『ソード・ワールドRPG』などのファンタジーTRPGでプレイすることが多い戦士系の男性キャラクターです。
戦士系とは言いましても、いつものように「戦士系(戦うとは言っていない)」という感じのキャラクターで、アクションでは口ばかりを動かしていました。結果、共通リアクションに登場することは殆どなく……という印象を抱いていたのですが、改めてリアクションを確認しましたところ、アクションを提出した8回のうち5回登場することができていました。打率は6割強といったところで、このブランチの共通リアクションへの登場率は3~4割でしたので十分平均以上ではあったのですが、交流していたティテール・イノーグ氏の打率が10割だったため、実際以上に失敗していたと感じていたようです。
話は変わりますが、第6回個別リアクションにて、それまで同じ個別リアクションに登場はしていたもののプレイヤーレベルでは交流の無かった方のキャラクターから突然好意を示され、「え!?」と驚くこととなりました。上記のとおり、アクションはあまり上手くいっていないと感じていましたので、「初期設定とマスター描写の勝利なのでは?」と悩むことになった次第です。
名前は、同時に『アラベスク#1』に登録した「ムーカ・シムカ」と合わせて、「むかしむかしあるところに」が元ネタ。さらにその元ネタは、『月刊OUT』の投稿コーナーに採用されていた次のショート・ショートです。
- 出題
- 「むかしむかしあるところに」
- 応募要領
- この書き出しを使って、面白いショート・ショートを書いて下さい。
- 投稿(私の記憶によるもののため不正確です。)
「む、カシムか? シアルトコロニーはどうだった?」
「全滅です」
「そうか……」
西暦xxxx年、人類は滅亡の危機に瀕していた。
「……いったい、どこまで続いているの?」
夜。そこは広大な砂海の片隅だった。
パチパチとはぜて新を燃やす、オレンジ色の炎を見つめながら、女剣士(アルーシャ・カイルク)は小さく呟いた。
「ずっと、だ」
男(シアルト・コロニー)が短く答える。
「もうすぐ、一週間になるわ」
「……じきに着く」
彼女の言葉に対する男の返事は素っ気ない。
「大丈夫、本当。明日の夕暮れまでには着く」
暗闇の中から炎が作る明かりの中に現れたのは、遊牧民の男(ヒシャーム・カリフ)だった。無口で無愛想な男だったが、この数日、「連れている何頭かの馬の世話は、その彼が一人でやっている。
「……ごめんなさいね」
炎の向こう側に座っていた四十過ぎの遊牧民の女(サーラ・ジュバイル)が言った。
「盗賊から助けてもらった上に、野営地まで送っていただくなんて……」
「あ……いえ、そんなつもりじゃ」
アルーシャはあわてて言う。
「あんまり、砂海が広いものだから……」
砂海を渡る商人の隊商に同行していた彼女たちは、何日か前、盗賊たちに襲われていた彼らを助けた。
そして、彼らを一族の野営地まで送っていく途中なのである。
「あ……」
ふいに、少し離れたところで夜空を見上げていた童顔の青年(ティテール・イノーグ)は声を上げた。
「流れ星だ……」
夜空を駆け抜けていった流星の輝きに、彼はふと、何がが始まりそうな、そんな予感を感じていた。
「あなたたちはどう思う?」
そこは、『シャカラの氏族』の者たちが野営するセファールのオアシス。
女剣士アルーシャ・カイルクはそう聞いた。
「……おまえはどうなんだ?」
同じ剣士のシアルト・コロニーから逆にそう聞き返された彼女は、少しためらってからこう答えた。
「……私は、厄介ごとに首を突っ込むのは嫌いじゃないし、このまま見過ごすのも、ね」
「……困っている人を見捨てるようなことをしたくない。素直にそう言ったらどうです?」
祈祷師のティテール・イノーグが言う。
「ふん、ティテール、おまえだってそう思っているんだろう。……俺たちが口を出すべきことじゃないとは思うが、ここに砂航船があれば……、な」
シアルトはそんな風に呟いた。
そこから少し離れたところでは。
「こうなると俺たちが彼らに助けられたことも、良かったのか、そうでないのか……」
