キャラクター登録用紙に、どういう立場で物語に絡んでいきたいかを書かなかったために、完全に宙ぶらりんな状態で登場している第1回。
ダメのダメダメです。
「グリプくん!! まだ、ヴァルキリーヴァニッシングの痕跡って見当たらないのかい? さすがのボクでも疲れちゃうよ!!」
三体のデーモンの攻撃を一人でさばながら、カスミ・クリアロゥマは後ろでヴァルキリーヴァニッシングが放出された痕を探すというグリブ・ファルダラルに声を投げかける。
彼女――カスミの手には一見武器らしき物は握られていない。ただかすかに燐光を放つ鎖で縄まれた手袋をはめているだけである。
それでデーモンの攻撃をさばく。ついでに言えば後ろを振り返って声を掛けるだけの余裕が彼女にはある。
鍛えに鍛えたカスミの防衛能力は、常人では決してたどり着かない領域にまで達している。
しかし、相手がぬめぬめしていたり、関節がどこにあるのか判らない異形の者相手では、得意の組技に持ち込めない。
「そんなこと言われましても、見つからないことには仕方がないでしよう?」
グリブは転がってる焦げた木材や天幕の切れ端らしきものを仔細に観察していた。
どこにも、痕跡は見当たらない。
唐突に辺りを探してまわるグリプの手が止まる。
「これだけ探しても見つからないってことは……」
脳裏に浮かんだ一つの可能性、ヴァルキリーヴァニッシングは命持つ者を消失させる効果しかないのではないか? ……ありえない話ではない。
彼の知る限りの伝承では、ヴァルキリーヴァニッシングが物理的な破壊能力を持っていると示唆するものは一つもないのだから……。
つまり、今までの努力は徒労。よって長居は不要。
グリブの灰色の脳細砲が結論を導き出す。
カスミの方をちらりとグリプは見やる。
「ええい、はい、うりゃ、ちぇぇい」
戦いに熱中していてどうやらこちらに視線をやる余裕がないようだ。……よし。
心の中で、即興詩『カスミに捧げるバラード~お人よしの貴方を忘れない~』を歌いながらグリブはカスミを置いてひそやかに立ち去った。
パーフェクトな行殺に終わった第2回。
そりゃまぁ、「会った後にどうするか」を書いていないのですから、当然と言えば当然の結果です。何考えてんだ、当時の俺。
ちなみに決め台詞は、『ルーンクエスト』のアーナールダのパクリです。
帝国軍に接触する。
クレア姫に会ってみたいため。
軍用トレーラーを見て、彼らに付いていけばクレアに会えると考え、アーデル村へと向かう。見つかった場合、抵抗したりはしない。
もし、帝国軍と調査隊とが戦闘になった場合は、弱者を守るよう行動する。
「いつだって、武力以外の方法がある筈だよ?」
アーデル村での戦闘は包囲戦のはずだった。帝国軍の圧倒的な勝利、そのはずであった。
しかし、すでに事切れたリュウジとラルフによって少なからぬ兵土達がマルクトヘと送られている。
軍用トレーラーの前に立つグスタフは、軍人として生きられぬ者が実際どれだけ多いかを、この後に及んで思い知っていた。包囲の網はあっけなく崩れたのだ(カスミ・クリアロゥマはトレーラーの側にいたので、かなり恐い目にあった)。
功を焦る者、JOKERをクレアに近づくための道具として扱う者によって、今までに築き上げた戦場が崩れて行くさまを目の当たりにせざるを得なかった。JOKERを道具扱いにしていたわけではないアクーユ・ライルアルリームも例外ではなかった。
アーデル村は乱戦の最中にあった。
とりあえず立場を確立させようと考え、レジスタンスに身を置くことにした第3回。
いずれ「クレアの気持ちを考えたことがある!?」という意見の人とぶつかる方向に持っていこう思っていた矢先に、早くも実現してしまい、次回からどうしようと再び頭を悩ませることに。
レジスタンスに入る。
アーデルのような惨劇は、二度と見たくないから。
レジスタンスに入り、彼らと行動を共にする。戦闘の時は、基本的に他の人達(特にDS以外)を護ることに専念する。
このまま王国に向かっても良いが、アーデルを経験した以上、何か自分に出来ることをやりたいと思う。
アクエリアスは元々は熱心なクレアの信奉者であったが、先のDS狩りの際にクレアを諫める意味で深紅の王女に攻撃を仕掛け、逆に殺された経経がある。
マルクトで復活後、行くあてもなく彷徨っていたところをレジスタンスに迎え入れられたのだ。
アクエリアスは微かに聞こえるレイリスたちの会話と笑い声を昏い赤の瞳で見つめている。
「? ……どうかしたの?」
「え? いえ、別になんでもないわよ」
アクエリアスの様子がおかしいことに気づいたカスミ・クリアロゥマがそばに寄ってくるが、無意識にアクエリアスは身を退く。
それに気づかなかったのかカスミは樹の根元に腰を下ろし、夜空を見上げる。
「ボクね、ようやく自分の居場所が分かったような気がするんだ。帝国を抜け出して、あっちこっちを旅して色々なものを見て感じて。……バレンテイアに行く前に自分の出来ることをしようと思うんだ」
「自分の……出来ること?」
微かにカスミを見るアクエリアス。カスミは大きく頷く。
「そう! ボクの出来ること、人を守る事!」
屈託のないカスミの笑顔にアクエリアスの心の棘がちくりと痛んだ。
次の瞬間、リョウの首が宙に舞う。
「この恥知らず。そんな狭量の立場でしかものを見られないから彼女の……クレアが命を削ってやっている事がわからないのよ」
紅い瞳を決意の炎で染め、アクエリアスは刀についた血を払い落とす。
思わぬ位置からの攻撃にレジスタンスはパニック状態に陥ってしまい、それぞれてんでバラバラの方向に逃げ出しはじめる。そこに統一された意思などありはしない。
