3月20日、ようやっと初期情報が載っている『ネットワールド』が届いた。ちなみにこの時点で既に少年キャラクターを投入することは決めてある。理由は「『FUTURE-RETRO HERO』がテーマソングとなるようなキャラクターをプレイしたい!」というただそれだけのこと。和田マスターについては、『カルディネアの神竜』PA&『ステラマリス・サガ』LCというアレなリアクションを読んだことがあるだけなので、コメディについては正直未知数だが、キャラクター描写はしっかりしてるし、PC同士の掛け合いも多いように見えるから、楽しめるだろうとの判断である。
名前は、お菓子から取ることにする。最初に考えたのは、エンゼル・ハーベスト。だが『エンゼルパイ』は森永、『ハーベスト』は東鳩である。せめて会社は統一せねばならない。ということで、インターネットで菓子名を検索。3分後、東鳩『オールレーズン』を発見。かくして、レーズン・ハーベストがここに誕生した。
『ステラマリス・サガ』&『ヴァルハラ・ライジング』合同ファイナル・イベントに参加。その場で、和田マスターと時巻マスター(QC)にキャラクター作成時に描いた設定を手渡す。が、数分後に和田マスターからは返却を受けた。「やっぱり僕はいらない子供なんだ……」と、ちょっとブルーになる。
『ステラマリス・サガ』ファイナルにおいて、複数の方から『怪獣王女』にエントリーするキャラシートを頂く(須賀和良様のはコピーではなく直筆であったので、貰っちゃいけないもんだと思って、PC名や特徴を記憶にとどめてお返ししてしまった。後に、あれは貰って良かったのだと時巻マスターから聞いて地団駄を踏んだ俺)。
「ね~ちゃん! 大変だ!」
レーズン・ハーベストが、エリオル・ビビと一緒に仕事場に駆け込んだ。そこではレーズンの姉が、ふたりの神官、グスクバール・クアルトゥム、ミレニア・ライトホースと世間話をしながら、薬草の分別をしていた。
「なに、またオーグさんが砂漠で生き倒れたの?」
「うんっ! ってそれは毎度のことじゃないか!」
レーズンがあっさり一蹴する。
オーグ君、君って……
「森姫様が、森姫様が旅の人と喧嘩してるの!」
エリオルがいまにも泣き出しそうだ。
「な、なんですって?」
お姉~さんは薬草をボロボロと落とした。
「ショコラも来てるんだ! このままじゃ……」
「そのショコラってのは、ヤベぇ奴なのか?」
グスクバールがレーズンに尋ねた。
……坊主の癖に口が悪いな、こいつ……
「違うよ。人じゃないの。怪獣」
「は? 怪獣!?」
エリオルの言葉に、ミレニアは目を瞬いた。
リアクション到着。早速読み……衝撃を受ける。「森姫って、14才なのかッ!!」 多分このくらいだろうな、と考えてレーズンを11才にしたのだが、ものの見事に読みがハズれてしまったのだ。森姫狙いのキャラクターにしようと思っていたのに、第1回にして早くも挫折である。わざわざこの為に「惚れっぽい」という設定を付けていたというのに。るるるるる~♪
私信と共にレーズンのイメージソング集を送ることを決意。なにしろ、歌が元ネタのキャラクターだ。それをマスターに伝えない訳にはいくまい。まずは『FUTURE-RETRO HERO』。あとは……困った。手持ちのCDやMP3の中では『Good bye-tears』と『Wind Climbing』ぐらいしかイメージに合いそうなものがない。もともと私はBGM派で、普段、歌は殆ど聴かないのだ。結果、『疾風ザブングル』『戦えキカイオー』等、「どう考えてもそれは違うだろ?」というものが多数含まれることになった。しかし、後々岩バスターに搭乗することを考えると、それなりに合っていたのかもしれない。ちなみにこの時の悔しさが元で、その後、怒濤の如くその手のCDをレンタルすることになるのだが、それはまた別の話である。
王国建国あそびに参加する。
面白そうだし、剣の練習にしても身近な目標があった方がやる気が出るから。
「それじゃ、騎士団の名前、考えなきゃな。それに王国の名前も」
積み上げられた本の隣で、レーズン・ハーベストが提案する。彼はタルト村の薬屋の長男坊だ。
森姫の王国建国宣言以来、アイシンクの森の『内の森』は、半ば解放されていた。もっとも許可のない者は、相変わらず出入り禁止であるが。
「それと、王国や騎士のこと、みんなで勉強しようと思って、村長から本を借りて来たんだ」
レーズンは積み上げた本をぽんぽんと叩いた。
だが森姫は額に手を当てて俯き、レーズンを指差してなにやら呻いてる。
???
「あああ、なんて呼んでい~のかわかんない」
あ、あのなぁ。
たしかに『れ~ちゃん』じゃ、自分と同じになるだろうけどよ。なにそんなにこだわってるんだ?