遊牧民の青年ヒシャーム・カリフは、迷いながらそう呟く。
「……信じましょう、彼らを。そして、自分たちを。私たちが彼らに助けられたのも、そして星が降った次の日に野営地に着いたのも、きっと天帝の御意志なのです」
サーラ・ジュバイルは祈るように言う。
「ああ、そうだな……。こうして生きていればこそ彼女を……、ファーティマ様を、お守りすることもできるのだからな」
ヒシャームもまた、そんな風に言うのだった。
「はたして、私たちの、そして彼らの行く末には、何が待ち受けているのだろう……」
それは、“星”に導かれた彼らに共通して感じる確かな思いだった。
星は天の宝石。
偉大なる天帝ロークゥエンスの砕け散った宝冠の煌めき。
その永遠に失われた輝きの残照。
「……ならば、天から降る星は」
黒髪の踊り子アグレイアー・フィンザードは、ふとそんなことを思う。
夜空に輝く星々を見上げ、吟遊詩人と称する妖精リュース・リューの奏でるその楽曲にあわせて、ゆっくりと踊りながら。
「天から降った星は、《光砂》になるのだそうだ」
その彼女の呟きに、遠い昔の過ぎ去った日々のことを思い出しながら、そう答えたのは、アビス・ララディハウアーという名の壮年の剣士。
「……だから、遊牧民たちは星空のことを、天の“光砂の海”と言うのですね」
祈祷師だという童顔の青年ティテール・イノーグは、呟くように言った。
そこは、セファールの水場を見下ろす砂丘の上。
そこには、彼らの他にも、数人の男女の姿がある。
その小さなオアシスは、砂海に暮らす遊牧民『シャカラの氏族』の野営地になっており、彼らはこの数日の間にそこを訪れた、いわば“遠来の客人”なのである。
「……すまんが、一族の者だけで決めなくてはならぬことがあるのでな。しばらくの間、席を外してほしい」
鍛治師の統領であり、また一族の重鎮でもあるファハド老にそう言われ、彼らとは古いつきあいのアビスは、“客人”たちを連れて天幕を出た。
空は、満天に星の輝き。
「シャカラっていうのは、古い言葉で《光砂》のことだって聞いたことがあるよ」
ふと思い出したかのように、遊牧民の若者が言った。彼フェミュール・フォルチュナは、ここからさほど離れていないあたりで暮らす、別の氏族の長の息子である。
「……“光砂の民”ってわけか」
若者の言葉に、寝転がって天を見上げていたシアルト・コロニーという名の剣士がそう応じる。
「……つまり、砂海の“星の民”というわけね。確かに“天帝ロークウエンス”を崇めるあの人たちには、似合いの名前かもしれないわ」
その傍らにいた女剣士アルーシャ・カイルクはそんな風に続けた。
「……ここにいらしたのですね」
少し離れたところからかけられたその声に彼らが振り向くと、みごとな金色の髪をした一人の少女が、数人の遊牧民たちとともに砂丘を上がって来るところだった。
少女の名はファーティマ。
彼ら『シャカラの氏族』の『星読み」と呼ばれる天帝の巫女。
「……明日、私たちは“聖地”に向かいます」
彼女は言った。
「そうか……。なら俺も同行させてもらうよ」とアビス。
……サランドルとのつきあいだからな。
“死者については言葉にしない”という遊牧民たちの禁忌を知る彼は、そう口に出しはしなかったが、それでも彼は自分なりに、かつて友人であった少女の父サランドルのことを想っていた。
「もしよければ、私たちも」
そう続けたアルーシャの自分と同じ青い瞳を見つめ、少しの間ファーティマは、じっと何かを考えているように見えた。
「……わかりました。もし、あなたがたがそれをお望みでしたら」
その様子を見て小さく嘆息したファハド老は、“客人”たちに向かって言う。
「だが、もし儂らと一緒に来るのであれば、儂らの決まりごとも守ってもらわねばならぬ。それでもよろしいか」
その老人の言葉に、あたりは一瞬、沈黙に包まれる。
しかし結局、それに“否”と答える者は、一人として現れはしなかった。
もしかすると、それは、彼らがこれから先に出会うことになる様々なできごとに対する一番最初の選択であったのかもしれない。
「……何が足りなかったんだろう」
ヒシャームは呟くようにそう言った。