「やめろよっ!!」
逃げるレジスタンスを背中から切り捨てていたアクエリアスの刀をカスミが白羽取りで受け止めた。
「それってなんのつもりだよ! アクエリアスさんは何になったつもりだよ!!」
うけた剣の威力を完全に殺しきれなかったのか、アクエリアスの剣にカスミの血がつたう。
「何のつもり!? じゃあ、あなたたちは何をしているつもりなの!? 良いことをしてる? 正しい? それは何を基準に言ってるの!? あなたたちは……あなたたちはクレアの気持ちを考えたことがあるの!!」
「ないよそんなの!!」
カスミはアクエリアスの刀の根元を握りしめる。
手の平から血が吹き出るが、それ以上斬れない。
「くっ……動かない!?」
「クレア王女の気持ちなんて分からないよ! 分かるはずがないじゃないか!!」
「だから、そんな身勝手なことができるのよ!!」
アクエリアスは強引にカスミを突き飛ばす。
「狭量なものさしでしか物を見られないから、彼女の気持ちが分からないのよ!!」
「分かるもんか! 分かりたくもないよ!!」
カスミは血の流れる拳を握りしめ、アクエリアスを見つめる。
その顔は涙に濡れていた。
「ボクはボクの見方しかできないよ……ボクはアーデルみたいなのはもう見たくないんだ……だから……」
だが、カスミの言葉は最後までアクエリアスに届くことはなかった。
突如、森の中から飛び出してきた黒い影がアクエリアスをさらっていったのだ。
「バカヤロウ……」
炎は徐々に小さくなり、レジスタンスたちは敗走していく。
大地は赤い血で染められ、悲しみに包まれる。
カスミは涙を拭くと森の中へ駆けてていった。
「クレアがメインのシナリオで、クレアを退場させたらどうなるだろう?」などと邪悪なことを考えていた第4回。
今回の件で、何人かが別ブランチに強制移動することになったのですが、これはマスターの予定に私のアクションが組み込まれたということでしょう。
しかし、この決め台詞。第2回と言い、いったいどんなシチュエーションで発言することを想定していたのか、当時の俺。
バルキリーブレッシングを止める。
これ以上、人を一方的に消滅させられたくないから。
ザール攻略に参加し、先月と同様に他者を守ることに専念する。
バルキリーブレッシングが放たれそうになったら、組み付いて止めるか、それが間に合わないなら、瞬間的にヴリドラの向きを変えるなどしてクレア自身を巻き込むようにする。
「ボクには、人を楯にする勇気なんてないよ」
クレアは笑った。
その時だった。
戦場に散らばるトランプ部隊、その内の10体ほどがヴリドラの輝きに共鳴するかのように紅い輝きを放ち始めたのだ。
「今は……分かる必要はないです。答えはすべて違うのですから。真実なんてものはその人が分かってさえいれば良いのです。ただ共通するものは……事実。私が大罪を犯しているという事実」
ひび割れ、すでに力を失いかけているヴリドラが突如として極大までの紅い光をその刀身に宿らせた。
「デモンスリンガーはこの時のために生まれたのです。この時、この場所で、戦うために!!」
クレアが剣を高々と差し上げる。
「ヴァルキリー……バニッシング!!」
「だめーっっっっ!!!」
閃光が走る瞬間、溢れる光に紛れてクレアの腕にカスミ・クリアロゥマが飛びついた。
だが、それは遅かった。
ヴリドラから紅い閃光が天に向かって伸び、それと呼応するように戦場のあちらこちらでトランプが自爆し、紅い光を放っていた……。
紅い光が戦場を覆い、消え去ったあと、カスミは信じられない光景を目にしていた。
誰もいなかったのだ。
いや、正確にはカスミが飛びつき、向きを変えたためにクレアの横で戦っていた者たちが全て消え去っていたのだ。
「……うそよ……」
カスミは両手で己の口を覆う。
ヴリドラの暴走した力は10才の少女が飛びついたところで、止まるものではなかったのだ。
ケイオスウォリアーの姿はない。危険を察知して撤退したようだった。
「父上……姉上……」
カスミの横で幽鬼のように立っていたクレアが何事かを呟き、力無くその場に崩れ落ちる。
傷つき、ひび割れたヴリドラがクレアの横で鈍い輝きを放っていた。
どうせ死なないんだから自首しちゃえー、とちょっと強気に出てみた第5回。
結果は、見ての通り『ジャイアント・ロボ』。ちなみにマスター曰く、「書き終わってから気づきました」
とのことで、無意識のレベルにまで落としてこそプロ、ということでしょうか。
クレアを助ける。
クレアならVVで消えた人を復活させる方法を知っているかもしれないから。
トスカニアに着いた後では、街に入ることも殆ど無理になると思われるので、トスカニアに向かう途上で接触する。
オズワルドにザールでのことを話し、クレアには大量消滅の罪がないことを伝える。
「ボクが、ヴリドラの向きを変えたりしたから、みんな消えちゃったんだ」
「……クレアさんにはまだやり残したことがあるはず……そうは思わないんですかぁ!?」
セラが叫んだ。
「それとこれとは話が違いますね。我々は帝国軍人で、彼女はそれを裏切った。違いますか?」
ヒューイの冷静な言葉がセラの口を閉ざす。
しかし……
「それは違うよ。悪いのはボクなんだ」
この騒ぎに乗じてだろう、いつの間にかカスミ・クリアロゥマが彼らの後ろに立っていた。
「オズワルドさんに話をさせて! ボクが悪いからクレアさんが……ボクが飛びついたからみんな……みんな消えちゃったんだ……お願いだよ……ボク……ボク……」
少女はそう言って肩を震わせる。ややあってディレンが頷いた。