あああ、泣くか? こんなことで。
「騎士団の名前は考えてるんだ。【怪獣亭】。本拠もウイロウ屋の二階。闇狩人ギルドの溜まり場!」
ラミーレが云った。
おいおい。なんだよその名称は。宿屋とかじゃね~んだからよ。それに場所も、それじゃ狭いって。
「よそ様に迷~惑かけちゃいけないわ!」
お前がゆ~なよ、姫。
その通りだけどさぁ。
「とりあえず、騎士団の……宿舎、で、い~んだっけ? そこは新しく造ろう。んで、お勉強はば~ちゃんに任せた」
「みゃ!」
森姫にヴァネッサが、底抜けの笑顔で答えた。
そして彼女はレーズンの所に行くと本を取り、ベラベラとえらい勢いでページをめくって行く。
「よ、読んでるのか?」
「ぅみみゃ」「そだよ」
突然聞こえてきた聞き慣れない声に、レーズン、フィアル、ラミーレはあたりをきょろきょろと見回した。
「みんな、気にしないで。いまのはば~ちゃんのセモリナが云っただけだから。ば~ちゃんの通訳ね」
森姫が、ヴァネッサの隣にいる仔犬程の怪獣を指差して云った。
第2回リアクションは地獄だった。他に語るべき言葉を持たない回だ(嘘)。
雪を堪能する。
「なぜ、雪合戦をするんですか?」
「そこに雪があるからさ」
さてこの森衆本陣は、なんだか凄いことになっている。というのも、馴染みのない雪に浮かれたレーズン・ハーベストとヴァネッサが、雪ダルマをつくりまくり、かまくら兼トーチカをつくりまくり……。
もしヴァネッサだけがやったなら、辺りは怪しげな芸術家のオブジェのようになっていたかも知れないが、そこはレーズン、ちゃんと雪合戦のことも考えている。
雪ダルマは雪玉よけの壁と化し、各かまくらの配置にも配慮した。まさに要塞といえよう。
すべての作業が一段落し、レーズンは思った。
こんな楽しいことを今年限りにする手はない!
レーズンは森姫のいるかまくらに走った!
「姫! この雪合……せ……あぅ」
かまくらに入ったレーズンは、いきなり沢山の猫目と目が合い、硬直した。
そこには、着膨れた森姫と数匹の黒猫たちが、鍋の載った火鉢に当たっていた。鍋がぐつぐついっている。
「なに~? ど~したの~?」
鍋の大根を漁りながら、腑抜けた声で森姫。
朝方の熱血は、この雪に触れた途端に冷めている。
本当に寒いのが駄目だな、この娘は。
驚いた。何がって、アイシャさん&ジークである。まさか第3回にしてNPCと結婚する人が現れようとは……。恐るべし、アイシャさん(&和田マスター)。
さて、次回は小春決戦か漁猟大会かレムナント。
こんなことを考えながらアクションを書いた結果、ものの見事にまとまりがないものとなってしまった。困ったものである。
実を言うと、そろそろNPCにちょっかいを掛けようかと考えていたのだが、いかにもアイシャさんに追従したかのように思われそうなので却下とした次第である。
「海釣り」を堪能する。
「何故、釣りをするんですか?」
「そこで大会があるからさ」
「さ~、お弁当を売るわよ~」
「ミュハ!」
「あ、いらっしゃいませ~。お弁当1クランで~す」
篭から弁当を取りだし、ミュハはレーズン・ハーベストににっこり笑顔。
レーズン、思わず購入。
「ありがと~ございま~す」
「そうそう、サイレンはどこにいるか知らない?」
レーズンは弁当を受取ながら尋ねた。
「サイレンさん? 今日は見かけてないわよ」
「なんじゃ? 儂になにか用か? 坊主」
タ・メラにでも戻っていたのだろうか? サイレン・マロングラッセが堤防をはい上がって来た。
海姫の教育係をしてたとかいう話から察するに、結構な歳のはずだが、どうみても見た目は二十代半ばというところだ。
相変わらずモルーハらしく、要所のみを布で覆った半裸姿である。
「何用じゃ?」
「いいポイントがあったら、教えてもらおうと思って」
レーズンの言葉に、サイレンは水を滴らせながら、軽く首を傾げた。
「しかしお主は森衆の者であろう? トルテの王になりたいのか?」
だがレーズンはサイレンの問いに首を振った。
「ならば何故じゃ?」
「ここに大会があるからさ」
ニッ!
