炉端に残って、人々に歌われる。吟遊詩人の究極の夢と言っても過言じゃなくってよ」

「……そうなるためには、俺たちが勝たないとな」

「勝つってば」

望がセヴィーに言い返す。

「未来からわざわざ来てあげたあたしが言ってるんだから、これ以上確かなことってないでしょっ」

「……だからお前、なんでそうつっかかるんだよ? ふつーにしてりゃ、十分可愛いんだから」

「あんたの『可愛い」ほどアテになんない台詞はないのよーっっ?」

二人がぎゃんぎゃんやりだしても、止めようという者はいない。

下手に手を出すと、余計なとばっちりをくらうことをよく判っているからだ。

「……ま、しばらくやらせておおき」

アルテミアは結論づけると、堅琴の弦を緩める。

そして彼女は思うのだ。

(後生だから、あんたたち。あたしにハッピーエンドの唄を歌わせておくれよ)と。

物語や伝説は、それが常識。悪い魔王は倒されて、めでたしめでたしで終わるもの。それが定石、この世の決まり。

(いくら後世に残るからって、エンペラーが正義であたしたちが悪になる、そんな唄は歌いたくないんだから……)

結果がでるのは、まだ、当分先のことである。

第02回

リアクション

一人称:夢見望

それはさておき、宿に戻るなりサキさんが凄い顔してやってきた。

「望さん街に出掛けてたんでしよ? 誘ってくれらたあたしも行きたかったのにー!」

「え? あ‥‥ごめん‥‥あんまり街とか行きたくないのかなーと思って‥‥」

びっくりしたぁ。なんか最初のイメージと違うなぁ、もっとおとなしいんだと思ってたんだけど、もしかして違ったのかな? でもだったら仲良くなれそーだね。

「ま、いいや、もう遅いしね。でもその代わりにあたしの質問に付き合ってもらうからね」

前言撤回、彼女は絶対おとなしいタイプじゃない。ついでに言うとかなり強引かもしれない。言葉遣いだって、きっと初めは緊張とか遠慮とかしてたに違いない!

あたしはそんなことを思いつつ、サキさんの質問に耳を傾けた。

「レギオンさまの話を聞いてて考えたんだけど、望さんたち未来人は未来から来たんでしょ? だったら未来って決まってるのかなあ?」

うっ‥‥‥‥それは非常にきつい質問だよ、サキさん。

「ど‥‥どうだろうねぇ‥‥」

あたしには答えにならない返事しか出来なかった。サキさんは不満そうにこっちを見たけどでもあたしにも答えられないんだってば。そんな目で見ないで。

「それじゃ質問を変えるね。未来のアトランティスってどうなってるの?」

い‥‥言えない‥‥。だあ―――――言えるわけないじゃない!

あなたの住んでた国はありませんよ、なんて、ロが裂けたって言えるわけないでしょーっ! いくら時代が違うからって、そんなこと‥‥そんなこと‥‥‥。

それにあたしは今過去にいるんだから、余計なことを言って歴史とか変わっちゃったりしたらどーすんの。はははは‥‥どーしよ‥‥‥なんて言えばいーのよ‥‥。

「ご‥‥ごめんねサキさん。あたし社会科苦手でさ‥‥‥世界のことよく知らないんだ‥‥」

仕方ない、あたしはバカになろう。ふえーん‥

「そっかー、そうよね、違う国のことだもんね」

ああああああ‥‥‥納得してくれて嬉しいような悲しいような‥‥‥。

あたしはほとんどやけくそになっていた。

「実はエンペラーも未来人だったりして」

「まっさかー‥‥‥」

あたしはそう答えたあと、ふとあることに気が付いた。

その可能性は十分あるわけだ‥‥‥。だってエンペラーの正体を誰も知らないなんていくら何でもおかしすぎる。怪しい、たしかにサキさんの言うとおりだ。

「でも確かにサキさんの言うことあってるかもしれない‥‥」

「あ、やっぱりそう思う? 可能性大だよねー」

そう、その可能性は大いにある‥‥けど、たとえそうだとしても、なぜこんなことをする必要があったんだろう?

何か‥‥あるに違いない。そう、何かもっと根本的なことがあるはず‥‥。今の時点ではまだわからないけど‥‥‥あたしたちが知らない何かがあるはず‥‥。

その時、あたしたちはどうなるんだろう‥‥。

一人称:サキ

「セヴィルさん」

あたしは夕食を済ませたあと、休んでいるセヴィルさんに声をかけた。

「ああ、サキ‥‥何だ?」

セヴィルさんは身体を起こしながら言った。

「もしよかったら稽古つけてもらえないかな」

「稽古?」

「うん。あたし神殿でいくらか武術の修行はしてたんだけど、それってあくまで人同士、しかも素手同士の組手だったから、武器を持った人や魔物相手にどんな風に戦えばいいのかって、全然わかんないのよね。だから、武器を持ってる人が素手を相手にする時どんな風に攻めるのかとか、そーいったことも含めて教えて欲しいなぁ、って思って」

セヴィルさんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔になって承諾してくれた。

そしてあたしはセヴィルさんに剣を持ってもらって外に出た。

うーん、さすがに夜は冷える。セヴィルさんも同じことを思ったみたいで、ひょいっと首を竦めて寒そうだった。

「結構第八王国って寒いんですね‥‥」

あたしがそう言うと、セヴィルさんはコクコクとうなずいた。

「そーだなぁ、オレは第一王国出身だから寒いのには慣れてねぇよ。うーさびぃ」

「あははは、あたしの育った村は寒いとこだったからわりと平気だけど‥‥でも身体を動かしてたら暖かくなりますよね。それじゃよろしくお願いしまーす」

「おう、いくぜいっ!」

セヴィルさんの掛け声を合図に、あたしたちはお互いの距離を保ちつつ相手の懐に飛び込むタイミングを計る。あたしが動けばそれに応じてセヴィルさんも動き、なかなか攻撃出来る隙がない。

加えてセヴィルさんの構える剣が、あたしの攻撃を阻んでいる。接近するには危険すぎるし、かといってこんなに離れていてはダメージを与えられない。

「こーいうとき、どんな風に攻撃したらいいのかな?」

あたしがセヴィルさんにそう言うと、セヴイルさんは剣を振りかざしてあたしに向かってきた。

「剣を一振りしたあとここに少しだけど隙が出来るだろ? これを攻撃するのが一番だけど、これは相手の一撃をまず躱して、その直後に攻撃ってことだ。へたすりゃ先に自分がやられてるかもな」

それじゃまずいですよー。

「あ、じゃあ相手の剣を躱す訓練をすればいーんですね」

「まあ、そういうことだな。じゃオレがどんどん攻撃するからサキは避ける訓練するか?」

「はいっ!」

あたしは嬉しくしょうがなかった。旅を始めてからこんなにまともに身体を動かしたのはこれが初めてだったのだ。どうも最近身体がウズウズしていたのは、運動不足のせいだったのかもしれない。しかも神殿の人たちと違って、セヴィルさんの動きはかなり迅くて正確だし、何よりも実践で鍛えられているから型にはまった攻撃はまったくないのだ。

あたしは足が言うことを聞かなくなるまで稽古を続けた。

時間的にはどのくらいだったのだろうか、さすがにへとへとになってその場にバッタリと倒れこんで荒い息をしていると、セヴィルさんも剣を置いて座り込んだ。

「さすがに‥‥‥疲れたなー。‥‥おい、サキ大丈夫か?」

「大丈夫でーす‥‥」

あたしは突っ伏したままそう答えて、ごろんと今度は仰向けになった。

空はよく晴れていて星が見える。

「凄い数の星‥‥‥あれが全部手に入ったらいーなぁ」

「おいおいサキ、むちゃくちゃ言う奴だな」

このときあたしは心地よく身体が疲労して気分も軽くなっていた。普段なら絶対言わないことを口にしてしまっていた。

「ねえセヴィルさん‥‥‥‥獣人って人間に戻ることが出来ると思いますか?」

「‥‥‥出来ないんじゃねぇの? 黄色の絵の具と青色の絵の具を混ぜて緑色の絵の具を作り出せても、緑色の絵の具から青色の絵の具だけを取り出すことは無理だろ‥‥‥それと同じさ」