「おいでよ、おっちゃんの所に案内してやるよ」
ディレンも本心では迷っていたのだ。
クレアのことをこのままにしていて良いのかどうなのか。まだクレアのことが分かったわけではない。それなのにクレアを助けようとすることには反対だった。
だが、もしこのカスミという少女の言葉と、オズワルドの判断があれば、なんらかの道が見えるかも知れない、そう考えたのだ。
裏切った者たちをヒューイとレイチェルに任せ、ディレンはカスミを伴ってオズワルドの天幕を尋ねた。
「おっちゃん。話をしたいって子が……」
天幕の中は血臭に満ちていた。
ディレンの心臓が一瞬動きを止める。
天幕の中にいたのはオズワルドだけではなかった。ケイオスウォリアーもいたのだ。
そして、混沌の使者はオズワルドの胸に剣を突き刺し、血の花を咲かせていた。
「遅いわよ……もう死んでしまった」
ケイオスウォリアー、アクエりアスは笑っているような泣いているような顔でディレンを見る。
「き・さ・ま!!」
ディレンが駆けた。
一瞬で混沌の使者に駆け寄るとナックルで殴りつける。だが敵は剣の腹でその拳を受け止め、ディレンの体を投げ飛ばす。
「よくもおっちゃんをおおっっっ!!!!」
ディレンは叫んだ。
あの時騒ぎを起こしていなければ、このような事態にならなかったかも知れないのだ。
「怒りなさい。恐怖も払いのけるほど怒りなさい!」
「うるさい、黙れ!!」
ディレンは怒鳴りながら連撃を繰り出す。
その騒ぎに周りのものも気づきはじめ、にわかに部隊は騒然となり始めた。
「クレアさんを……クレアさんを呼ばなくちゃ……」
カスミはその様子に恐怖していた。
よろめくようにその場から離れると、一直線にクレアのいる護送車を目指して走った。
「どうしました! 何が起こったんです!!」
途中でヒューイが声をかけるがカスミはそれを振り払って走り抜ける。
騒ぎはどんどん大きくなっていくようであった。
「クレアさん!!」
護送車の扉にたどり着いたカスミは力任せに扉を叩く。
「オズワルドさんが……オズワルドさんが!! お願い!」
カスミは悲痛な声を上げる。
その時だった。
「手伝ってやろうか?」
地の底より響きわたったかと思うような声がカスミの背後で聞こえた。
声自体は鈴のように軽やかであるが、その声色は、すでに人のそれではない。
「どかなければ、君ごと真っ二つにするが、な」
カスミの後ろにはもう1人の混沌の使者……ヴィーネが立っていたのだ。
「やだ……いやよ!!」
カスミは吠えた。
「退くものですか! あなたの思い通りなんかにさせるものですか! ボク……私は……!」
「なら死ぬがいい」
ヴィーネの手の中でDWが祖々しい輝きを放つ。
「醜いですわね」
だがヴィーネの攻撃よりも早く、マルチナ・ホーネッカーの一撃が混沌の使者に向かって放たれていた。
それは狙い違わずヴィーネの右手を切り落とす。
「ぐうっ!!」
苦悶の声を上げて飛び退くヴィーネ。
「いまの攻撃は……」
「DSを超えたつもりでしょうが、まだまだ上には上がいるものですわ、ヴィーネさん」
妖艶に微笑むマルチナ。
見るとヴィーネの斬られた右腕の再生速度が異常に遅くなっているではないか。
「同じ混沌から作られたこの『ラクシャーサ』、お味はいかがだったかしら?」
「ふざけるな!!」
ヴィーネは左手に『鳬渓」を持ち替えるとマルチナに斬りかかった。
どういう原理かは分からないが、マルチナのDWには混沌の使者の再生速度を遅める能力があるようだ。
鳬渓とラクシャーサ、2つの強力なDWが打ち合わされ、火花を散らす。
「早く、今のウチですわ!!」
腕力では劣るマルチナはヴィーネの斬撃を受け流しながら背後のカスミに声をかける。
「でも……でもボク……いっぱいいっぱい人を殺しちゃったんだ……だから……」
「貴方に迷っている暇なんてないんでしょう! しっかりなさい、カスミ・クリアロゥマ!!」
マルチナは徐々に押されはじめる。縦横無尽に戦えるCWと違い、マルチナは常に背後を守らなくてはならないためだ。
「とつげきある~!!」
遠くからホウの声が開こえ、続いて閃の声がわき起こる。
「良いことも悪いこともすぺて飲み込んで、戦うのが貴方たちデモンスリンガーでしょう!? 定命なるわたしに、その力を見せなさい!!」
「戯れ言ばかりを言うな!!」
ついにヴィーネの一撃がマルチナを捕らえた。
肩口を切られ、マルチナは悲鳴をあげて倒れる。
「さ、そこをどくのだ。私がクレアを救ってやろうというのだ。これならば誰の責任でもない。そうだ、君にも責任はないぞ。オズワルドにもそう言ったのだがな……残念な結果になってしまったよ」
全身に負った傷口から白煙を上げながらヴィーネがカスミに近づく。
カスミは息を吐くと拳を固めた。
「せっかくこのヴィーネ・エンジェルが優しく接してやっていると言うのにいぃぃぃぃっっっっ!!」
ヴィーネが鳬渓を振り上げる。カスミは目をつぶった。
「どけ嬢ちゃん!!」
カスミの右横からファーシー・サンツァンの声が響いた。
それと同時に銃弾がヴィーネに向かって放たれる。
ヴィーネはその銃弾を僅かな動きでかわした。
「やっぱ、当たらねえか」
ファーシーは吐き捨てるように言う。
人間が放つ弾丸などDSやCWにしてみれば充分かわせる速度なのだ。
だが、ヴィーネの動きが一瞬止まったことで、ホウ率いるクレア救出部隊がその場に到着し、またマルチナも傷を負いながらも立ち上がってきた。
「ち……」
さすがに形勢不利と見たのか、ヴィーネは夜の闇に向かって飛び去った。
「クレア・コリエンテの死刑執行、しばらく待ってもらえないだろうか」