不敵な笑みを浮かべてレーズン。
それに呼応するかのように、サイレンの顔に蠱惑的な笑みを見せた。
「狙いはなんじゃ?」
「もちろん、男なら大物狙いさ!」
「エクレア島の向こう側、大洋側へ行くが良い。じゃが、必ず誰か腕の立ちそうな者といくのじゃぞ。向こうは危険じゃからな」
レーズンはそれからさらに幾つかサイレンに質問をすると、礼をいって意気揚々と歩いて行った。
そして、そのレーズンと入れ換わるように、上半身裸のコヴィがやって来た。
「おっちゃ~ん! これクロダイだよね~」
レーズンが魚を手に、じっくりと腰を据えて釣りをしているオリシス・メルグラードに聞いた。
オリシス、当年とって27歳。
これをおじさんと呼ぶか否かは人次第。
まぁ15も年下の小僧っ子に、お兄~さんと呼ばせるほど、狭量じゃないことは確かだ。
「見せてみろ~。そこじゃよく見えね~」
オリシスが云うと、レーズンが魚を持って来た。
「これこれ」
「こんなのクロダイって云ったら笑われるぞ」
オリシスの言葉に、レーズンは首をかしげた。
どうみてもクロダイに見える。
だがレーズンは薬師の息子だ。薬草の知識は豊富でも、魚の知識はそれほどのものじゃない。
「その大きさじゃ、せいぜいチンチンだよ」
「ち、ちんちん!?」
レーズンは思わず魚を遠ざけた。
「クロダイは出世魚だからな。チンチン、カイズ、クロダイって、名前が変わるんだよ。ブリやなんかといっしょだな」
さすがに好きなだけあって、魚には詳しな。
「チンチン……」
「そうだ、ついでだ。面白いことを教えてやるよ。クロダイって、最初はオスしかいないんだ」
レーズンは目をパチクリとさせた。
「オスだけ? メスは? いなくちゃ増えないよ」
「大きくなるにつれて、オスからメスになる奴がでてくるんだよ」
オリシスの話を聞き、レーズンは手の魚をしげしげと見つめる。
「そうか。チンチンとれちまうんだ。だから名前が変わるんだな……」
レーズン、それは……なんか違うと思うぞ。
「しっかし、いまひとつ大物が掛からないな」
「サイレンおばさん、ここが一番って云ってたんだけどな」
ガシャン。
変な音が聞こえた。
「なんだ? 今の音は」
「そういえば、危険だから、必ず腕の立つ人と行くように云ってたっけ」
ぎしし。
今度はなにか軋むような音。
「聞いたな?」
「聞こえた」
オリシスとレーズン。
ざがしゅっ!
突然近くの岩場に、なにか赤い刺の生えた柱がいきなり突き立った。
「な、なんだ? 蟹!?」
「で、でっけぇ」
そう! そこに姿を現わしたもの。それは蟹!
それも、10ラングはありそうな化け蟹だ!
「な、なぁ、蟹って確か、肉食……だよな?」
「し、知らない」
ふたりは顔を見合わせた。
「逃げるぞボ~ズ!」
「ぅうぇ!?」
ふたりは釣り竿を放り投げて、一目散に逃げ出した。
化け蟹は左右に駆けながら、じりじりと追って来る。
さすがにこんだけでかいと、そのスピードは侮れない。
「お、おっちゃん! なんとかしてよ!」
「バカヤロ! 鞭であんなもん叩いても無駄だ!」
とにかく砂浜においてある船まで逃げろ!
やがて、船が見えて来た。
ざざざ……
ぎぃぎぃぎぃ……
突然森がざわめき、鳥たちが奇怪な声を上げて飛び回る。
「ま、またなんか来るみたい」
「なにが来たって一緒だ! ロクなもんじゃねぇ!」
ようやく船に辿り着き、オリシスが船を押し始める。
レーズンは船に乗り込み、オールを抱えた。
ざざっ!
再び樹々がざわめき、巨大な影が森の上に浮かび上がった。
そのシルエットはまさしく――
「りゅ、竜だ……」
はじめて見るその巨大な生物に、レーズンは思わず声を漏らした。
「ドラゴンだとぉ。冗談じゃねぇぞ」
オリシスは一気に船を沖に押し出し、乗り込んだ。
船を漕ぎ、慌ててエクレア島から逃げ出す。
砂浜では《化け蟹vsドラゴン》の一騎討ちが展開されている。
「どっちが勝つんだろ」
「ドラゴンだろ。焼き蟹になるだけだ」
いっている間に、化け蟹が何処かへ逃げて行く。
安全と思われる場所まで逃げ出し、ふたりはやっと安堵の息をついた。
「畜生。魚、無駄になっちまった」
オリシスがぼやく。
ばちゃばちゃばちゃ。
「あれ? なんだ?」
レーズンが、海面で動く何かを見つけた。見ようによっては、なにかが溺れてるように見える。
「近付けるぞ」
オリシスが船を近付け、レーズンがそれを拾った。
それは――
「な、なんだその丸いのは?」
「怪獣の仔供だ」
「か、怪獣? なんだよそりゃ?」
驚いたような顔のオリシスに、説明しようとしたレーズンの目に、今度は別のものが目に入った。
三角形のものが、海面に見える。
それも、尋常じゃない大きさだ。
「……どうした?」
突然目を見開いて硬直したレーズンに、オリシスは彼の視線を追った。
「な、今度は鮫か!? なんだよあのでかさは!」
そして、逃げる間もなく海面に現われた巨大な鮫の頭が迫る。
最後に目に映ったもの。
それは沢山の三角形の歯が並んだ巨大な口。
直後――
「――っ!」
ピシィッ!
突然あたりが光に包まれ、鈍い衝撃がふたりを襲った。
ぎゅっと目をつむり、その時を待つ。
………………だが、
「あ、あれ?」
「来ない……な」
レーズンとオリシスは、ゆっくりと目を開けた。
辺りは静かな海。
「鮫、どこ行った? いたよな?」
「いた。絶対いた。……ここだ」
レーズンが気の抜けたような声を出した。
船の脇に、その巨大鮫は浮かんでいた。
それも、これまでにないくらい完全に死んだ状態で。
「ど、どうなったんだ?」
オリシスが呟く。
そしてレーズンは気がついた。
「もしかして、お前がやったのか?」
レーズンが仔怪獣に訊いたが、界獣『雷』は、疲れてぐてぇとしたまま、動かなかった。
「結果発表~!」
わ~! どんどんどんどん!