セヴィルさんの言うことはもっともだ。

「そうですよね‥‥‥レギオンさまにも同じことを言われました。一度混ざってしまったものは別々には出来ないって‥‥」

そーだよね、やっばり無理なんだよね。獣人に生まれてしまったあたしはやっばり獣人のままなんだよね‥‥‥。でもレギオンさまは獣人について色々と教えてくれたなー、さすがによく知ってる。

獣人の子はやっばり獣人になるけと、例えば親の片方が人間だった場合は、子供が獣人になる確率は二分の一、つまり人間か獣人かに別れるってことよね。で、両親とも獣人でそして違う種族の獣人の場合、子供は半々の確率で生まれる‥‥‥これは父親譲りか母親譲りかってことよね。要するにたとえ獣人であっても、子供の生まれる確率は同じってことか。父親に似るか母親に似るかってことだけ。

だいたい獣人っていっても獣化しなきゃそれとはわからないもんね。

あたしはそんなことを思いつつ、今まで自分が誰にも言わなかったことをセヴィルさんに話したことに気が付いてはっとしてしまう。

ああっ、あたしってば‥‥ボケてたのかしら?

まあ、別に自分が獣人だって言ったわけじゃないから、セヴィルさんもただの疑問だと思ってくれてるみたいだけど‥‥‥何やってんのよサキ

あたしは自分で自分を叱った。

不意にセヴィルさんが立ち上がったので、あたしもつられて身体を起こした。

「うーさびっ、そろそろ入ろーぜ」

「あ、そうですね‥‥ありがとうございました」

「いいってことよ」

セヴィルさんは手をひらひらと振って中へ入っていった。

あたしもその後について中へ入った。

部屋へ戻るとみんなが集まっていて、ネイビーさんがお茶を入れてくれた。どうやら何か話してたみたいだけど‥‥。

あたしはその後その話に加わった。

一人称:アルテミア・サリーナ

しばらくするとセヴィーとサキちゃんが外から戻ってきて、仲間が全員揃ったところで望ちゃんが話し始めた。

「あたしたちは第八王国へ旅しているけど、このパーティにはレギオンがいないでしょ。ということは誰かがリーダーになってそれに従っていくのがベストだと思わない?」

旅を始めて思ったけど、この望ちゃんは口うるさいとこあるけどすごくしっかりしてるわよね。

それによく周りを見てるし、よく考えてる。

「それは賛成だけど、でも誰がリーダーになるんだい?」

ネイビーものんびりしてるけど、志は強そうだし。ただ、女の子は苦手みたいなところがあるわね、望ちゃんと話すときなんかすっごい顔引きつってるし。でもサキちゃんとはそうでもないか。

「何だったらオレがリーダーになってもいいんだぜ」

セヴィーは頼りになるけど、軽そうなところがねえ‥‥‥‥。

「何言ってんのよ、あんたがリーダーになったらいつまでたっても目的地に辿り着けないじゃないの!」

「えっ、どうして?」

サキちゃんが不思議そうな顔をした。

この子も面白いというか変わってるというか‥‥ちょっと真面目過ぎる気もするけど、明るくて優しい子だし。でもどことなくよそよそ感じもするけど。慣れてないからかしら?

「だってセヴィルさんは女の人を見たらすぐそっちに行っちゃうから‥‥」

オリアスがこっそりサキちゃんに耳打ちした。

あたしが思うに、オリアスって本当はもっと大人びてるんじゃないかしら? わざと子供っぽく振る舞ってるような気がするのよね。気のせいかもしんないけど。

一人称:ネイビー・フェード

「ネイビーさんってお姉さんが三人もいるの? うらやましいなー」

「そうかなぁ‥‥オレはこき使われるからあんまり嬉しくないけど‥‥‥」

「あたしは拾われっ子だから兄妹とかってすごくうらやましいな」

「あ‥‥そっか、ごめん‥‥」

「あ、気にしないでそんな意味じゃないから。兄妹同然に育った人はいたんだし」

オレたちは第八王国を目指して旅をしているわけなんだけど、その道中オレはサキの隣を歩いているのだ。

実はオレはどうもこのサキが気になって仕方がない。女の子は苦手でまともに話も出来なかったこのオレが、珍しくそばにいてほっとする相手なんだよねー。

そういえば見た目も何となくクレアに似てるかも‥‥‥。おっと、それはいくら何でも言い過ぎかな。サキとクレアじゃタイプが違うもんね。まぁどっちもかわいいのは確かだけど‥‥って、こ れじゃオレってすっごい気が多い奴みたいじやないか!

でもクレアには会いたいなぁ‥‥今頃どうしているのかな? 確かお父さんが商人だったはずだけど、どこかの町で何か手がかりでも掴めればいいのにな‥‥。

そんなことをオレは思いつつ、すれ違う行商隊につい目が行ってしまう。

「どうかしたの?」

サキがキョロキョロしているオレに不思議そうに問い掛けてきた。

「あ‥‥いや、さっきから森ばっかりだなーと」

本当は森なんか気にもしてなかったんだけど。

三人称

「出せーっ、ちょっと出しなさいよぉっ! あたし達が何をしたって言うのよお!」

ガンガンと夢見望は牢の扉を叩いた。

「だー、セヴィーくつろいでんじゃないわよっ!」

振り向けば、セヴィーこと、セヴィル・ハーネスはすでにマットの上で転がっている。

「望ちゃん、声が枯れちゃうわよ」

「ここは、おとなしくしておいた方がいいんじゃない?」

アルテミア・サリーナとネイビー・フェードの声が別の牢獄からした。

その声を聞いて、望は益々怒り狂う。

「二人はいいわよ。アルテミアさんはサキちゃんと、ネイビーはオリアスと同じ牢屋なんだから。なのにどーしてあたしだけセヴィーと一緒なのよー! 信じられない! 普通男と女を一緒の牢に入れる!? 何か間違いでもあったら、どうすんのよっ!」