“剣聖”と呼ばれるライラレンのもとを訪ね、剣を教えてほしい、そう頼み込んだ青年に、彼はただ黙って首を横に振った。
「……俺は、ファーティマ様を守るため、少しでも強くなりたいだけなのに」
「たぶん、それだけだからさ。考え方は人それぞれだろうけれどな。ただ強くなりたいだけなら、何も彼でなくてもいいわけだろう」
剣士のシアルトはそんな風に言う。
「なあ、それより教えてくれないか。ファハド老は、なぜ彼らと話をすることさえ拒むんだ? その方が互いにわかりあえると思うんだが。サーラ、あなただってそう思っているんだろう」
シアルトの言葉にサーラは少し考えて言う。
「たぶん、三年前のことに関係しているんだわ」
「三年前?」
アルーシャが聞き返す。
「その頃にも流れ星が降ったな。……そう言えば、“封印の剣”がなくなったのもその頃だったかな」
「ヒシャーム!」
サーラは声を上げる。
「あ……。すまない、今の話は聞かなかったことにしておいてくれ」
ヒシャームは慌てて言った。
「私も詳しいことは知らないし、もし知っていたとしても禁忌に触れることだから、教えてあげることはできないけど」
サーラはそんな風に言う。
「……そうですか。いずれにしても、これ以上悪いことが起きなければ良いんですが」
祈祷師のティテールが言う。もしかすると、何か漠然とした不安を感じていたのかもしれない。
「そう言えば、あの人……“剣聖”と言われるほどの人が、なぜ私たちと一緒にいるんだろう」
ヒシャームは呟くように言った。
「……彼にはその必要があるってことね」
アルーシャの言葉にヒシャームは呟く。
「いったい、彼は……」
様々な疑問が彼らの中で渦巻いていた。
口調が突然変わっていまして、「誰だお前」という感じです。
「あの人たちは、どうするつもりなのでしょう」
『シャカラの氏族』の一人サーラ・ジュバイルは、そうファーティマに聞いた。
「……私たちは“光砂の民”として“光砂の民”が為すべきことをするのです」
サーラには、そんなファーティマの答えが眩しく思えた。それは、まだサーラに迷いがあったからに他ならない。
……いったい自分が何を為すべきなのか。
「……私は他の人の邪魔をすることしか考えていなかった。それが、たとえあの“魔導師”のでも」
サーラは小さく呟く。
「それは仕方ないよ」
慰めるように言ったのは、遊牧民の客人の一人で剣士のシアルト・コロニーだった。
「あなたたちは今までずっと巻き込まれて、受け身しか取れなかったんだから」
「……私たち探求者のしてしまったことが許されることだとは思いませんが、せめて私たちにも償いを、償いの機会だけでも頂けませんか」
機導師バーズ・アーセマーンはそんな風に言い、同行していた剣士のラムド・シャディールは、何も言わず、ただ黙って頭を深々と下げた。
「顔を……、あげてください」
サーラは言う。
「あなたたちの思うようになさってください。私も、私のするべきことをきっと見つけますから」
しかし、彼らのそんな決意とは裏腹に、遺跡では事態はさらに悪化していたのである。
探求者たちにとってことの始まりとなった砂海に降った流星や遊牧民たちが“聖地”と呼ぶ遺跡でのできごとが起きる以前から、外部の者に対してどこかよそよそしいところのあった遊牧民たちの態度は、表面的には今もあまり変わっていなかったが、“よそ者”を“よそ者”として、ひとまとめに括って判断しなくなったことは事実である。
むろん、だからと言って、すべての者が同じように彼らに受け入れられているわけではなかったが、むしろ、そうした様子は遊牧民の中よりもそうした者と同行することに危惧を抱く探求者の中にこそ、多かったと言える。
「興味本位や“力”が欲しいとかいう安易な気持ちで試練を受けようと思っている奴は、帰ってくれ。これは遊びじゃないんだ」
シアルト・コロニーはそんな風に言う。彼自身、試練を受けるつもりもそんな資格もないと言い切るあたりが、彼が本気を示していた。