クレアの処分を決める会議の席上、参考人としてばれたトレディ・ロングはそう言い放った。
生粋の帝国軍人として、また“悪魔憑き”となってもその忠誠心の高さから信頼を置かれていたトレディの爆弾発言とも言える言葉に会議に出ていた者たちは一様に驚きを隠せなかった。
「それは……どういう事ですか」
議長を務めるアークが尋ねる。トレディはヴリドラの暴走はクレアが望んでしたことではないこと、トスカニアに向かう途中に姿を見せたカスミという少女の蛮勇によって引き起こされた事故であることを説明した。
「なるほど、でもそれがどうしたというの? 暴走させたのはクレアだし、たとえカスミという子が邪魔をしなくったってクレアはやったかも知れないのでしょ?」
痛烈に言い放つのはリュキス・スターヴェルである。
「あなたも軍人なら、余計な私情は挟まないで欲しいわ」
「私情ではない」
トレディはリュキスに向き直る。
「今クレアを処刑したとして、残るのは彼女を慕って王国を裏切った者たちの怨みだけだ、と言っているのだ。納得できる理由がなけれぱ、ヤツらは暴徒と化して我らに襲いかかるだろう。それは得策ではない」
なるほど、とアークは頷く。トレディの言葉には一理も二理もあったのだ。
クレアが話さないだろうことはわかっており、それを受けて「ケイオスウォーリアに訊いてみよう」と発言することで、無知を罵られることを狙った第6回。
結果は、ルーメンスが出てきてこんにちは。ギャー。
今までのアクションを見て頂ければわかると思いますが、私のキャラクターに首尾一貫した行動は基本的にありません。
クレア/CWと話す。
ヴァルキリー・ブレッシングで消された後のことを知りたいため。
ザールでVVを使う前の台詞からすると、クレアはDSであることの意味を知っているように思える。
機会を見て接触し、VVで消された人達は、本当に「消滅」してしまったのかを尋ねる。話してくれないようなら、CWに訊こうと考える。
「……あの人達(CW)なら、知ってるのかな」
その日の午後、クレアは1人でトスカニアの城壁跡にただ1つ残った尖塔の上に座っていた。
いつ来るとも知れないケイオスウォリアーを警戒してのことである。
それまでにも数度、ケイオスウォリアーではなくバレンティア王国トスカニア方面軍の残党がゲリラ的な戦いを仕掛けてきていたが、すべてクレアと守備に来ていたEz隊が撃退していた。
だが、この時やって来たのは敵の集団ではなく、カスミ・クリアロゥマでただ1人であった。
「あなたは……」
クレアの紫の瞳がカスミをとらえる。
足元に立っている少女はザールでの悲劇を引き起こした張本人の1人であったからだ。
「ザールのレジスタンスが何の用ですか? そんな所にいると、たとえ子どもであっても容赦はしませんよ」
「……レジスタンスはもうないよ。だからボクもレジスタンスの人間じゃないの」
10才の少女は大人びた表情でクレアを見上げている。クレアは脅しは利かないと分かると、静かに地面に降り立った。
2人の距離は僅かに2m、クレアの剣技であればカスミをミンチにするなど造作もないことだろう。
だがカスミは怯えることなくクレアに近寄る。
「1つだけ教えてクレアさん。ヴァルキリーバニッシングで消された人はどうなるの? 本当に死んでしまうの?」
真摯な瞳でカスミはクレアに問いかける。だが、返ってきた答えはもっとも残酷なものであった。
「死にます」
ただ一言であった。
カスミは目の前が真っ暗になったかのように、その場に座り込んでしまった。
「……じゃあ私は大勢の人を殺してしまったのね……私がこの手でヴリドラの向きを変えたりしたから、ザールの人たちは死んでしまったのね……」
『悲しむことはない少女よ。世界の真実はいつも残酷であり、そして美しいのだ』
突然、カスミの頭の中にしわがれた声が響いた。
そして次の瞬間、頭の中に膨大な量のヴィジョンが流れ込む。
それはデーモンの故郷、精神が肉体を凌駕する世界、ウィルダーネス。
名を呼ぶことすら畏れられる混沌の主『冥王』と、その配下である堕ちたデモンスリンガーであるケイオスウォリアー。
そして、混沌が全てを駆逐し勝利する様であった。
『世界は我が主によって1つとなり、永遠に在り続けるのだ。消えた者どももすぺては我が主の糧となる。少女よ、貴様はどうだ? 我と共に来るか?』
金縛りになったカスミの影から枯れ木を思わせる男が姿を現したかと思うと、クレアの右腕に軽く触れた。
その瞬間、クレアの腕はどす黒く変色し、まったく動かなくなった。
「ルーメンス・アングィス!」
クレアが叫び、ヴリドラを左腕一本で構える。
だがルーメンスと呼ばれた男はけくけくと不気味な笑いを発するだけで逃げようともしない。
「我に赤き閃光を浴びせる気か? 我はパス・ウォーカー。光を浴びたところでなんら損するところも無し」
それに、と男は付け加える。
「紅き姫よ。貴様の体に我を打ち倒して更にこれから生ずる混沌を止めるほどのカが残っているか? よしんば我を飛ばすことが出来たとして、次を放てるか?」
「五月蠅い!」
クレアは叫ぶと同時にヴリドラを横薙ぎに振るう。
だがルーメンスはまるで木の葉をつかむかのように切っ先をつまんだではないか。
「しようことも無し。バランシァもまったく馬鹿な賭を仕掛けてきたものだ。手駒がこの程度では面白くもない」
ルーメンスは何事か咳きながら手首をひねり、クレアを地面に叩き伏せた。
「もはや貴様の右腕、二度と動かぬと思うが良い」
苦悶の表情で立ち上がるクレアに枯れ木のような男は笑いかけると、現れたときと同様にカスミの影の中へと消えていった。