「あー、心配ご無用。俺ガキには興味ないから」

「やかましいっ! とにかく、出せーっ、出してってば!」

一人騒ぎまくる望を見て、他の仲間は肩をすくめた。

「セヴィーさんが女に見えた‥‥ってことはないわよね‥‥」

と、サキ

「‥‥考えられる可能性は望さんが‥‥まぁ、はっきり言ったら、望さんに悪いから、ここは言わない方がいいですね」

「オリアスっ、それははっきり言ったも同然よ! あたしのどこが男に見えるってのよ!」

「‥‥そういう所じゃない?」

「ネイビーっ!」

にぎやか‥‥と言っていいものか、とにかく牢獄の中は静けさとは無縁だった。

ことの始まりは第八王国城下町の一歩手前の町でのことだった。

無事第八王国内に入った一行は第八王城目指して歩いていた。

セヴィーが道行く女性に声をかけて、仲間からは白い目で見られ、望からは蹴られ‥‥と、平穏無事な旅だった。

ネイビーなどはさりげなく、サキの隣に並んでおしゃべりしながら歩いているのが微笑ましい。アルテミアが中心になって仲間達の得意技など聞きだし、話しを盛り上げる。

実は、話しを盛り上げながら戦闘になった場合のフォーメーションを考えていたりするのだが。

ところが、この町でうっかり、自分達が実は勇者なのだ‥‥と、もらしたのが運のつき。いきなりとっつかまえられて、この牢獄に入れられてしまったのだった。

「でも‥‥なんか変よね。普通勇者と言ったら歓迎されることすれ、いきなり牢獄なんて‥‥」

サキが不思議そうな顔をしてアルテミアに話しかけた。

「そうね、あたしもいろんな国を廻ったけど、勇者だったらこんな扱いを受ける‥‥なんて聞いたこともないわ」

「‥‥どうせ、罠ってとこでしょう」

面白くもなさそうに望が言った。

「エンペラー側の誰かが、勇者に関する悪い噂でも流したんじゃない?」

「‥‥たぶん、そんなとこだと僕も思う」

オリアス・デン・ローウェルが望の意見に同感の意を示した。

「ま、んじゃ、早々にこんな所とはおさらばした方がいいかな」

セヴィルはそう言ってむっくりと体を起こした。

「おさらばって‥‥どうやってここを抜け出すつもり?」

「それが、問題なんだよなぁ。レーヴァティンがあったらこんな扉一発で叩っ切れるんだが‥‥」

「牢から出るだけなら出来るけど‥‥」

オリアスの遠慮がちな声が聞こえた。

「牢から出れる? どういう意味?」

ネイビーが慌てて声を掛ける。

「ここの牢って普通の鍵じゃないよ。魔法錠だよ」

魔法錠でなかったら僕の魔法で壊せるんだけど‥‥

「魔法錠? 何それ?」

望が聞き慣れない言葉を耳にして、ネイビーに問いかけた。

「普通の錠は鍵を使って開くだろ。だけど、魔法錠は魔法で封印されていて、キーワードを言わない限り絶対開かないんだ。しかも、攻撃魔法もはねかえしてしまうんだよ」

「‥‥へえ、そんな錠があるんですね」

サキ‥‥君はアトランティスの人間だろう」

呆れたようなネイビー。

「あはは‥‥田舎で育ったもので‥‥」

魔法もろくに見たことのないサキにとって、魔法銃は実に珍しいものであった。

「ちょっと、話しがずれてるわよ。ところで オリアス、魔法錠でも開けることが出来るの?」

「うん‥‥僕の腰に巻つけてあるこの短剣までは取り上げられなかったから。この剣は聖剣コランタランなんだ」

「コランタランっ?!」

アルテミアとセヴィルの声がだぶった。

「セヴィー、知ってるの?」

「アルテミアさん、知っているんですか?」

望とサキの声もほぼ同時であった。

「あたしは歌で多少知っているだけ‥‥たぶんセヴィーの方が詳しいわ」

アルテミアは促すようにセヴィルの方に目を向けた。

「気に入らないっ!」

部屋に入るなり望の発した言葉はそれだった。

「何が?」

「この国の国王がよ。カーターだったっけ? せーっかくはるばる会いに来たって言うのにいきなり会いもせず、部屋に押し込めるなんて!」

「とりあえず、明日は会ってくれるみたいよ」

サキが苦笑いしながら言った。

第八王国へ向かう勇者一行は何とか第八王城までたどり着くことが出来た。

しかし、城へ入ったものの国王カーターは姿を見せず、一行を二手に分け明日面会を許す、と言い捨てて部屋へ押し込めたのだった。望はそれに慣概しているわけだ。

「あら、あの女の子はどこに行っちゃったのかしら?」

ふいに部屋の中に勇者一行と連れになった女の子の姿が見えなくなってしまったので、アルテミアがきょろきょろと部屋を見渡した。

「やだ、迷子になったんじゃないでしょうね。このお城広いし‥‥」

望もあわてて廻りを見渡す。

一行が先日城下町一歩手前の町(アニア)で捕まってしまった時、助けてくれた女の子がいた。

実はこの女の子、一行が第八王国国境付近で助けた女の子だった。スケルトンに教われていたところをセヴィルが助けたのだ。

すぐにその場で別れたのだが、偶然住んでいたのがアニアで、一行が捕まったのを聞いて、その時の恩返しとばかりに助けてくれたのだ。

「うち、こんな町いい加減おさらばしたかったんや。どうせ天涯孤独っちゅうやつやし。それに住むなら、やっばり城下町の方がええもんな。よかったらうちも一緒に第八王国の城下町まで連れてってくれん?」

そう言われて勇者一行は悩んだ。

自分達は一応勇者であって魔戦将軍と戦う使命おびている以上、傍にいる人間はたいへん危険な目にあってしまう。しかし、ここでこの女の子と別れてしまったら、この子は一人でも旅立ちそうな気配だ。しかも年齢はどこう見ても5、6才くらいだ。またスケルトンに襲われてしまうかもしれない。

城下町まで三日もかからないだろう‥‥ならば、一緒に連れて行った方が安全かもしれない。結果はそれだった。

そういうわけで、何となく城まで一緒に来てしまったのだが、部屋へ入るなり(ちなみに部屋は望、アルテミア、サキ、女の子の女組とセヴィル、オリアス、ネイビーの男組に別れた)いなくなってしまったのだった。

「とりあえず探そう。もしかしたら男性陣の方へ行っているかもしれないし」

「‥‥それはないと思うけど‥‥」

サキの提案に望が眉をしかめて言った。

アルテミアも同意する。どうもあの女の子は男嫌いの気があるようだったのだ。

セヴィルに助けられた時もセヴィルのことはそのまま無視して望に抱きついたくらいだった。

「だけど、このお城って男の方が多かったよ。どこもかしこも男ばっかりだったらまだ知り合いの男のとこの方がましだと思うかもしれないじゃない」

「それも一理あるわね‥‥分かった。望ちゃんは男性陣の方へ行ってみて。いなかったらそのまま男性軍も捜索にかり出して。あたしは城の中を探すわ。サキちゃんは庭の方を探してみて」

アルテミアの提案に二人はこっくりと領いた。

「そういえば‥‥あの子の名前ってなんて言うんだっけ?」

サキが部屋を出て行こうとして立ち止まった。それを聞いて望が唸る。

「えーっと‥‥あ、確かラーサリアだったと思うよ」

望はポンッと手を叩いた。

「‥‥ふん、そうかもね。だけど二人共忘れてんじゃない? 今エンペラー様に一番信頼されてんのはあたいだよ」

優越感に浸ったラーサリアの台詞に二人の眉が跳ね上がった。

「あんた達とは別に命令を賜わっているだ。つまりあたいにしか出来ない仕事ってことだよ。あんたらの代わりはいくらでもいるけど、あたいの代わりになる奴なんていないんだからね」