「……俺には、試練を受けることは、魔物を封じるという目的があるとは言え、“力”を得るための一つの手段としてしか、とらえることができないからな。心にやましいところのある奴は、試練を受けるべきじゃない。まして、命が惜しい奴とか、死んでも構わないなんて思っているような奴はな……」
そして、そんな彼に答えられなかった者は少なくない。とくに、《璧気楼の都》の噂を聞いてから、試練を受けるために遊牧民のもとにやってきた者の中には……。
もしかすると、そんな甘い気持ちを持った者を振り落とすために、二十日以上にも及ぶ砂海行があったのではないか。ふと、そんな風に思えた。実際、旅が終わり、新月の夜を迎えた時に試練を受けられるほどの気力もそんな体力も残っていなかった者は少なからずいたのである。
茫漠と広がる流砂の海の只中に、ただひとつ、孤高にたたずむ灰色の小さな岩があった。
そこを見下ろす砂丘の上、ファーティマは言った。
「……あの石碑のところに《都》への門が開きます。ここから先は砂海、流砂の海。道はあります。それがどこかは私にもわかりませんが。流砂には流れがあるので、淵のような深みのある場所は必ずしも一定ではありません。船や明かりは使えません。歩く時は一定のリズムを刻まないように注意して、風に飛ばされた砂塵が舞い落ちるようなリズムで。そうでないと“流砂の魔物”を呼んでしまいます。一緒に渡ることができるのは、たぶん二〜三人が限度でしょう。試練はあの場所から門を越え、ここに戻ってくるまで続きます。《都》に行き着けない者もいますし、もし行き着けてもそこでのできごとは、漠然としたイメージでしか覚えていられないと思います。その理由はわからないのですが……」
新月の星空の下、砂海の青白い輝きを初めて目にした者は少なくない。
そんな闇の中、試練を受けた者がどれくらいになるのかはわからない。
確かに言えることは、“流砂の魔物”に飲み込まれる何者かの悲鳴を聞いた者がいるということと、試練から戻らなかった者が三人いるということだけだ。
女性型機獣人リムリア・ベイオウルフと同行する機導師のルファード・ギルサナスは、命を賭して……、そんな決意で望んだ試練から生きて戻ることはなく、そして、砂海行の途中に彼ら遊牧民のもとを訪れたシッド・ジャビーという名の妖魔もまた……。
「……僕は、妖魔として生きていくのが嫌になったんだ。だから……」
結局、それが彼の最後の言葉になったのである。
ヒシャームやシアルト、あるいはフェミュール・フォルチュナといった者たちが覚悟の定まらないように見えた者たちをなかば無理やり止めたせいもあったのか……。それ以上の犠牲者は出なかった。そして、そこに無念の想いが残ったことに疑う余地はない。
はたして、そうした犠牲が必要なものなのかは、誰にもわからなかったが。
「……〈歴気楼の都〉というのは、“彷徨える都市”アルムトゥバルのことではないのでしょうか?」
ケロ・オマールは言った。
彼自身、一度はそこに行ったことはあるが、実を言えば、その時のことはよく覚えていない。
「話を聞いた限りじゃ、何とも言えねえな。あまり“彷徨える”って感じじゃなさそうだが……」
アビス・ララディハウアーがそう応じる。
彼らは試練を受けた。しかし、二人とも〈都〉に行き着くことはできなかったのである。
「……そんな雑念を持っていたせいだろう」
シアルト・コロニーはそんな風に言う。
「雑念?」
とフェミュール・フォルチュナ。
「……どこかに、それを確かめたいという気持ちがあったのだろう?」
シアルトは言う。
「……そうかもしれません」
キケロは応える。
「けれど、それ以上に私はみんなを助けたかった」
「もしかすると、それすら雑念かもしれないがね。ファーティマを見てみろ」
シアルトは続けた。
「彼女は、多くの想いを受けとめながら、その時にできることを、せいいっぱいやっているだけさ」
「雑念など入り込む場所はない……?」
フェミュールは呟くように聞く。
「……俺には、試練を受けることはできなかった。たぶん、ファーティマやファハド老のため、自分に不相応な“力”を望んでしまいそうだからな」
ヒシャーム・カリフは呟く。
「しかし、そのために払える代償など……」
いったい、どこに……。