「クレアさん!」
ルーメンスが完全に消えて金縛りが解けたカスミがクレアに騒け寄る。
クレアは少女の腕の中に倒れ込み、気を失った。
「まぁ俺は外陣なんであんまり詳しいことはわからないけれど、力スミちゃんって言ったっけ? きみの陰の心にルーメンスは潜り込んでクレアに近づいたんだと思うよ。さもなきゃあの姫さんがあんな簡単に壊に潜り込ませたりしないよ」
外陣と言ってもカバリストの一員、デーモンメンテナンスである。ファン・クライシスの言葉は的を射ていた。クレアをトスカニアヘと運び込み、そのまま基地内に居座ったカスミは苦渋に満ちた表情で睡眠薬を投与され寝かされているクレアの横顔を見た。
「ボク……いろんな人に迷惑かけてばっかりだ」
静かに眠るクレアにカスミは咳く。
「誰だって迷感をかけて生きてるんだよ。さ、お嬢ちゃん、こっちに来な。ちょっと事情を話してもらうから」
カスミはニルに連れられて医務室から外へ出ていった。
部屋の中にはこんこんと眠り続けるクレアとサンウージ、そしてイシュタム・メリアルーノが残った。
「よう、お姫さん、聞こえてるんか?」
眠り姫にイシュタムは語りかける。
「アイツら、ケイオスウォリアーってのは圧倒的な強さで『恐怖』を与えるためにここに来てるんやろ? オレら、今までやったら、それに負けとったな。しやけど、今はちゃうで。負けへんよ。お姫さんみたいな勇気があるからな。……なあ、オレらの事、信じてみるのも勇気やで……大丈夫やって。オレら、ケイオスウォリアーなんかにならへんし、負けへんって」
そんだけや、と言い残してイシュタムは部屋を出る。
だが、すぐに追ってきたサンウージに呼び止められた。
「なんやねんな?」
「……クレア姫が気づかれた。伝言があるそうなので部屋まで来てほしいとのことです」
「ホンマか!?」
サンウージの言葉が終わる前にイシュタムは走り出していた。
その背中を見送りながらサンウージはつい先ほどクレアからかけられた言葉を思い出す。
(トランプはジョーカーの妹たちであって妹でないのです。私にもう少し力があれば、彼女たちには静かに1年の命を全うさせてあげられたでしょうが……もう、私にも時間も力もないようです……すみません。リトライルさん)
クレアはそう謝った。
「トランプを使うしかないっていうんですか」
サンウージは眩いた。
「クレアから聞いた話や。誰に言うてもええけど、不安がらせるだけはすんなや」
そう前置きしてイシュタムは仲間たちに話を切りだした。それははじめて聞く者たちに少なからぬ衝撃を与えるものだった。
間もなくトスカニアにルーメンス・アングィスという呪殺教団トップが率いる混沌が降りてくるだろう事。
それ自体を防ぐ手だてはない事。
そしてそれが最大のチャンスである事、という話だったのだ。
「チャンスって言うのはどういうこと?」
ちゃっかりと仲間入りしたカスミが尋ねる。
「つまりや、混沌が降りてくるっちゅうことは向こうの世界との道が開けるっちゅうことや。一気に親玉のところに行って息の根を止めることが出来るかもしれん、っちゅうことやね」
イシュタムの言葉に誰とも無くつばを飲み込む。
クレアを守る……なんてことはどうでもよく、台詞こそがメインアクションだった第7回。秘匿名はもちろん『大怪球ごと月にテレポート』です。
この行為が成功すると、他の多くの人達の戦闘アクションを根本から崩壊させることになるため、台詞に書くに留めました。結果は「戦闘後に採用」ということで、半分成功といったところ。
クレアを守る。
CWに対抗できる手段を持つのはクレアのみであるから。
CWに対して根元的な対抗手段となりうるのは、現在のところヴリドラのみであるため、クレアを守るよう行動する。
VVの発動にも協力する。もはや彼女1人が全てを背負い込む理由など何処にもないのだから。
「トスカニアそのものをとばすことは出来ないの?」
「つまり、混沌の使者……ケイオスウォリアーってのは負け犬デモンスリンガーなワケ?」
「そうね、そう言って間違いないわね」
事態がここに至って、ミリル・エーデルタインは己の知る内陣の情報を漏らし始めていた。
それは混沌の使者の成り立ちであったり、異世界ウィルダーネスのことであったり、カバルの姿であったりした。
ただし、それを話す相手は慎重に選び抜いたものだけではあったが。
そう、いまだ『冥王』によるリアリティ侵食の危機は去っていないのだ。
カスミ・クリアロゥマは首を傾げながらもカバリストの話を聞いていた。
「え-と、つまりはそういう事だね?」
理解しにくい部分も多々ある話だが、敵の正体は知れた事になる。
「でもなんでボクなの? もっと強い人はたくさんいると思うのに」
その言葉にミリルは額く。
「分かってるわ。でも私は英雄を越える英雄を捜したいの。あなたがその適任……」
「そんな……ボクなんて」
ただの弱虫なのに……
そのつぶやきをかみ殺し、カスミは下を向く。
そして、時はもっとも過酷な時間を指し示す。
ヒトではないモノ、ヒトを捨てたモノ、ヒトを越えようとするモノと、ヒト。
全ての尊厳を賭けた戦いが始まる。
「この街自体が一種の祭壇ってこと?」
「せやね。そういう事になる思うわ」
戦いが始まるほんの少し前、カスミ・クリアロゥマは帝国軍の科学者からそんな話を聞いていた。
「トスカニアの街にマルクトがあること、長い歴史の中で特に血にまみれていること、その他諸々の事情か知らへんけど、そういう状態になってるらしいわ」
だから帝国軍はこの地に柱の女を運び込んだのだ。
霊的に強化されているこの地ならば実験がやりやすいとの判断だったらしい。