「‥‥そう? ためしてみようか?」

シビルが殺気と共に鎌を握りつめた。カチャッと音がする。

「いいけど」

ラーサリアが不敵に笑いながら指先を微かに動かした‥‥と、その時。

「ラーサリアちゃーん!」

「しまった!」

サキの声が聞こえて、ンディガンは舌打ちした。サキが自分を探しに来た事はすぐに分かった。せっかく邪魔者が二人共消えたかもしれないというのに‥‥

「あ、ラーサリアちゃん。そこにいたのね」

「サ、サキお姉ちゃん・・・・」

ンディガンが苦笑いしながら、掛けよってくるサキを向かえた時、すでにラーサリア(本物)とシビルの姿はなかった。

「ふー、せっかく第六王国からお越し頂いたというのに‥‥そんなくだらない話とはな‥‥」

第八王国の国王カーターはそう言って、うんざりしたように頭を左右に振った。

カーター国王は目の覚めるような美形の二十歳そこそこの国王だった。

全員がカチンときたのは当然だが、ここは国王の機嫌を損ねるようなことになってはいけない。すっと、サキが前に進み出た。

「あの‥‥くだらないかもしれませんが、とにかくクレイトーが必要なんです。貸していただけませんか?」

カーターはサキを一瞥すると、「クレイトーは我が国総力を上げて守っている。貸し出す必要はなかろう」

「え‥‥で、でも‥‥」

「少人数のおまえ達が持っているよりその方が安全だと思わないか?」

「あ‥‥そ、そう言われればそうかも‥‥」

「‥‥ってこら、納得してんじゃないわよ、サキちゃん!」

その方が安全なのかも‥‥と納得しそうになるサキを望は叱咤した。それを横目で見ながらカーターは、

「だいたい、何故おまえ達にクレイトーを渡さねばならんのだ。どこの馬の骨ともしれん奴らに」

と言い切った。当然ここで文句を言うのは望‥‥と思いきや、

「さっきから聞いていれば、よくもまあ自分に都合のいい事ばかりベラベラと舌が廻るもんだね」

とオリアスが憎々しげに言った。

「『何故おまえ達にクレイトーを貸さねばならん』だって!? そんなの、あんたらが無力だからに決まってんだろっ!」

その激しさに勇者一行は唖然とする。

「それにしてもオリアスにはびっくりしたわ。まさか、あんなに言うなんてね。おとなしいと思っていたんだけど」

「あ‥‥い、いえ。僕とした事が生意気言っちゃってすみませんでした」

オリアスは慌ててしおらしく頭を下げた。

ついむっかりして言っちゃったけど、まだまだ猫を被っているのに超した事はないからね。

「うん、あたしもびっくりした。オリアス君かっこよかったよ」

サキがそう言ってオリアスの隣に並んだので、慌ててネイビーがその間に割って入った。微笑ましい光景である。

「お姉ちゃーん」

「あ、ラーサリアちゃん」

道の向こうから、ラーサリアことンディガンが手を振りながら掛けよってきたので、サキが振り返った。

ンディガンはカーターの元へは行かなかったのである。勇者ではないので、当然と言えば当然なのだが。

「お姉ちゃん、クレイトーもらえた?」

「うん、なんとかね」

そう言ってサキはウィンクした。

ンディガンの瞳がキラッと輝く。

「へぇ、どんなん? 見せてえな」

「えっ‥‥それは‥‥」

いいよどむサキにネイビーが気楽そうに言った。

「いいんじゃない。別に見られて困るものでもないし。確か、アルテミアさんが持っていたよね」

「だけど、万が一のことでもあったら‥‥」

「いいじゃん。見せてえな。うちらみたいな立場だったら一生お目にかからんやろ」

「‥‥そうね、じゃあ見せるだけよ」

そう言ってアルテミアはその豊かな胸元からクレイトーを取り出した。

「ほら、これがクレイトーよ」

「‥‥へぇ」

アルテミアの手の中で輝くクレイトーを見た瞬間ンディガンが感嘆の声をあげた。

「これが‥‥第八王国の‥‥頂いたでっ!」

ンディガンは素早くアルテミアの手からクレイトーをむしりとり大地を蹴って、勇者一行との距離をとった。

「ラ、ラーサリアちゃんっ!?」

「ご苦労やったな。こいつは魔戦将軍のうちがもらいうけるっ!」

そう言ってンディガンはニヤリと笑った。

「スケルトンは俺が引き受けるっ!」

セヴィルはレーヴァテインを引き抜くとスケルトンの群れに突っ込んだ。

「よっしゃ、轟伝舞っ!」

レーヴァテインを円状に振り回す。

スケルトンの数がみるみるうちに減っていった。スケルトンはセヴィル一人で大丈夫だろう。

「はっ!」

サキが指弾を放った。

あっさりとシビルが片手で払い落とす。

が、その隙にサキは間合いをつめ腹へ拳を一撃しようとした。当然シビルがかまえる、が、サキは拳を叩き込むのではなく、さらに指弾を放った。至近距離、しかも顔下からの指弾だ。

シビルもこの攻撃に少々意表をつかれたが、素早く背をそらして指弾をかわした。

「‥‥!」

この距離でかわすなんて‥‥!

驚くサキ。しかしふっと腹に来るものを感じて視線を落とした。体を起こすのと同時にシビルが蹴りを放ったのだ。

は、はやいっ!

どごぉっ!

驚く間もなく、まともにその蹴りをくらって、サキはふっ飛んだ。

サキちゃんっ!」

望が慌てて駆け寄る。

しかし、サキを抱き起こすだけで精一杯だ。

こんな時に何も出来ない自分が恨めしい。

「ふん、あんたはなかなかやるね、じゃこれだっ!」

指弾を放つシビル。

セヴィルはそれをレーヴァテインで叩き落とした。しかし、シビルはその間に間合いをつめ疾風剣でセヴィルを切りつける。

「‥‥!?」

「‥‥っつあ!」

その時、多少回復したらしいサキが背後から発動でシビルを吹き飛ばした。

「くうっ!」

セヴィルに気をとられて背後への注意が足りなかったため、まともにくらう。

「このっ!」

シビルは力まかせに尻尾でサキを叩き付けた。「きゃあっ」と悲鳴を上げてサキが倒れる。

「サンダーボルトっ」

ネイビーの呪文がシビルを捕えた。

体の中を電気が走りぬけて、がくっと膝をつく。しかし、それはとても致命傷とは言えなかった。いや、怒りを煽っただけかもしれない。真っ赤に燃えるような瞳でネイビーをにらみつけ、鎌をかまえた。

「火竜烈破っ!」

とたん、ネイビーの体が燃え上がった。

斬りつけられ、そのスピードのあまりで摩擦火がおこったのだ。

火はすくに収まったがネイビーはばったりと倒れて動かない。サキが悲鳴をあげてネイビーに駆け寄った。

しかし、サキもかなりの重傷だ。

足取りもよろける。

第03回

リアクション

一人称:エストリス・セルシオン

「へー、剣一本でアトランティスを旅しているの? すごーい、尊敬しちゃうねぇ!」

たちまちライトレアと要が意気統合したらしく話始める。

「どんなことがありますか?」

チヒラちゃんがコップを傾けながら、興味深そうに質問する。

「うーん、今回は第三王国に行ってたんだ。

だから、その国にまつわる話をちょっと仕入れてきたけど‥‥」

「えっ‥‥第三王国って、もしかして王女ライラって言うのがいた‥‥」

「よく知ってるね、要」

オリアスが目をばちくりとさせた。

でも、オリアスがびっくりするのも納得。

だって王女ライラなんて、ずいぶんと‥‥確か三百年くらい前の法皇たったし‥‥僕だって今聞いて、ようやくそういえば出身は第三王国だったような‥‥って思い出すくらいなんだもん。

未来人の要がねえ‥‥

「あの‥‥王女ライラって誰なですか?」

「えー、サキちゃん、ライラ王女も知らないのっ!?」

「‥‥ネイビーさんは知ってらっしゃるんですか?」

とオリアスが言うと、

「‥‥名前くらいは‥‥」

とぼそりと、ネイビーが答えた。

「ははは、似たものカップルってか?」

要が愉快そうにからかうと、

「カップルなんかじゃありませんっ!」

と、きっぱりとサキちゃんが言い切って、そのそばでネイビーがちょっといじけていた。‥‥ちょっと気の毒な気がした。

「あの‥‥差しでがましいかもしれませんけど、良かったら私が簡単に歴史を説明しましょうか? ‥‥あ、ライトレアさんにしてもらった方がいいかなっ」

「あ、私もそう詳しくないから‥‥チヒラさんだっけ? あなたにお願いするわ」

「そ、そうですか?」

ちょっと恐縮しながらチヒラちゃんが話始めた。

「今から約三百年前のことなんでけど、そのころ第五王国を中心として、全王国か神殿に対して反乱を起こそうとしていたです」

「あ、その戦争なら有名だし、ちょっと知っています」

と、サキが嬉しそうに言った。

チヒラはそれにうなずいて、

「もともと保守的だった神殿に対して、各王国が改革を求めたのが始まりたったようです。簡単に言うと。‥‥ところで、法皇の戦争時の役割って知っていますか?」

と、ふいに問い掛けてきた。

偶然チヒラと目のあったネイビーが慌てて僕に目で聞いていたけど、僕はぶるぶると首を横にふった。興味ないから、勉強してないんだよね。一抹の望みを抱いて要を見たけど、要も肩をすくめるだけだった。