個別リアクションにて、アルーシャ・カイルクさんから好意を示され、リアクションを読み終えた後に部屋で喜びの舞を踊ることになりました。
「そんな……、“守護者”を“聖地”から追い払う……と?」
金髪の少女は、何かを恐れるようにそう言った。
「どういうことだ?」
そう聞き返したのは、剣士のシアルト・コロニー。
「……この地上界は、おまえのいるべき場所ではない。……エイラーンは魔神に向かって、そんな風に言ったわ」
エイシャは言った。
……そして、ある意味で、それは間違っていないのかもしれない。
そんな風にも思えた。
「ねぇ、本当にそんなことが……、魔神を地上界からどこかに……、たとえば魔神が元々いた世界に帰すことができるの?」
アグレイアー・フィンザードが問う。
彼女自身、できることなら魔神を封じるようなことをしたくはなかったのだ。
「……あの人がそれだけの“力”を持つ魔導師ならば、あるいは……」
ファーティマに代わってそれに答えたのは、ティテールだった。
「魔神を解放してあげるわけにはいかないの? 今までずっと囚われていたんでしょ」
アグレイアーの言葉に、ファーティマは答えを躍踏う。
「けれど、それでは……」
力なくそんな風に言う。
「いったい、あの都市の廃墟には何があるんだ?」
剣士のアルム・ゼウィロシュが聞く。
「……あなたたちを信用できないわけじゃないけれど、軽々しく口にできることではない。そうだね、ファーティマ」
彼女を庇うようにそう言ったのは、剣士のレオ・シーブン。
「だが、人を信じることも必要だよ。君にもそれはわかっているはずだ」
シアルトはそんな風に言う。
「……それはわかります。けれど……」
そう言いかけた彼女の言葉を遮るように、女祈祷師オフューリィザ・カーダは言う。
「ファーティマ、あたしたちを、みんなを信じてよ。もうあなたは一人じゃないんだから。あなたが何かを背負っているなら、あたしたちも一緒に背負ってあげるわ」
「……何かそうできない理由があるんですね」
ティテールは静かに言った。
「……もし魔神を封じないと、何が起きるの?」
アルーシャが聞く。
「……今まで魔神の“力”を借りて封じていた“力”が解き放たれてしまうのです」
少し躊躇いながら、彼女は答えた。
「……そういうことですか」
ティテールは呟くように言った。
「……かつて、この地上界に大きな災厄をもたらした“力”だと言われています」
ファーティマは続ける。
「……もし私にそれを封じておく“力”があるなら、私はどんなことでもするつもりです。けれど、私にはそれほどの“力”はないのです。ティテール、アルーシャ、私は間違っているのですか? 誰かが犠牲になることで成り立っている今の地上界は……。どれほどの犠牲者が出ても、危険に満ちた未来に立ち向かうのが正しいことなのでしょうか」
しかし、その時、ファーティマの問いに答えられる者はいなかったのである。
「……あの魔神は、無事に帰れたかしら」
古代都市の天蓋に輝く宿命石の夜空を見ながら、アグレイアー・フィンザードはそう言った。
「……さあな」
応じたシアルト・コロニーの返事は以前と少しも変わらぬ素気のないものだ。
「……冷たいのね」
アルーシャ・カイルクは、焚き火の向こうに座るシアルトをじっと見つめた。そんな言葉とは裏腹に、彼女はシアルトに惹かれる自分に気づいていた。
「これから、どうなるの?」
アルーシャは言う。彼の答えは想像できたが。
「……なぜ、俺にそんなことを聞く?」
それは、彼女が想像した通りの答え。
「……どうやら、女心には疎いようですね」
ティテール・イノーグは軽く笑いながら言った。
「なんのことだ?」
「さぁ、本人に直接聞いてみたらどうです?」
ティテールは笑顔でそんなことを言う。
……ティテールったら背中に尻尾でも隠しているんじゃないでしょうね。
ふと、そんなことを彼女は思う。
「……ふ~ん、アルーシャさんってそういう趣味をしてたんだぁ」
アグレイアーにまで言われてしまう。
もう! どんな顔をしてれば、いいのよ。
「アルーシャ、どういうことだ?」
結局、そんなシアルトの問いに、
「……知らないわよ!」