ミュハが簡易ステージにあがって、声を張り上げる。
足元に、大番頭さんから借りて来た怪獣『音』がいるんだから、声を張り上げる必要なんざ、ないんだけどねぇ。
「それでは、まずは数量部門一位の、リリエム・イルザーブさん!」
「リリエムさんは、計49匹釣り上げましたぁ」
ラナリアが詳細を述べる。
ラナリア、リリエムのは釣りじゃねぇ。
そしてステージに、氷と一緒に木箱に詰められた魚が運ばれて来た。
「次は重量部門一位、オリシス・メルグラードさん」
へ? オリシス? たしか釣った魚は、蟹に追われて置いて来たんじゃ……
「オリシスさんは、巨大鮫を仕留めて来ました!」
鮫ぇ? あ、あれか! よくあんなもん運んだな。
でもレーズンは……あ、そか、レーズン森衆だもんな。辞退したのか。
レーズン、いきなり優勝を辞退。プレイヤー、リアクションを読んで大暴れ。実は密かに「上手くいけば玉座が手に入ったりなんかしちゃったりなんかしちゃったりして~」とか思っていたのだ。くくっ、こんなことなら、きちんと明言しておけば良かった。後悔先に立たず。
プライベにて本山氏(エクレアのプレイヤー)とアクション会議。竜退治は特撮映画的な展開にしたい、という話で盛り上がる。
もちろん決め台詞は、「最終防衛ラインが突破されましたぁッ!!」。新兵器は破られるため、バリアは割られるため、防衛ラインは突破されるために存在するのである。
などと言いつつ、結局、レーズンのアクションはサイレンにアタック(?)。PLとしては色々バカなことをしたかったのだが、キャラクターに合わないのではどうしようもない。
海衆人員増強イベント開催。
今回はアクションでウイロウ屋の皆さんに適当な数字を記入してもらった。というのも、優勝者を決定する為である。
とりあえず全部足して3で割る。
- 割り切れたら重量。
- 余り1で体長。
- 余り2で数。
……だったかな?
順番がまちがってるかもしれんが、これで判定。
後は、アクションで優勝者を判断。
とりあえず今回から連鎖シナリオのネタを準備。
ドラゴンと蟹。
そして王様はオリシス氏に。
レーズン君とどちらかということになったのだが、レーズン君がこの時点でまだ森サイドだったことと、王様の座に興味が無い旨のアクションだったので辞退という形にした。
竜退治を見物する。
「何故(以下略)」
「そこに(同略)」
「ね~。サイレンって、結婚とかしてんの?」
「また随分と唐突じゃな」
浜辺に基地が設営されるのを眺めながら、レーズン・ハーベストが傍らに立つサイレンに尋ねた。
じりじりとした暑い陽斜の中、サイレンのモルーハ特有の青白い肌は、この浜辺で実に異彩を放っている。
サイレンはというと、何かを推し量るように、じっとレーズンを見つめている。
こ~して口つぐんでりゃ、この人はまさにイイ女なんだけれどねぇ。ホント。
「い、いや、ほら、なんかいつもひとりみたいだからさ、家族とかいないのかな~? とか思って」
無言の圧力におされ、レーズンが言葉を続ける。
「……儂も、つれあいは大分前に亡くしてのぅ。いま娘がタ・メラで近衛魔女をしておる。一昨日、姫に呼ばれて珍しく陸にあがっておったのを見なかったか?」
レーズンは出発直前のことを思い起こす。
そういえば、見慣れないモルーハの女性が、なにやらサイレンと口論していた。……って、あの人、どう見ても二十歳前後だったぞ。それが娘ってことは、サイレンって、いま幾つなんだ?
「なんじゃ? 妙な顔をして。ふむ……なるほど、そういう年頃と云うことか……男の子じゃな」
サイレンのその言に、レーズンは暫く首を傾げていたが、やがて顔を真っ赤に染め上げた。
「うむ。ま、こんなものだな」
お~っ! ぱちぱちぱちぱち。
書き上げられた看板に、周囲から喝采があがる。
オーグ・アクセラロンの達筆な看板がテントに取り付けられ、遂に火竜退治の本拠は遂にできあがった。
……只の野営テントだけどな。
大洋側に本部を築かなかったのは、そこが火竜の餌場の一部だからである。どういうわけだか、火竜はこの大陸側を縄張りにしていないらしい。
「いよいよじゃな。お主も参加するのか?」
「見物」
「グッアフタヌゥ~ン! おぜうさん」
レーズンが即答した直後、どこからともなく軽そうな声が……。
「なに用じゃ?」
サイレンが声の主、ルーク・ファーレンに尋ねた。
……ルーク、空姫の傍を離れるなんて、珍しいこともあるもんだな。
「なに、『ゲート』とか『番人』とかについて、できたら教えてほしいなぁ、などとね」
ルークの言葉に、サイレンはなんとも悩まし気な笑みを浮かべる。
「お主ら怪獣をどう思う。玉子を融合することで姿を変じる生物。もし現物を見ておらねば、信じたか?」
レーズンとルークは顔を見合わせた。
「自然に存在すること自体がおかしいと思わぬか? あやつらは人為的に生み出された生物の末裔じゃ。儂らはそやつ等を生み出した古代文明の遺跡の番人じゃ」
腰に手を当て、息をひとつ吐きだす。
「でなければ、ヴァルキリーがひとつの地に留まって、ああも呑気にしている訳がなかろう」
子持ちだったか……。さよなら、サイレン。青春の幻影よ。
とゆーわけで、次回は武闘大会か料理大会。うーむ、なんかどっちも今一つ気分が乗らないのぉ。こーなったら、サイレンに頼んで『冬のトルテ湾~タメラ慕情~』と題して、貝獣城見学ツアーでもさせて貰おうか? いや、もしそんなことをするなら、交渉にアクションを1回使うべきだな。結果、武闘大会に決定。理由は単純。次の決め台詞を使いたい、というただそれだけのこと。
「竜の鱗より削りだしたこの刃がセラミック装甲をも貫くよ!」
武闘大会で実戦訓練!