「攻撃の中心でしょう」

そんな大人達を見て呆れたのだかどうだか分からない(軽蔑の視線を感じたような気がしたけど・・・・気のせいかな?)けど、いきなりオリアスが話始めた。

「さすがオリアス君ね」

「‥‥常識だと思うけど(ここで、くっと皆が黙り込む)、普通の王って言うのは後ろでふんぞりかえっているけど、アトランティスでは法皇をはじめ各国の王も、まず戦場において重要な戦力として扱われる。剣の第五王国なんかは、王様が先陣を切って飛び出すんだからすごいよね。そして、それが当たり前だ。王たる者、何の力も持っていないなんてことは許されない。黒魔術の第二王国だったら、先陣には出ないものの、後方から強烈に魔法で擁護するし、白魔術もしかり。法皇も同じ。万一、近隣諸国‥‥たとえば、ギリシアと戦争にでもなったら、まっ先に法皇が飛び出すことになるだろうね」

「その通りです。だから法皇になる者は力がなくてはなれません。‥‥だけど、第三王国の王女ライラには、全く‥‥何の力もなかったと言われています」

「えっ、だけど、力がなかったら法皇になれないんじゃ?」

要がびっくりして声を上げる。

「そうです。なのにどうして、ライラを法皇にしたのか‥‥」

「あ、あの‥‥法皇様って確か各王国の王族から選ばれるんだったよね?」

おそる、おそるといった調子でサキが尋ねた。

サキ‥‥君は本当に武道の修行しかしなかったんだね」

「‥‥どういう意味よ」

憮然とサキがネイビーをにらみつけたけど、その視線には迫力がなかった。

「ええ、そうよ。たいていは第一王国の王族から選ばれることが多いけど‥‥機会は基本的に平等ね」

「だけど、あえて、第三‥‥それも何の力もないと言われているライラを法皇にか‥‥」

「どうしてかな?」

皆が首をかしげる中、オリアスが苦笑いしながら肩をすくめた。

「簡単だよ。法皇に力があってほしくなかったのさ」

「へ?」

「反乱を起こそうとしていたんだろ。法皇を相手に。だったら、力ある法皇より何の力もない法皇の方が簡単に制圧できてしまうじゃないか」

「あ、そうか」

皆がびっくりしたように手を打った。

「‥‥だけど‥‥だったらライラって人はどうなるの?」

「それは‥‥法皇として死ぬしかないんじゃないのかな? 実際死んでるし」

「‥‥ひどい、犠牲になったようなものじゃないのっ!」

ばんっ!

サキが机を手のひらで叩いた。

‥‥手加減して欲しいな。サキの力で叩いたら簡単に壊れそう。

「‥‥そうね、本当にひどいわ」

「で、その反乱は成功したわけ?」

「ううん、反乱軍は法皇の軍に鎮圧されてしまったわ」

「へー、法皇はよっぽと強力な軍隊を持っていたんだね」

「‥‥いいえ、主戦力はたったの十人だったわ」

「じゅっ‥‥!」

「対する反乱軍は百万以上の軍だったと言うわ」

「まさか‥‥」

チヒラはゆっくりと目を閉じて言った。

「法皇ライラは勇者を召喚したのよ」

「一人の勇者か一国を制圧していったと言うわ。本当かどうかしらないけど」

「確か、クレイトーを使ったとも言われているよね」

オリアスがロをはさんだ。

「そうだったわね。事実かどうかは分からないって言うけど」

「ふーん、それが私らの前に召喚されたっていう勇者なのかぁ」

なんか、同じ勇者でもレベルが違うなあ‥‥なんてぼんやりと要がつぶやいた。

同感!

少なくとも、僕には一国の制圧なんか出来そうにない。

「でも、変よね。ライラは死んだんでしょう。勝ったのに死んでしまったわけ?」

「‥‥そう言えば、そうね」

サキが不思議そうに尋ねて、はじめてその事実に気付いたらしいチヒラが、目を丸くした。

「別に戦争が原因で死んだってわけじゃないんじゃない? 何か他に原因があったってことさ」

「‥‥そうとしか、考えれないよね」

「まあ、そこまでが、一般に伝わっている歴史ってことよね」

今まで黙っていたライトレアがふいにロを開いた。

「一般って言うと‥‥?」

「今回第三王国にいって聞いた話によるとね、ライラは何らかの力があったらしい‥‥って聞いたのよ」

「ええっ!!」

と、オリアスとチヒラの声という悲鳴がだぶった。‥‥そんなに重大なことなのかな?

「重大も重大っ!! へたすりゃ、歴史がひっくり返るよっ!」

ふ、ふーん。

オリアスの真剣というか、血走った瞳に気押されてしまった。

「何の力があったのさ?」

「うーん、そこまでは知らないんだけど‥‥」

皆が真剣に悩みこんでいると、今まで何の発言もしなかったレギオン様がふっと声をかけた。

「いい加減な話はそのへんにしておくんだな」

その言い様にライトレアがむっとしたようだ。

当然かな?

だって、でたらめなんか言ってんじゃない、って言われているようなものだもの。

ライトレアがレギオン様に言い返す。

「お言葉ですが、レギオン様。これは第三王国のある筋から仕入れた確実な情報で‥‥」

と、その瞬間。

ぞくりっ‥‥

これは僕だけが感じたんじゃないと思う。

まるで、氷点下の空気を思いだすほど張り詰めた寒い感覚が体をとりまいた。

ライトレアが‥‥まるで蛇に呪まれた蛙のように立ちすくんだ。

その視線の先にはレギオン様の両眼があった。

冷たい空気の中、両者が対面する。

それはほんの一瞬のことだったに違いない。時間にしてほんの数秒‥‥

だけど、僕にはずいぶんと長い時間に感じられた。

その緊張感‥‥いや、緊張感だなんて代物じゃない。まるで、戦場に出た兵士が味わうような緊迫した雰囲気だ。

殺しあう前のあの瞬間。

先に視線を逸らしたのはレギオン様だった。

ばたん。

後ろも振り返らず、部屋を出て行く。

とたんライトレアがほっと息をはいて、その場にへたりこんだ。

その瞬間、皆も呪縛が解けたように動きだす。

ほっと空気が和んだ‥‥だけど、話を続けようという気にもならず、そろそろ寝ようかということになった。

もうそんな時間だったのだ。

僕達は次の日の朝、家を出た。

名残り惜しいけど仕方がない。

ふと、サキちゃんと歩いていると、あんなに恐いレギオン様を見たのは初めてだと言っていた。

そう言う顔には明らかに怯えが混じっていた。

あんなにすさまじい殺気は生まれて初めて経験したと。

一人称:サキ

ずいぶんと‥‥綺麗な人達だな‥‥‥

その第九王国の王女達が出てきた時、正直言って、あたしはその迫力に気押されてしまった。

「僕が第一王子のシンです」

だけど、一番最初にロを開いたのは、どう見ても一番年下らしい男の子だった。

この男の子が玉座に座っている。

その周りを取り囲むように、三人の王女が立っていた。

「なんか、共感するものをあの王子に感じるよ‥‥」

ネイビーがしみじみと横でうなっていた。

何を考えているのやら。

と、そんな時、

「エストリス‥‥エストリスね、そうでしょうっ!」

ふいに王女の一人、確か第二王女のティースだっと思う。

ティースが叫んだ。

「お久しぶりです。ティース様」

うやうやしく‥‥だけど緊張した面もちで、エストリスがひざまずいた。

「エストリスっ!」

ぎょっ!