アルーシャはそう答えることしかできなかった。
目の前で赤々と燃える焚き火の照り返しのせいで、赤く染まった顔がシアルトに気づかれなかったのが、彼女にとってはせめてもの救いだった、と言えるのかもしれなかった。
「……あなたは、なぜ何も語ろうとしないのだ?」
シアルト・コロニーは言った。
「もし、あなたが知っていることを話していれば、このようなことにはならなかっただろう」
「彼らの“想い”を無視して……かね」
男は言った。
「……何が正しいかを語れる者など、いないのだ」
剣聖ライラレン……、そう呼ばれる男。
「……なぜなら、すべての答えを知っている者など、どこにもいないからだ」
シアルトは言葉に詰まる。
「……真実はそれを知る者の心の中にしか存在せず、それ以外の者にとっては理解しようとすることすら困難なもの。そして、もし君がそのことを理解しているのなら、これ以上私が語る必要はないだろうし、それが理解できないなら、今はそれ以上を語っても無駄なことだ」
「……まだ私は未熟だ、そう言いたいのか?」
シアルトは言う。
「そうではない。未熟でない者など、いないのだ」
ライラレンは言う。
「……覚えておくがいい。言葉だけでは、すべてを伝えることはできないということを。そして……、伝え切れぬ“想い”をどう受け止めるかは、君たち次第なのだ」
あんな切ない表情は、見たことがない。
吟遊詩人(自称)の妖精リュース・リューは思う。
……剣聖ライラレン。いったい、この人は、何を知っているんだろう。この砂海を放浪し続ける間に、どんなことを経験してきたのだろう。
しかし、リュースには想像もつかなかった。
「……彼らと和解することはできないの?」
そう言ったのは、女剣士アルーシャ・カイルク。
「今は、お互いに協力する必要があるわ。封じられた“力”をこのまま妖魔たちの好きにさせることはできないでしょう」
「……それは、この間のことからもわかるはずだ。互いに協力できれば、私たちだけでは不可能なこともできるようになる」
同じく剣士のシアルト・コロニーがそう続ける。
実際、その必要を感じていた者は少なくない。“守護者”である炎の魔神を失った今、妖魔たちの動きに対抗するためには、他に方法がなかったのも事実かもしれないが。
「……できるかもしれません。できないかもしれません」
しかし、ファーティマは言葉を濁す。
「なぜ、躊躇うの?」
踊り子のアグレイアー・フィンザードは言う。
「今は、やれるだけのことをやっておくべきではない?」
「……もし魔神の“力”に代わるものがあるなら、それは互いの“信頼”に他ならない。彼女はそう考えていた。
「……確かに、妖魔たちに対抗するという名目なら、和解できるかもしれません。けれど、それでは本当に和解したことにはならないと思うのです」
ファーティマは言う。
「……彼らに彼らの“想い”があるように、私たちには私たちの“想い”があるのです。互いに相手の“想い”を理解できるなら、本当に和解できるでしょう。けれど……」
そう、人の“想い”は、それほど容易に理解できるものではない……わね。
アルーシャは思う。そして、それが理解できることが少し悲しかった。
「“想い”ですか」
機獣人のカスタネット・ブルールーンは、複雑な表情を浮かべる。
「……その“想い”がわからない限り、私たちは彼らと同じ場所に立つことはできないのでしょうか。そんな風には思いたくないのですが……」
「……少なくとも、わかろうと努力する必要はあるだろうな。もし、言葉だけですべてを伝えることができないとするのなら……いや、そうだからこそ……か」
シアルトは呟くように言った。
剣聖ライラレン、そう呼ばれる男の言葉を思い出しながら。
「……覚えておくがいい。言葉だけでは、すべてを伝えることはできないということを。そして……伝え切れぬ“想い”をどう受け止めるかは、君たち次第なのだ」
シアルトの呟きに、ティテールはファハド老とのことを思い出す。
「……いつかは壊れるとしても、それが無意味だとは限らない。もしかすると、あの時、ファハド老はそう言いたかったのかもしれませんね」