「おかしいと思わへんか? なんであのおっさんはこの街に執着するんや? 混乱を呼びたいだけやったら帝国に手下ひきつれて現れた方がよっぽど効果的やん?」
「そうかも……」
カスミはしばらく考え、顔を上げた。ミリルの言葉が頭の中にちらつく。
「わかった。なんとかやってみる」
そして、そう答えた。
「連中、だいぶと混乱してやがる!今ならまとめちまう事もできる!やっちまえ!!」
クレアに肩を貸しながらザンが叫ぶ。
戦士たちは戦場に散らばる混沌の使者を数人がかりで追いつめ、一カ所に集め始める。
「クレア!!」
と、前線に立つクレアの元にカスミが駆けてきた。
「……」
カスミはクレアの耳元で囁き、紫の瞳をのぞき込む。
「できる?」
「やってみます」
カスミの問いかけにクレアは領くことで答える。
「じゃぁ、それまでは私が守るわ!!」
クレアの前に立つカスミ。体はカを抜き、柳の枝のようにしなやかに自然体である。
襲いかかる混沌の使者。
槍を放つそれはカスミの心臓を狙う。
だが穂先はその身に触れる寸前で空を切る。
カスミの体は右にずれていた。
再度狙う。
だが少女は捕らえ難く、さながらディルフの使う忍術のように舞い踊る。
「破っっ!!」
掌底が混沌の使者の右腕関節に命中、続けぎまに左腕と両足の関節がずらされる。
「防御術は殺しの技じゃないから、この程度だけど……逆に良かったみたいね」
地面に転がった敵を見つめながらカスミが呟く。
敵は壊れれば再生する。だがずれた程度では再生しないようだ。
抜けた関節を引きずり、獣のような声でわめく。
「クレア!!ぶちかませ!」
その時、ザンの声が聞こえた。
トスカニアの地下に『アイツ』を呼び寄せる祭壇のような状態になった場所があるらしいって。
それを壊せば、少なくとも今すぐに『アイツ』が顕現するような事はなくなるはずだよ。
でもちまちま潰していたら時間がなくなっちゃう。
だから……
「わかっています、カスミさん。これが最良なのでしょう」
それにこれは裁かれなくてはならない罪。
その罪の名を、純潔な白き星よ、お前には知らせたくはない。願わくば永久に輝き続け、導いて欲しい。
裁かれねばならぬ罪。だが、血は流すまい。
これ以上、この地が穢れぬように。
「姫!!」
アキラがクレアに向かって駆ける。
「クレア!!」
ザンが敵の一体を抑えながら叫ぶ。
「ヴァルキリー・バニッシング!!」
その全てが届く前に、クレアは全てを乗せた紅い光を放っていた。
赤光は地を舐め、混沌の使者たちを飲み込む。
「地鳴り? いえ……これは!!」
カスミは足元が不意に揺れ始めのを感じた。
それとほぼ同時に大地が割れ、浮かび上がる。
『穢れは私と同じ。私が全てを無に帰します』
紅い光に包まれ浮かび上がる大地の前に、クレア・コリエンテが磔のような姿で浮かんでいた。
「ウィルダーネスヘ行くの!?」
『……分かりません。この穢れた大地を封じること。それはあの世界ではできない事です……』
クレアの姿が足先から粒子になって消え始める。
それは今まで見たバニッシングとは全く違う現象であった。
『戦士たちよ……もし戦う意志をもつならば、あの世界を救って下さい。この世界を守りきり、新たなカを生み出して下さい。この哀しい戦いを終わらせるために』
「姫!私を置いてどこに行かれるのです!」
アキラが叫ぶ。クレアは哀しげに笑った。
『アキラ……長い間仕えてくれてありがとう……あなたにはどれほど感謝しても足りません。あなたは私を常に信じてくれました。どれほどそれがカになったか分かりません。ですが……ここでお別れです……』
クレアの姿は粒子となって消え、その瞬間、穢れた大地も紅い光の中に消えた。
こうして紅光を背負った姫と、闇を背負い裏切りを選んだ戦士、世界を救おうとした二人の英雄は消えた。
永遠に。
前回に『継ぐ者』なる称号を貰い、「何それー?」とパニクったままにアクションを書くことになり、結果、「まだ折り返し地点」的な感覚で書いた最終回。
アクション自体はほぼ没ですが、称号や前回までの貯金からリアクションに結構登場しています。
後に、オフイベで「カスミを応援する」というアクションが複数あったことをマスターに教えられ、かなり衝撃を受けました。
『掛け』の内容について知る。
自分の行動に意味があるのかを知りたいため。
今回、トスカニアで何もしなかったように見えるカバルに対する不信感と、かつてルーメンスが口にした『賭け』という言葉への疑問から、異界への繋がりが強いと思われるVVの跡地にてルーメンスに呼びかけ、真相を知ろうとする。
「やろうと思えば、いつでも盤ごとひっくり返せるの?」
カスミ・クリアロゥマは一人クレア・コリエンテが消えた場所に立っていた。
辺りはあの時のヴァルキリーバニッシングの影響で大きくえぐれ、クレーター状に土の壁を作っていた。
「賭け……ね」
カスミは小さく咳く。
ルーメンスはカスミたちに向かってパランシァとのことを「賭け」といい、戦いを「ゲーム」と称した。
命がけで戦う彼女らに向かって、だ。
何がゲームか、とカスミは思う。そのゲームのせいでどれだけの人か傷つき、死んだと思うのだ。
このトスカニアもそうだ。
帝国と王国の間で和平が成ったというが、この戦い自体が彼らのゲームとして行われていた可能性だってある。
ばかばかしく、腹立たしい話だ。
「何人死んで……何人殺しちゃったと思うのよ」
自分のしたこと、ルーメンスに対して、そしてカバルに対して債りを覚える。
例え自身がカパルの者によってクレアの後継者だと認められているとしても、だ。
――腹立たしいだろう?