ティース王女はそのまま一段高くなっていた玉座のそばから走りおりて、エストリスに抱きついた。

「んなっ!」

要がびっくりしたように、叫んだ。

まぁ‥‥びっくりするわよねぇ‥‥

「あ、あの‥‥ティース様‥‥」

しどろもどろになって、エストリスか困ったように腕を振り回した。

「あ、ごめんなさい。あんまり嬉しくて‥‥」

「いえ‥‥」

ティース王女がちよっと赤くなりながら、エストリスから離れた。

エストリスは真っ赤に照れて下を向いている。

「‥‥ちょぴり嵐の予感がするな、オレは‥‥」

冷たそうな視線を半目エストリスに送る要に気付いたネイビーがぼそっと言った。

オリアスやチヒラも冷や汗を流しながら見ている。レギオン様にいたっては完全に無視しているようだ。

「同感‥‥」

これから起こりうる嵐に気付いていないのは、とうのエストリス本人だけだったと思う。

「はしたないわよ、ティース。嬉しいのは分るけど」

鈴を転がしたような声で、第一王女のアイか言った。

「ごめんなさい、お姉様」

そう言いながら、ティースが玉座の方へ戻って行く。

「マリアもエストリスも二人ともいなくなってしまったんだもの‥‥本当に私‥‥寂しかったの」

「ティース‥‥」

うれし泣きしているティースをアイが慰めた。

マリア?

誰のことなんだろう?

ま、いいか。あたしには関係ないし。

「あの、感激しているところ悪いのですが、話をすすめてもよろしいでしょうか?」

要が青筋をたてながら(あたしにはそう見えた)言った。

あの丁寧なロ調がかえって恐い。

「あ、どうぞ。ごめんなさい」

「では、単刀直入に‥‥こちらにあるクレイトーを貸して頂きたいのです」

「分りました。どうぞ」

‥‥‥‥

あまりの展開の早さについけない。

「あ、あの、ちょっと‥‥本当にいいんですか?」

あたしは、恐る恐る尋ねた。

だって、ここに来るまで他の王国では、あっさり貸してくれとこなんて、なかったんだもん。

戦闘は別として、すごーく大変だった‥‥ってほどはないけど、それでもここほどあっさりともしていなかったわよ。

「あの、シン王子もそれで宜しいんですか?」

ネイビーが、黙って座っているシン王子に尋ねた。

「いや、あの‥‥僕は‥‥本当はもう少し検討した方がいいんじゃいかと思うんだけど‥‥」

尋ねられて、おどおどと言う。

「まあ、あちらにはレギオン様がいらっしゃるのよ、レギオン様が頼まれているのに、断わるの?」

「え、こ、断わるってわけじゃ‥‥‥」

「検討するのも悪いことではないけれど、レギオン様の目の前でそんなことをしたら、お疑いしているようで、ご心証に悪いでしょう」

アイとティースの二人から迫られて、ますますおろおろしていくシン王子。

「くっ‥‥その気持ち、僕は死ぬ程よく分ります」

何が分るんだか、ネイビーが男泣きしながら、シン王子を見つめていた。

何か、危ないんですけど‥‥

「いい加減にしなよっ、シン!」

一瞬、あたりがぎょっとするような声で叫んだのは、第三王女のイアーだった。

「あんたは、この国の王子なんだよ。自分の意見くらいはっきり言ったらどうなんだ! だから、情けないって言うの!!」

「ね、姉さん‥‥」

「あの‥‥それは、あんまりじゃあ‥‥第一シン王子だけが悪いわけでは‥‥」

「こいつが悪いのよっ!」

思わずかばうように言ったネイビーとシン王子を一喝した。

二人が、びくんっと眺ね上がる。

だけど、あたしはしっかり見た。

ネイビーとシン王子が視線を交わしたことに。

どうやら、ある種の友情が芽生えたみたい。‥‥ま、いいことよね。

「とにかく、クレイトーは貸すことにしたの、いいわねっ!」

「はい」

イアーの断定の言葉にシン王子は力なくうなずいた。

「いいかい、気持ちはとーってもよく分るけど負けるなっ! 自分の意志をしっかりと持って‥‥女三人でこられちゃたまんないけど、流されたら駄目だよっ!!」

各自個室を与えられたあたし達は、夜も更けたことだし、寝ることにした。

で、あたしも部屋へ戻ろうとした時、隣の部屋‥‥ネイビーの部屋なんだけど、その前で、妙に熱心にネイビーがシン王子をはげましていた。

危ない関係にならなければいいけど‥‥

一抹の不安を覚えて、あたしは部屋へ戻った。

「眠れないな‥‥」

寝台にごろんと転がったけど、なかなか眠る気にならない。

頭が冴えきっている。

「他の皆は恐く‥‥ないのかな‥‥?」

ふと、魔戦将軍達と出会ったことを思い出して、あたしはつぶやいた。

魔戦将軍‥‥あの人達が何人もの多くの人を殺した。

そして、あんなに強い人達を統合するエンペラー。

「それは、あの人達よりも遥かに強い人だってこと?」

それとも、皆はその実力とは関係なしに信望しているだけなのかしら? だとしたら、それだけの魅力がある人ってこと?

「罪もない人を殺すように命令するような人が‥‥」

簡単に人を殺すことを命令するエンペラー。そして、そんな命令を実行してしまう魔戦将軍達‥‥

いったい何が目的なの?

どんな理由があるっていうの?

「分らない‥‥」

ごろごろごろ‥‥

あたしは寝台の上を転がりまくった。

分ることと言えば、ただ圧倒的な『力』だけ。

いったい何故反乱なんか起こしたんだろう、何故大勢の人を殺さなきゃいけなかったんだろう‥‥

もし今度、魔戦将軍と出会ったら‥‥あたしも死ぬかもしれない‥‥

『死』

「ヤだ‥‥何も分らないまま死ぬなんて、絶対に嫌‥‥」

クレイトー

その瞬間、何故かそれを思い出した。

あの石が、あたし達の生死を握っているかもしない。

あたしはむっくと起き出した。

「どうかしのか、サキ?」

いきなり寝室に入ってきたあたしを、そう言ってレギオン様は迎えてくれた。

「すみません、こんな夜更けに」

「別にかまわんが‥‥」

「あの、クレイトーのことを‥‥知りたくて‥‥」

びくんっ

レギオン様の耳が動いた。

空気が緊張したものに変わった。

「何が聞きたい?」

「あの‥‥」

おどおどとあたし言った。

「クレイトーって十一個集めると、何か巨大な力を授かるんですよね。今まで誰かが集めたりしたことはないんですか?」

「‥‥どうしてそんな事が知りたい?」

「だって、お話の中に出てくる秘宝って『今では何処にあるか分らない』っていうものが ほとんどだけど、クレイトーの場合、こーして実際に存在するし、みんなって言うか、少なくとも王族はある場所を分かっているんだもの。誰か一人くらい、石を全部集めるとどーなるかな、ってやろうとした人がいるじゃないかなって‥‥」

そう一気に言うと、レギオン様はくすっと笑った。

「あ、あの、それにクレイトーか十一個に別れたってのは、いつ頃から云われているんですか?」

「それは、私も知らないな。それくらい昔からだ」

「‥‥それから‥‥クレイトーって全部集めて初めて力になるんですよね? だったら‥‥エンペラーもクレイトーを持ってる以上‥‥」

サキ

「は、はい」

「全てに答えるわけにはいかない。だが、教えていい範囲だけは言おう」

「はい‥‥」

有無を言わせぬそのロ調にあたしはうなずくだけだった。

「クレイトーはかつて何度か集まったことがある。だけど、それを一つにしたこはない」

「え、どうしてですか?」

「それを出来るものがいなかったのだ」

「だったら‥‥」

「しかし、集めることは決して無駄ではない。何故ならばクレイトーの各々自体に力あるからだ」

「ええっ、だったら今ある石だけでも‥‥」

「十分に使えるだろうな」

あたしは驚愕に目を見開いた。

「だったら、何故使わないんですかっ!?」

「‥‥これを使うには‥‥多大な犠牲がかかる」

「‥‥‥?」

「私は‥‥やはり、もう誰も死なせたくはない‥‥」

沈黙がおりた。

それ以上はあたしは何も言えなくて、レギオン様も何も言わなかった。

ただ、どうしても知りたかったことを言った。

「‥‥どうして‥‥あたしなんかが、勇者なんですか?」

泣き出したくなるような、あたしの声にしばらく考えてからレギオン様は、

サキ‥‥選ばれた者とはクレイトーの血を引いていることなのだ」

「えっ‥‥?」

ガシャーンッ!