「……ええ、私にも、少しだけわかるような気がします。ならば、あきらめてしまうのは、まだ早いですね」
ファーティマは言うのだった。
……エイラーンの調査隊は、ヴェール・ブレスロックが先導して進んでいた。
彼の後を、剣士たちが続いてゆく。
「止まれ」
ヴェールが手をあげて、皆を制した。
「あれは……妖魔だ」
そこには、互いに睨みあう異界の者どもと、銀色に鈍く輝く“魔鏡”。
「いかん。あれを妖魔どもの手に渡すわけには!」
ディオルが弓に矢をつがえた。剣士たちは、剣に手をかける。
「……やるのか」
シアルト・コロニーが聞いた。ディオルは無言でうなずく。
息を整えた。
「……あの女」
シュマ・アシュが呟く。
突然、その女がこちらを振りむいた。
……シャリート。深緑の瞳の魔女。
「隠れていてもしょうがないでしょう。出ていらっしゃい」
探求者たちは、ゆっくりと姿を表わす。
「大勢で、御苦労なこと」
「その“鏡”に、手を触れないでもらおう」
ディオルの言葉を、サラディーナ・シャルヌが笑う。
「ははっ、人間風情に忠告されるとは思わなかったわ」
「……妖魔が触れるべきものではない」
「ならば人間も触れるな。これは、我ら妖魔のもの。我らが“力”を得る為にある」
「触れるな。我々も触れないでおく」
「無理でしょうね」
シャリートが口を出した。
「……サリム、だったわね。あなたはどうするの? この“魔鏡”、欲しくはないの? “栄光”か“破滅”か、それを求めていたのではなくって?」
「……今の俺は“鏡”そのものに興味はない。わけを知りたいだけだ。流星が降るわけを」
「わけを知る? それは御立派なこと。……他の者も同じだと言うつもり? つまらないことね。ならば、この“鏡”、あなたたちには、必要ないものなのね」
シャリートは続けた。
「……けれど、あなたはどうなの。ずっと唯一つのことを追い求めてきて、この“魔鏡”の“力”を得られれば、それが成し遂げられるかもしれない。もしかすると、砂海に緑を取り戻すことすらも……。ライ・ラ・レン。あなたは、どうするの?」
シャリートの視線の先に、彼はいた。じっと、彼女を見つめていた。
「……何が、言いたい」
ライラレンは、口を開いた。
「言葉通りよ。これをどうするの。目の前にあるわ」
ライラレンは言葉を返さず、じっと見つめていた。
「……最初に“型”を作ったのは人。されど、人にあらざる者が手を加えた。人がそれに触れればどうなるか……。結果はわかりきっている」
「そう。確かに。普通の人間ならそうでしょう。でも、あなたなら、使えるのではなくて」
皆はじっと、ライラレンを見た。
彼は、視線を外した。
いや、外したのではない。視線を移したのだ。
「どうやら、その“魔鏡”を本当に欲しがっている者が、見えたようだ」
闇の中から、長身の人影が姿を現す。
「……あなたは、なかなか勘がいい。人間にしては」
ディルヴィシュ・ハーディルはそう言って、笑った。
「……ふむ。シャリートというのは、あなたのことだったのですね。シザリオン」
ちらりと彼女を見て、ハーディルは言った。
「その“鏡”、彼女が言うように、人間の手には余ります」
「幻覚を使ったり、いろいろ惑わそうとしたものね。どうする。あなたが持って行く?」
「むろん、そのつもりですが?」
「そんなことを」
「させるものかっ!」
シアルト、ディオル、そして、ルブルム・ラディウスが飛んだ。
剣を手に、三方から襲いかかる。
「無駄ですよ」
「うるせぇ!」
切っ先が、迫る。……が。
三人は、たたらを踏んだ。
剣で貫いたと思った瞬間、もうそこにはいなかったのだ。
「そんな……」
シュマは、その詩人の動きに驚愕する。
ハーディルはニヤリと笑って、言った。
「ほら、ね」
そして、“魔鏡”の方を向く。
「これは、常に“力”を吸収しています。これを手にし、その“力”を得るには、それを一時的にで構いませんから、遮断しなくてはなりません」
なにやら、呪文を唱える。
「やめろーっ」
ディオルが再び飛びかかる。
「しつこい人、ですね」
ハーディルの身体が回転した。ディオルの首筋に衝撃。
彼は床に沈み、意識を失った。