最近読んだ童話に出てきた剣士に影響を受けたから。
一回戦第五試合・レーズンvsエクレア
試合前、エクレアはこんな希望をだしていた。
「電流金網爆弾有刺鉄線地雷ハンディキャップデスマッチをやりたい!」
と。だが――
そんな面倒臭いもん造れるか!
ということで却下。
「準備はよろしいですか。レディー、ファイ!」
いざ、試合開始。
「天国のお嬢……見てる? 私はやるわよ」
「勝手に殺してモノローグすんじゃな~い!」
ヒュオオオ……すぱぁぁぁぁぁんっ!
場外から飛んで来たスリッパがエクレアを直撃した。
ナイスコントロールだミュハ!
「選手に物を投げないでください!」
「ごめんなさ~い!」
かくてミュハ、弁当売りに戻る。
そして試合再開。
レーズンが腰のダガーを引き抜くと、眼前に構えた。
「竜の鱗より削りだしたこの刃が、怪獣の装甲をも貫くよ!」
レーズン・ハーベストの赤い刃のダガー。
これはサイレン工房特製のダガーである。
頼み込んで無理矢理サイレンに例の火竜の鱗を加工してもらったのだ。
しかし、エクレアの反応はまるでない。
審判の黒子装束のロボが『霰』に近づく。
エクレア、失神。さっきのスリッパのせいらしい。
「エクレア選手、試合続行不能。勝者レーズン」
準決勝第二試合・ユニvsレーズン
「さぁ、準決勝第二試合です。が、マリアマリア選手が負傷棄権のため、これが事実上の決勝戦となります。はたして第一回タルト・トルテ武闘会の優勝者はどっちだ!?」
「今度は密林ステージか。……どちらかがラオプディーアだったら面白かろうが。人間同士では双方共戦い辛いだけじゃな」
海姫の辛辣な意見に、イルミナ苦笑い。
「双方、準備はいいね。それでは海獣ファイト! レディー、ゴー!」
グラスタインの合図の元、選手たちが互いに視線を交錯させる。
【犬】を従えたユニと、『雷』を従えたレーズンとの最強を掛けた戦いの幕が切って落とされた。
「その『雷』は使わないの?」
「そっちは怪獣つれてないじゃないか」
レーズンの言葉に、【犬】が自分を指差しているが、とりあえず無視。
「ここは男同士、一対一の勝負だ!」
レーズンが【犬】を指差す。
「ようし、受けた!」
【犬】が腰の超絶魔破降神剣を抜く。
途端、レーズンが身を低くして【犬】に向かってダッシュ! まるで幻惑するかのようなステップを踏む。
「蝶のように舞い、蜂のように刺す! それが一対一の戦いにおける極意!」
最近のお気に入りの小説にあったセリフをアレンジしてのたまうはレーズン!
そして、それに二本足で立つ器用な【犬】が答える!
「それは違うぞ! 戦いの極意はこうだ! カモメのように舞い、ウニのように刺す!」
【犬】が華麗に宙を舞い、目にも止まらぬ早業でレーズンのダガーを弾く!(入れたフェイントはみっつ)
キィンッ! コッ!
弾かれたダガーは、すぐ側の樹の幹に突き刺さった。
「オレの勝ちだ」
【犬】が剣先をレーズンに向ける。
ど~でもい~が、そのだらんとたれた舌はど~にかならんのか? セレシュ。
だがレーズンの顔には敗北ではなく、笑みが浮かんでいる。
「まだだよ! オレには奥の手がある!」
思い切り力をいれた右手を眼前に掲げる。左手で右手首を掴む。
まるで、右手の指の骨の軋む音が聞こえてきそうだ。
「おぉぉぉぉっ! オレのこの手が光って唸る。お前を倒せと轟き叫ぶっ!!」
格闘用グローブはめたレーズンの右手が輝きだす。
「なに!? 手が光るだと!? まるで奇人変人びっくりショーだ!」
なに云ってんだよセレシュ。
これこれ、ユニちゃんも拍手してるんじゃない。
「食らえ! シャイニング掌打~っ!」
右手を掲げ、【犬】に向かって突き進むレーズン!
ひょい。ごんっ!