は!?

まさにその瞬間だった。

王宮中に窓ガラスの割れた音が響き、魔戦将軍が侵入したのは!

一人称:ネイビー・フェード

「久しぶりだな」

そこ、第九王国の神殿の前にはすでにガリオンとレギオンが対面していた。

はーはーと荒い息をついて、オレはその様子を見やる。

「魔戦将軍などに成り果ててしまったか」

レギオン様がそう言うとガリオンはふっと鼻先で笑った。

「責任の半分はお前なんだぜ」

嫌みったらしげに言う。

しかし、レギオンは真面目そうな顔を崩さず、

「そうだな‥‥責任はとらねばなるまい」

「そう来なくては」

ペろっとガリオンが唇をなめた。

とたんに辺りが殺気に包まれる。

わっわっわっ!

慌てて、オレは地面にうずくまって叫んでしまった。

「レ、レベルが違いすぎるよーっ!」

情けないっ!

あまりの自分の情けなさに腹がたつ!

チヒラがオレのせいで重傷を負った時、オレは決めた。とりあえず、神殿へ行ってなんとしもクレイトーを守ってみせようと!

オレに出来ることと言えばそれくらいしかないっ!

せいぜいクレイトーを守る盾になるくらいだっ!

だけど、すでに神殿にはレギオンとガリオンがいて‥‥

さすが、二人ともサーベルタイガーなだけあって、オレなんかはとても太刀打ち出来そうにない。

盾になることさえ出来そうにないなんて‥‥なんか、泣けてくる。

だけど、このまま傍観しているわけにもいかない‥‥と、その時、

「助太刀します、レギオン様っ!」

げっ!

見ると、いつの間にかサキが来ていた。

ど、どうしてサキかここに!? まさかオレを追い掛けてきたとか?

そしてサキがどうしたかと言うと、あろうことかレギオンとガリオンの間に入る。

サキっ」

オレは飛び出した。

「ネイビーっ!」

ここで黙って見ていたら男じゃない!

オレはサキの側に駆け寄った。

「二人とも‥‥!」

レギオン様が驚いたように目を見開く。

「なるほど、人海戦術ってことか」

ガリオンがオレ達を見て苦笑いした。

いや、人海戦術って程の実力もないんだけど‥‥とりあえずオレには‥‥

だけど、そんなオレの思いは無視して、ガリオンは楽しそうに、

「ならば、最初から全力で行くぞ、召喚‥‥ワルキューレっ!」

げっ!

本当に最初から全力か!?

オレはぞっとした。

ワルキューレの九人の女戦士にかかってこられて、とても生き延びられるとは思えない。

とにかくサキだけでも助けないと‥‥

キーン!

とたん、耳を壁くような音がして九人の女戦士が現れる。

無機質な表情が、その恐ろしさをいっそう強く表す。

腰がぬけそうになる。

「バハムート!」

そんなオレを後目にレギオン様がバハムートの召喚をした。

突然目の前に巨大な竜が現れて、向かってくるワルキューレに向かって熱線を吐き出す。

ゴオオオオオオ!

九人の女戦士達は瞬くまに消えた。

ワルキューレが消えるとほぼ同時に竜の姿も消える。

空中での戦いだったので、周りの森林に影響はほとんどなかった。

ただ、その戦いの熱風で木々がざわざわと波打つ。

呆然と‥‥オレとサキが立ち尽くした。

「こ、こんなもの人間の戦いじゃない‥‥」

いや、サーベルタイガーなんだから最初から人間じゃないんだけど‥‥

ともかく、実力も迫力もまるでレベルが違うってことだ。

「なるほど、さすがレギオンだ」

にやりとガリオンが笑った。

「やっぱりこの手でいくか」

!?

「タイターンっ!」

ガリオンの召喚と同時に地面が動いた。

「わっ!」

地震だっ!

「しまった!」

レギオン様の声が響く。

何ごと!?

と、思ってふと神殿を見やると、

「し、神殿が‥‥!」

サキの驚く声がした。

それもそのはず。

神殿の外壁にひび割れが出来ている。

「クレイトーまで一緒に埋まるぞっ!」

オレは必死でガリオンに向かって叫んだ。

「ふっ、クレイトーなんかどうだっていいのさ!」

本気だっ!

オレは瞬時に悟った。

ガリオンは本気でクレイトーごと神殿を潰そうとしているのだ。

「レギオン様、クレイトーを頼みますっ!」

揺れる地面の上で、オレはレギオン様に向かって叫んだ。

「何っ!?」

「クレイトーを取っときて下さい。レギオン様しか神殿には入れないんでしょう、神殿だったらまだもつはずですっ!」

かなり強固な造りの神殿だ。

一度や二度のタイターンで潰れることはないはずだ。

「それは分かっている。しかしここで私が抜けたらガリオンは‥‥」

「オレが何とか食い止めてみせます、レギオン様はクレイトーを‥‥!」

いいのか、こんな事を言って!?

自分で自分に問い掛けてしまう。

だけど、今はこれしか手がないっ!

それに、もともとは一人でクレイトーを守ろうと思ってここへ来たんだ。

それを考えると、まだこの状況の方がましなのかもしれない。

「‥‥分かった、ネイビー、おまえを信じるっ!」

なおも迷っていたが、レギオン様はそう言って、いきなりばっと神殿に向かって駆けて行った。

オレを信じてくれた‥‥!

「これで神殿の方は‥‥」

ほっと息をつこうとしたが、そんな場合ではないことに気付く。

「ふん、面白いことを言っていたな。おまえ一人で俺様を止めることが出来ると思っているのか!?」

倫快そうにガリオンがこちらを向いた。

ぞぞっと悪寒が背筋を走る。

む、無理かな‥‥やっぱり‥‥

「一人じゃないわっ!」

そんな臆病風に吹かれたオレの前に、すくっとサキが立った。

「あたしもいるっ!」

そうしてサキはぐっと拳を構えた。

とたん、改めてオレは自分が恥ずかしくなる。

とにかく、頑張るしかないっ!

オレはとりあえず呪文を唱え始めた。

「ネイビー‥‥」

ん?

サキが拳を構え、目線はガリオンからはずさないようにして、オレに声をかけた。

オレは呪文の詠唱中なので、声は出ない。

ただ、サキの方へ顔を向ける。

「かっこいいよ」

へっ!?

サキはそう言ったかと思うと、ガリオンに 飛び掛かった。

「はあっ!」

パシュパシュっ!

サキの手許から指弾が弾き出る。

「とっ‥‥!」

ガリオンが器用にそれをよける。

そら耳だったのかな‥‥

「トルネード!」

もう一度問い返したいのを山々に、オレは魔法をくり出した。

ゴオオオオオオオツッ!

巨大な竜巻きがおこりガリオンを巻き上げる。

「やった!」

サキのけん制が邪魔で竜巻きを避けきれなかったガリオンがもろに呑まれる。

サキは‥‥と見ると、すっと目を閉じて精神統一をしている。

「次で決める気か‥‥」

サキの目的はオレにも分かった。

サキの援護をすべく、慌てて次の呪文に移る。

竜巻きが次第に小さくなり、ガリオンが竜巻きから抜け出る。

今、気付くべきだったんだ。

後ほどオレはそう思うことになる。

だけど、オレは本当に未熟で‥‥自分達の圧倒的な優勢を疑わなかった。

ガリオンがかなり弱っているとオレの目には映った。

だから、ガリオンが竜巻きに呑まれながらも、召喚の呪文を唱えていたなんて夢にも思わなかった!