――滅ぼしたくはないか、こんな世界
「うるさい、黙れ」
不意に聞こえた不気味な声に対してカスミは冷徹とも言える声を発した。
――君だって分かっているはずだ。カバルがこの世界をゲーム盤として、我が主の顕現とこの世界の住人の命を賭けて遊んでいることを……自分たちは決して危険にさらされない場所にいて、だぞ? 腹が立つだろう?滅ぼしたいだろう?
「黙れ。死んでまで真理が理解できない馬鹿者が」
言い放つカスミの前方、頭ほどの高さの空間におぼろげに何者かの影があった。
それがかつてヴイーネ・エンジェルと呼ばれた者であることを知る者は少ない。
形を失い、思念となった狂える使者はくすくすと笑う。
――強がりを言う。真理とは一体なんだ? 君はそれに到達したとでも言うのかな?
「少なくとも、自分がゲームの駒であることに疑問を持っている時点であなたよりはマシね。醜い妄想の塊であるあなたよりは、ね」
――言ってくれるな、小娘が!!
「消えなさい! 私は『継ぐ者』。その程度の誘惑で堕ちるほどヤワではないわ」
――……くく、怖い怖い……
ふ、とヴィーネの気配が消える。カスミは冷や汗を流していたことに気づいた。(ぞっとする……アレがルーメンスの……いいえ、人の心の弱さが生み出す怪物ね)
底知れぬ圧カを持ったヴィーネの思念。
生半可な意識の力では、あの侵食するような思念に対抗できないだろう。まさに冥王の手足である。
「どうしたの? そんなところで突っ立って」
不意に後頭部の方角から声がした。
振り返るとクレーターの縁にレイリス・フィヤタが立っていた。
「レイリス……さん?」
「どうしたの? 幽霊に出会ったみたいだよ」
カスミと見た目が同い年の少女は屈託なく笑うと、穴の底へと飛び降りる。
「ここでクレアちゃんが消えちゃったんだね」
「そうだね……」
レイリスの言葉にカスミは領く。
あの時の光景は嫌でも目に焼き付いている。
紅い光に自身を包み込み、粒子となって消えていった
王女の姿は、彼女に適していようがいまいが、神に棒げられる生け贄のように見えた。
「ところで、さっき誰と話していたの? ものすごく怖い声だったよ、カスミちゃん」
カスミの表情に気づいたのか、レイリスが明るい声を出す。
「そう? ボクそんなに怖い声を出してた? ちょっと敵と戦う時の練習をしていたんだけど」
「そうなの? だったら良いけど」
レイリスは不思議そうにしながらもカスミの言葉を信じた。
「おい、そこの2人。ここはもうすぐ埋めるぞ。早く出てこないと生き埋めだ」
と、またもや頭上から声がした。
今度は帝国軍人のトレディ・ロングが爆薬らしきものを持って立っていた。
「ここはルーメンスとやらによって穢されているらしいからな。呪術的な処置を施した爆薬で粉砕するんだよ」
ごそごそと這い上がってくるカスミとレイリスに手を賃しながらトレディが説明する。
「自分たちのしでかした事だ。せめてこのくらいはしないとな」
トレディは言いながら二人の少女の頭に手を置く。
自分の子ども、というには2人とも大きすぎるが、戦いの場を離れるとそんな気がしてくる。
「我が軍はまもなくこの街を離れる。勝手な言い分かも知れないが、後始末くらいはつけたいし、それに……俺たちの帰る場所は地獄になりそうだからな」
地獄、という首葉にレイリスが敏感に反応した。
「それってどういうこと?」
「言葉の通りだ。南方方面軍は最初からバレンティアに進出などしていないし、そのような記録もない。そういう風に扱われることに決定したそうだ。帰れば軍事法廷が待っているだろうな」
トレディはとんでもないことを言ってのけた。
「軍として戦う意味はすでになく、帰っても士官は犯罪者扱いだろう。……だが、あの紅い姫の想いだけは損なわれてはならない。俺の故郷を守るためにも、な」
なんとしても国に帰り、トスカニアのように“冥王”の祭壇となる可能性のある場所を破壊する。
軍人はそう言い切った。
「……レイリスちゃんも」
桃色の髪をした少女が軍人に近寄る。
「自分のできることをするよ、一所懸命」
真撃な瞳の少女の言葉にトレディは満足そうに頷く。
その時だった。
「……え?」
不意にカスミが素っ頓狂な声を挙げた。
「ルーメンスが……近くに!?」
「ケリが付いたみたいだな」
唯一残った混沌の使者、レイス・レヴィードはトスカニアの街はずれで晴れ渡っていく夜空を見上げていた。
隣には戦うこともせず、カスミ・クリアロゥマが座っている。
「……これからどうするの?」
「さぁな、この身がどうなるか……」
何かを確信しているかのようにレイスは眩く。
最後の戦いに参加せず世界の有り様を見たい、ルーメンスにそう告げたとき、闇の父はそれを了承した。
なぜ、許されたのか、理由などわかるはずもない。