【犬】、あっさり躱して柄でレーズンの頭を殴る。
レーズン、沈没。
「優勝者、【犬】!」
グラスタインが【犬】の右手を挙げて、優勝者の宣言をした。
って、こらこらグラス、違う違う。優勝者はユニ。
【犬】ぢゃねぇ!
リアクションを読み、衝撃を受ける。理由は『シャイニング掌打』。こんなにストレートなパロがOKだったのか! 確かに第5回でエクレア嬢がクシャナでアスカでドズルで今川義元だったりしたが……。この瞬間、次回から必ず何かしらのパロディをアクションに絡めることを決意する。
またもプライベで本山氏とアクション会議。廃棄処分なゴーレムを借りようかと思っている旨を話すと、アシリーザ嬢の魔装機と被る可能性を指摘される。むぅ、確かに。だが、ゴーレムを使うといっても、それで倒すのではなく、蟹の動きを止めて、他の人達が攻撃しやすいようにすることが目的だから、まぁいいだろうと判断。古代、私ごと波動砲で撃て。その後、アクション自体は煮詰まらないまま、個々のシチュエーションにおけるパロディネタばかりが飛び交う。
そしてもう1本の武闘大会。
まぁ、このイベントは失敗することをわかりきった上で開催した。前ターンでミュハの歯切れの悪さは、和田の思いそのものである。
とりあえず、最悪の事態だけは避けられた。ひとまず月見とあわせれば、1本のリアクションとして出せる。安心安心。
さて組み合わせ。最初にこれさえ決めてしまえば、後はノリでなんとかなるだろう。
すげぇいいかげんである。
結果、レーズン君vsセレシュ君&ユニちゃんで決勝。お互い怪獣を持っていないぞ!
かくしてユニちゃん優勝。
大蟹を倒ーす!!
【犬】に負けたのがめちゃめちゃ悔しいのでより多くの実戦経験を積もうと思ったため。
「くれとまではいわない! 貸してくれるだけでい~んだ!」
ウイロウ屋(タルト店)の店先で、レーズン・ハーベストがミュハ・ウイロウに詰め寄った。
この間の武闘大会の準優勝の賞品に関しての一幕。
そのレーズンの剣幕に、ミュハは困った表情を浮かべて、頬をポリポリと。
レーズンのリクエスト。
それはゴーレム!
はっきりいって、それを仕入れることは魔装機同様不可能に近いことなのだ。
なんてったって、国家レベルで扱われている兵器なのだから。
せいぜいスクラップになったものを、ミュハがどこからか仕入れて来ているわけだが、それさえもいつ市場にでるかわからないという代物だ。
「う~ん……貸すのは構わないわよ。つ~より、あげるわよ。邪魔だから。でも、動かないわよ」
「……へ?」
ミュハの言葉に、レーズンは間抜けな声をあげて目をパチクリとさせた。
「あるにはあるのよ。ゴーレム。トルテ店の裏庭で置き物になってるのが。でもよくよく考えると、動かなくなったゴーレムって、ただのでっかい石像なのよね」
うんうんと腕組みして頷くミュハ。
困ったような顔のまま、硬直しているのはレーズン。
なんだかとってもヤな予感がする。
「と、ゆ~わけでっ! 今日からあのデカブツは君のものよ!」
バン!
ミュハがレーズンの両肩を勢い良く手を置いた。
ちなみに、ミュハの本心はというと。
あのバカでっかい邪魔者をなんとかしたい。
ということだけだったりする。
「オ、オレは少しでも動くヤツ……」
「大丈~夫! サイレンさんに頼めばなんとかしてくれるわよ! あなた仲良しさんだし! なにも問題はな~い! それじゃ、一緒にトルテまで行きましょ」
有無を云わせず、ミュハはレーズンの手を引っ掴むやトルテ村へ向かってズンズンと歩きだした。
……ってぇと、今回の犠牲者はレーズンか?
とりあえず祈ってあげよう。
合掌。
ウイロウ屋【トルテ店・裏手】
そこにはでっかい石像が、ペタンと腰を降ろすように鎮座していた。
それを見て茫然と立ち尽くすはレーズン。
どうしよう……。
きっとその単語だけが頭の中を、ぐるぐると駆け巡っているに違いない。
ミュハはというと……お、来た来た。サイレンを連れて来たよ。
……サイレン、珍しく仏頂面しとるな。
寝起きか?