「アイスブレード!」

氷の刃がガリオンに襲いかかり、その皮膚を切り裂く。

「飛翔!」

瞬間、ばっとサキの体が舞い上がった。そしてその反動で、

ゴキュウッ!

サキの渾身の力をこめた蹴りがガリオンの脳天を直撃する。鈍い音がした。

決まった!

頭蓋骨陥没ってとこか。

「やった、サキっ!」

オレはガリオンは倒れると疑わず、喜びのあまりサキに駆け寄ろうとした。

「駄目っ! 油断したら駄目よっ!」

サキが近寄るオレに向かって怒鳴る。

「呪文が‥‥くるっ!」

えっ!?

必死のサキの叫び声にオレはガリオンの方へ向き直った。

その瞬間‥‥

「オーディン!」

ドウッ‥‥!

ガリオンの召喚の呪文が耳に響いた。

血まみれになったガリオンがニヤリと笑いなから、その呪文を唱える。

やられた‥‥!

巨大な人影か出現する。

オーディン‥‥これが‥‥

場違いな感動を覚えた。

「‥‥」

その巨大さと偉大さにオレの目が大きく見開かれ、オーディンが剣を大きく振り上げる様も夢の中のことのように思えた。

「ネイビーっ!」

サキの叫び声も別世界の事のようだった。

オーディンの剣がスローモーションのように振りおろされる。その剣に真っ二つに切り裂かれる自分を想像した。

ここまでか‥‥短かったなオレの人生。

死を覚悟する。

‥‥何故か、剣先から目が離せなかった。

ザンッ!

「‥‥!」

剣が人間を切り裂いた。

真っ赤な血が飛び散って、視界が赤に染まる。

しかし、その飛び散る血はオレのものではなかった。

サキッ!

驚愕にオレは目を見開いた。

目の前で展開されるその光景が、信じられなかった。

――信じたくなかった――

オーディンは、オレの目の前にかばうように飛び出したサキの胴体を真っ二つに切り裂いた。

サキーっ!!

一瞬に絶命してしまったサキの体を抱きながら、オレは叫んだ。

一人称:チヒラ・クリスチャンセン

私達が神殿に駆け付けた時、そこはまるで地獄のようでした。

あたりは真っ赤だった。

赤い光景‥‥

二つになって絶命していたサキ

そして、泣きながらサキを呼んでいたネイビー。

血まみれになった魔戦将軍のガリオン。

「何があったの‥‥!?」

呆然と呟くことしか私には出来なかった。

「ネイビー、サキっ!

はっ、と振り返ると、崩れ落ちる神殿からレギオン様がクレイトーをくわえて走って来た。

「これは‥‥」

レギオン様は一瞬呆然としたけれど、すぐに理解したようだった。

キッとすごい形相で、殺気を隠そうともせずガリオンを睨みつける。

「ガリオン‥‥」

「おっと、ここは引かせてもらうぜ」

レギオン様が飛び掛かるタイミングをはずし、ばっとガリオンが引いた。

「けっこうまともにくらったしな。そっちに勇者がそれだけ集まって、こっちは俺一人ってのはさすがに分が悪いからな」

「逃げる気か!?」

そう言ったのはエストリス。

「戦略的撤退と言ってくれ」

挑発に乗る気はなかったらしい。

ガリオンはそう言うと、ばっと森に向かって駆け出した。

「待てっ!」

「待って下さい、エストリスさん。危険ですっ!」

追い掛けようとするエストリスさんを慌てて私は呼び止めた。

ガリオンがああ言って、逃げたのだって罠かもしれないのだ。

それはエストリスさんにも分かったみたい。

くっ‥‥唇を噛み締めると、その場に留まった。

サキちゃん‥‥」

そうだ‥‥!

振り返ると、呆然と要さんが死んでしまったサキさんのそばに膝をついていた。

「こんな‥‥信じられない‥‥」

それは、私も同じ。

信じられない、サキさんが死んでしまうなんて!

「レギオン様、どうにかならないんですかっ!?」

私はレギオン様のそばに言って聞いてみた。

だけど、レギオン様は首を振るだけで、

「だめだ、私には蘇生の呪文がない、だいたい蘇生の呪文なんて、アトランティス中の神官を集めても何人唱えることが出来るか‥‥限り無く幻に近い呪文だ」

「そんな‥‥」

私は呆然とサキさんを見下ろした。

じゃあ・・・・じゃあ、このままサキさんが死んだのを見ていることしかできないのっ!?

「およっ‥‥」

そんな時、場違いに明るい声がして、みんなは一斉にそっちを振り返った。

「ありゃー、大変なことになっちゃったみたいだね」

見ると、そこには飛竜から降り立った魔戦将軍のリンとマリアがいた。

「クレイトーは取られたみたい」

レギオン様のクレイトーを見ながら、マリアが肩をすくめた。

「まいったね、ガリオンの奴」

「だど、ガリオンも取れなかったみたいだな‥‥リン君、レギオンから奪ってみる?」

「無駄な努力はしない主義なんだ」

リンがそう言って笑った。

私はだんだんと怒りが込み上げてきた。

こっちは大変だってのに‥‥

「ま、ボクはいいよ。クレイトーはとれなかったど、ティースがスクレップの力を解放してくれたおかげで、剣の威力が増したからね。さすがに、ここまでは付いてきてくれなかったど‥‥」

「マリアはいいよね、それに比べてボクは何もないしなー」

「あのね‥‥」

さすがに腹がたって、二人に文句を言ってやろうとした私の前にすっと出てきたのは、オリアスだった。

「リンって言ったね。君はもしかして悪魔神官?」

「・・・・? だったらどうかしたの?」

オリアスの質問にリンは不思議そうに答えた。

「そうか‥‥」

ん?

レギオン様がつぶやいて、何のことやら私には理解出来ない。

「あの、レギオン様‥‥」

オリアスの質問の意味を捉えたらしいレギオン様に、私は聞いてみようとしたけど、

「見ていれば解る」

と、言われて、大人しく様子を見ることにした。

「交換条件がある」

「何?」

「彼女を生き返らせて欲しい」

そう言って、オリアスはサキを指差した。

「‥‥!?」

リンは呆気にとられたようにロを開いた。

それは私も同じ。

オリアスったら何を言い出すの!?

「復活の呪文‥‥魔戦将軍の悪魔神官だったら使えるだろう」

あっ‥‥そうかっ!

私は理解した。

みんなも同様だったみたい。

サキさんを生き返らすことが出来るのは何も味方ばかりじゃない。

オリアス君ってすごいな‥‥感心してしまう。まさか敵の復活の呪文を計算するなんて。

だけど、魔戦将軍が勇者に復活の呪文なんてかけてくれるのかしら‥‥と、面喰らったのはリンも同じ。

一瞬唖然としたかと思うと、次の瞬間吹き出した。

「あっ‥‥はっはっはっはっ! 何、マジで言ってるの!? だったら、顔を洗って出直すんだね、どうしてボクが敵に復活の呪文なんかかけてやらなくちゃいけないんだよ!」

心底愉快そうに言ったかと思うと、リンはふいに怒鳴り付けた。

やっぱりね‥‥と、

「だから交換条件だと言っているんだ」

あくまで冷静にオリアスが言った。

もしかして‥‥‥

オリアスは振り返るとレギオンを見つめた。レギオンが軽く領く。

オリアスはごくりと唾を飲み込み、そうしてリンに向き直る。

「ここ、第九王国のクレイトーと引き換えだ。このクレイトーと引き換えに彼女を生き返らせて欲しい」