突然、ハーディルがしゃがみこんだ。
「シザリオン……やりましたね」
シャリートが笑った。おかしくてたまらない、という風に……。
「ええ、やったわ。さすがに“妖魔鏡”などと呼ばれるだけのことはあるわね。あなたに、これほどの衝撃を味わわせることができるなんて」
フッと、笑うのを止める。
「その“力”、私がもらっておくわ」
彼女の掌に、緑色に輝く拳ほどの大きさの、みごとな宝石があった。
翠玉石エメラルド、“成功”と“失敗”を司る宿命石……。
倒れたディオルの方をちらっと見て、ハーディルは言った。
「今の隙を突かれましたね。今日は日が悪い」
ハーディルの姿がスッと消えた。
「そうみたいね……。“魔鏡”の集めた“力”、とりあえず私が預かっておくわ」
(……バディルヅゥ。あなたらしくもない……)
シャリートは、言った。
「……それをどうするつもりだ?」
シアルトが聞いた。
「……まだ未練があるの?」
シャリートは、妖艶な笑みを浮かべた。
「……おまえに渡すつもりはない」
「そう……。別に欲しければあげるわよ。だけど、あなたたちでは守り切れない。それがまだわからないの? それとも、そこの剣聖にでも頼んでみる? 助けてくれって」
ぎゅっ、と唇を噛む。
と、その時……。
ズズウーーンッッ!
“塔”全体に衝撃が走った。
「まさか、こんなことになるとは……な」
崩れ落ちる“塔”を見上げながら、ジェラール・ハルドウーンは小さく呟いた。
「悪い予感を感じてはいたが……」
「……で、どうなるんだい? そのシャリートって女と戦いになるのか?」
ジェスター・アーディルムが聞く。
「……あまり分のいい賭けには思えないけれどね。だけど、ファーティマという少女、なぜ、その女を信じるなどと言ったんだろう?」
「……さあ、な。確かなことは、彼女が強くなったってことだな。だからこそ、俺もこうしていられるんだが……。たぶんエイラーンも含めて、彼女にはもう疑うべき相手なんて、いないのだろう」
シアルト・コロニーは言う。
「そこまで、人を信じることができるものなのか?」
ラーハイム・ジャスナートが言った。
「さあ。そういう“宿命”なのだろうな」
「……“宿命”ですか」
ラガシュ・ラディイは呟く。
封じられた“力”が人々の運命を変えていく。
流星すら、“力”に引かれているのだろう。
そんな風に思えてならなかった。
「“力”か……」
そんな呟きが、妙に心に残った。
封筒に切手を貼り忘れ、遅刻しました。(ガビーン)
リア充爆発しろ。
「この泉が、皆の“想い”でできたもの?」
レオ・シーブンは呟いて目の前の小さな泉を見る。
「……ライラレン殿はそう言っていかれた」
ファハド老は言う。
「……まさか、この年齢になって、かくも不思議なできごとを目にすることになろうとは……」
「……で、どうするつもりだ?」
ウィルラーフ・アスラワルトが聞く。
「……この泉が皆の“想い”であるなら、枯らさぬよう守らねば……いや、守っていきたいものじゃ」
ファハド老は言う。
「ああ」
「そうだな……」
ウィルラーフとレオはゆっくりとうなずく。
「人と妖魔の心……。つまり、妖魔たちの中にも、それを願った者がいる……と言うのですね」
アルーシャ・カイルクは確めるように聞いた。
「……そうじゃな。俄かには信じ難いことだが」
ファハド老は答える。
「たぶん、ずっと以前に遊びにきてくれた妖魔たちでしょう」
ファーティマは言った。
「……妖魔が遊びに来た、だって?」
シアルト・コロニーは驚く。
「聞いていないぞ。そんなことは……」
「言っていませんもの」
ファーティマは笑った。
「あなたという人は……」
ティテール・イノーグは言った。
「……今度、来た時には、ちゃんと私たちにも紹介してくださいね」
「……そういう問題か」
シアルトは呆れたように呟く。
「……いいじゃない。……彼女の信じた結果が、今こうして目の前にあるんだから」
アルーシャは、シアルトに寄り添うように近づき、そんな風に言うのだった。
「……アルーシャ」
しかし、シアルトがそんな彼女の気持ちに気づくのは、もう少し後のことであった。