「今度はこのガラクタか……。お主ら、最近儂を便利なおばちゃんかなにかと思っとりはせぬか?」
「もちろん!」
ミュハ、サイレンに即答。
その背後でレーズンが慌てて頭をブンブンと振っている。
「……正直じゃな」
「さて、それはどうでしょ?」
笑顔を絶やさずに答えるはミュハ。
その答えにサイレンはため息をついた。
「まぁ、よかろう。いづれ、お主らにもやってもらうことになるのじゃからな。今の内に経験しておいたほうがよかろう」
「は?」
「な、なんの話だよ」
「こっちの話じゃ。では、始めるとしようかの」
思わせぶりな台詞を吐いて、サイレンはそそくさとゴーレムによじ登りはじめた。
「どういうことだろ」
「きっと、ロクなことにならないわね」
誰ともなく問うレーズンに、ミュハがあっさりと答えた。
さて、ゴーレムはどうなった? おぉっ! ミュハの鳳凰がブラウニー湖にまで運んできてるじゃないか。
もう動けるようになったのか。早いな。
「レーズン、もう一度云っておくぞ。このゴーレムの活動できる時間は、この起動からこの三つの砂時計の砂が落ちるまでじゃ」
そういってサイレンはゴーレムの頭部の脇、ゴーレムパイロットの指定席に設置された砂時計を指差した。
「そうそう、こやつの名前、どうするのじゃ?」
「決めてある。ゴーレムと云えば、岩をも砕くほどの威力のある兵器。だから【岩バスター】さ! これで絶対に蟹を倒して見せるよ!」
レーズンがぐっと右親指を立てた。
「そういえばサイレンさん。確か水術で、個々の水辺の親分を操る魔法ってありませんでしたっけ?」
ミュハが思い出したようにサイレンに尋ねた。
「あるぞ。じゃが儂が簡単に蟹を調伏しては、面白くあるまい」
サイレンの答え。
……あんたやっぱり悪党だ。
「……そうだ。あの石像ってなんなんだ? ず~っと昔からあるって話だけど」
レーズンが、物心ついたときから疑問に思っていたことのひとつをサイレンに尋ねてみた。
「おぉ。あの石像か。あれも遺跡じゃ。湖の中央の島にも、あれと同じような像が鎮座しておる。ま、このあたりの守り神みたいなものじゃな」
そしてサイレンは湖に視線を向けた。
「さて、いよいよ明日は蟹退治の決起じゃな。またお主がしきるのか?」
「開会みたいなことはやるけど。基本的に救護班ってところかな。他のみんなは雪合戦の準備で、あたしだけしかいないし」
ミュハが答える。
「どういうことじゃ?」
「今回の蟹退治は、地域の有志の皆さんによるものだから。あたしも有志のひとり。日頃みんなにお世話になってるし、こういう時にこそ貢献しなくちゃ。……って、どうしてそんな目で見るのさ」
ミュハが白い目で見るレーズンとサイレンにいった。
そして蟹が再び上陸してくる。
どうやら怒っているらしい。
「みんなどいて! この【岩バスター】でケリをつけるよ!」
【岩バスター】の頭部に付けられた梯子につかまり、レーズンが足元の皆に向かって叫ぶ。
【岩バスター】が地響きをたてて蟹に一気に近づくとハサミを押さえ込み、その背中に向けて拳を――
「な? 人!?」
【岩バスター】の拳が止まった。
「どうしてそんなところにいるんだよ!」
レーズンが化蟹の背にいるラミナス・レファレンスの姿に、思わず【岩バスター】を数歩退げた。
いつの間に登ぼった!? ラミナス!!
これでは蟹に拳を振り降ろすわけにはいかない。
それこそラミナスは潰れて、ちぎれた手足は飛び散り、白い神経組織にピンク色の内臓や真っ赤な血が撒き散らされ、あたりに汚物と血の臭いが漂ってしまうのだ!
ぴき~ん!
だがその隙を蟹は見逃さなかった。
ガショガショガショガショ!
化蟹、一気に【岩バスター】に近づき、その紅い凶悪なハサミを【岩バスター】の腹に突き込んだ!
BooooM!
「うわぁぁぁぁぁっ!」
化蟹の強烈な一撃で【岩バスター】、機能停止!
「ラミナス! あんたに負けたんじゃない! その蟹の性能だということを忘れるな! くそう、もう二度とレファレンス屋なんかに行ってやるもんか!」
いや、別にラミナスが蟹を操ってる訳じゃないと思うぞ、レーズン。
「もう一度【岩バスター】で突っ込む!」
「おい、そんなの無茶だ!」
「相手はあの大蟹だぞ! スクラップ寸前のゴーレム一機で、他にどんな作戦があるっていうんだ! ありはしないよ!」
レーズンがグスクバール・クアルトゥムに怒鳴った。
「おれは急くなといってるんだ! リキュール!」
グスクバールが怪獣『美酒』に攻撃を命じた。
「たとえ化蟹だろうと生物である以上、酒を呑めば酔っ払う! 酔っ払いなんざ目じゃねぇだろ!」
リキュールが酒を化蟹に向かって打ち放つ。
「それに、こうすりゃ蟹の味も上がるぜ」(本心)
じゅる。
こらグスク、よだれを流すな。みっともねぇ。
やがてリキュールの酒が切れ、戦場から退散。
そして蟹は――お~、なんかよたってるぞ!
「残された時間は185秒。これだけあれば!」
レーズンが【岩バスター】を再起動し、蟹へと向かう。だが先ほどのダメージのせいか、動きが鈍い。
一方、蟹の動きはメチャクチャだ!
……酔っ払った上に足一本持ってかれたんだから、仕方ねぇか。
だが、そのために【岩バスター】は蟹を捕らえきれない!
「もう一分もたない。……ようし、やってみる!」
【岩バスター】が化蟹の進路に立ちふさがる。
「それじゃさっきの二の舞よ!」
化蟹、ちゃんと敵と認識しているのか、再び閉じたハサミを【岩バスター】に突き込んだ。
ごしゃぁっ!