「最初はクレアを救いたい、と願っていた。……今はどうだろうか? オレ自身にもわからない」
体の底からわき起こる破壊衝動は“冥王”のものだろうが、“レイス”としての意識がある限りそれに逆らっていられる。
だが、夜空を見ているのも僅かのことだった。
レイスを中心として空間がぐにゃりと歪んだのだ。
「そうか……引かれる、か。それも運命」
レイスは寂しげに微笑むとカスミを見た。
「いずれ、時の果てで出会うことがあれば」
「……そうだね」
その言葉を残し、レイスの体は消えた。
「……“消えた”か」
物陰からファン・クライシスが姿を見せた。
「今、ラティーシャ……いや、バランシァ様から連絡が入った。ウィルダーネスでもかの者の放逐に成功したそうだ。レイスも主であるかの者に引きずられ、世界の果てへと飛ばされたのだろう……」
何かを言いかねているような表情でファンは告げる。少しの沈黙が流れるが、それを破ったのはファン自身だった。
「俺は……このままバランシァ様についていくことにした。新たな13人委員会も決まったようだし、このまま謎の中で動き続けるのはごめんだ」
ファンは言い放った。そしてカスミを見る。
「きみはどうする? 内陣の者に次の英雄候補として選ばれたのだろう?」
「ボクは……行かない」
カスミは膝を抱えたまま言った。
「カバルにどんな理由があるか知らないけれど、ボクたちを利用して戦いを広げルーメンスなんかとゲームのようにしていた……それは許されない」
カスミは立ち上がる。
「異世界ウィルダーネスを救うためにボクたちの力が必要だったとか、そのために力を強くしようとした、とか理由は色々付けられると思う。だけど、納得できないんだよ」
英雄となれ、というならなってやろう。カスミはそう思う。
ただし、その英雄とは世界の裏側を解き明かし、自らの足で進むための力だ。鎖につながれた飼い犬などになる気はさらさらない。
「……そうか。それなら良い。内陣には俺から伝える……」
ファンがそう言いかけたときだった。
「その内陣ってのは私のこと?」
ぎょっとするファンの前にいつからそこにいたのか、ミリル・エーデルタインが立っていた。内陣は空間を跳躍するというが、それを見たのは初めてだった。
「驚かせちゃった? ごめんなさいね」
ミリルはそう言って小さく頭を下げる。内陣の者にありがちな撤慢さはそこにはなかった。
「カスミさん。本当に行かないつもり? カバルの意志に逆らうのは破滅を意味するかも知れないわよ」
自嘲気味にミリルは言う。
ファンは内陣の言葉の裏が読みとれた。
確かミリルといえばカバル13人委員会の次代『尾を共にする双魚』侯補に挙がるほどの実力者だったはずだ。その結果はもう出たというが、その場にはミリルの姿はなかったという。
ミリルは双魚の座を蹴ったのだ。
それはカバルに対する反逆に当たるかも知れない。
内陣の反逆はファンのような外陣のそれとは種類が違う。
秘密を知りすぎている者の反逆はカバルの粛正対象になるだろう。
「あんた……本当にいいのか?」
ファンはカスミではなくミリルに尋ねる。ミリルは頷いた。
「私はね、これから作られるだろうカバルには興味はないの。クレアや先代の双魚様が目指した世界に興味があるのよ。それに……」
ミリルは微笑む。
「試験を受けて得られる真理って本当の真理じゃないわ。与えられた地位や知識で人の革新なんて得られないと私は知っているもの」
そうか、と咳きファンは背を向けて歩き出す。
それに今までどこに隠れていたのか、ユカナ・クスキが並んだ。
「つき合うわよ。どこまでも、ね」
ユカナはバーストらしい人なつっこい瞳でファンに笑いかける。
「『精霊たちの帰還』、これの本当の意味なんて全然分かっていないもの。全部分かるまで、あたしはどこまでも行くわ」
ユカナの言葉にファンはやれやれ、と肩をすくめる。
「止めないでしょうね?」
「止めやしないさ。ただ俺も分かっていないんだぞ」
「構わないわよ、これから調べていくんだもの」
2人は何か言いながら歩いていく。カスミはそれを黙って見送った。
「……人なんて、そう変われないわ。カバルの手の上で踊らされていると分かっていても……」
半ば自嘲気味にカスミは言う。
この小さな体でどこまでカバルの秘密に迫れると言うのだろうか。
巨象に蟻一匹で何ができるというのか。
「人は変われるわよ。想いさえ見失わなければ」
ミリルが妹に言うように優しく語りかける。
カスミは小さく頷く。
「そうだね。変われるよね。時間はかかるだろうけれど。ボクにはその時間はたっぷりあるし」
満天の星空のもと、カスミは足を踏み出した。
行き先などまだ決めていない。
だが、その歩みには迷いはなかった。
ミリルは静かに、小さな生まれたての英雄を見送っていた。