蟹のハサミが【岩バスター】の胸を貫いた。
だが、まだ【岩バスター】は沈黙していない!
おおっ、蟹の突進を押さえた!
「ぅぅ……わ――――――――――――――っ!」
レーズンの叫び声の元、【岩バスター】がその巨大な拳を蟹の背に降り降ろした! キチン質の甲羅をたやすくぶち割り、その拳がカニミソを貫く!
さぁぁぁぁ。
そして、砂時計の砂が全て落ちた。
【岩バスター】活動限界。機能停止。
「や、やったの?」
「脳味噌を潰されては、生きてはおれまい」
サイレンがミュハに答える。
ずぅぅん。
振り上げられていた化蟹のもう一方のハサミが地に落ちた。
ここに、化蟹退治は終結したのである。
アクション成功。
完全没、もしくは主役的扱いのどちらかになるだろうと思っていたのだが、見事、後者になることができた。さらに、アクションには書いてない対ギドドンガス戦までやってくれてるし……感無量である。ちなみにこの時、「ここまでやったんなら『たかが大蟹1匹、ゴーレムで押し出してやる!』という台詞も入れたかったなぁ」とか思っていたのだが、それは第9回にて見事果たされることとなる。
締切前日、本山氏からGAのお誘いを受けた。1時間程電話で相談した結果、グループ名は『機甲艦隊ダイラガー2』に決定。ここに至るまでは『ゴワッパー2』『超電磁マシン・ボルテス2』『ブロッカー軍団2・マシーンブラスター』など紆余曲折があったのだが、落ち着くべき所に落ち着いたと言うことができるだろう。っていうか、1時間も話してグループ名しか決まらないってのは何?
ちなみに、今回のGAは、お互いPLとしても初めてのもの。さらに「洞窟に行く」ということ以外、互いに相方が何をするのかわからないという状態だったりする。これってGAって言えるのだろうか?
さてさて、戦闘シーンを組み上げて行くと、ガンダムとトップをねらえを合体させたような代物に仕上がった。つ~か、レーズン君のアクション外のところにそんなこと書いてあるんだもん。
私のクセで、応々にして、アクションではなく私信とか楽書きを面白がって採用する場合があるので、うかつなことは書いちゃいけません。
探検の過程を全て記録する。
初の冒険! ガンバルぞーっ!!
ウイロウ屋【トルテ店】
ミュハ・ウイロウはその木箱に首を傾げていた。
いったい何時の間に台所のテーブルに……
宛先なんかがついている所を見ると、どうやら届け物のようだ。
宛先は、先頃「お前も一人立ちしていいころだ」という父親の一言で、ここトルテの教会の隣に引っ越してきたレーズン・ハーベスト君宛てだ。
だが差出人は不明である。
怪しい。
とてつもなく怪しい。
とはいえ、箱を開いて確認するわけにもいかない。
とりあえずミュハはその木箱を抱えると、一路レーズン宅へと向かった。
「おっはよ~ございま~す!」
「あらミュハちゃん。おはよう」
木箱を抱えたミュハを出迎えたのは、玄関先を掃いていたレーズンの姉のステビア。
彼女は母親の頼みもあって、ちょくちょくレーズンの元へ様子を見に来ている。
「どうしたの? 今日は」
「お届け物です。なんだか怪しいけど」
そういってミュハは木箱を手渡した。
「差出人の名前がないわね」
「そ~なんですよ」
「…………」
「…………」
「開けましょ」
ステビアが木箱の蓋を外した。
中身は短剣にしては長く、ショートソードにしては短いというえらく中途半端な剣が一振り。
「あら、手紙がはいってるじゃないの」
ステビアが畳まれたそれに気付き、広げる。
『レーズン、この剣は我が家に代々伝わるインテリジェンスソードだ。きっと、お前のこれからの冒険人生に役立つだろう。餞別だ、持って行け。土産話を期待しておるぞ! ふはははははははっ!
ナイスミドルダンディーダディ・ブルーより』
「な、ナイスミドルダンディーダディ!? と、父さん!?」
ステビア、凍り付く。
彼女の中で、敬愛していた父親のイメージが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちて行く。
「あ、姉~ちゃん来てたんだ。ちょうどよかった、この薬草、持ってってよ!」
日課の薬草取りから帰って来たレーズンが、篭を掲げて姉に云った。が、ステビア反応無し。
「どうしたのさ。姉~ちゃん、顔色悪いよ」
「え? あ、えぇ、なんでもないのよ、レーズン。あ、これ今日の分の薬草ね。ありがと。そうそう、この剣、父さんから餞別だって。それじゃ探険、頑張ってね」
やや早口でこれだけいうと、ステビアは篭を受け取りタルトへと帰って行った。
心持ち、足取りがなんだか危うい。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、ショックなことがあったのよ」
ミュハは腕組みしてうんうんと頷いた。
コヴィはかなり疲弊していた。
原因は、魔法の使い過ぎである。
今はもう周囲を闇が支配している。
傍らには、先日教会の隣に越して来た少年がいる。
「フフフフフ。難儀しているようだね、牧師さん」
「ぼ、牧……私は僧です! 神官なのです! 断じて牧師ではありません! 神父と呼びなさい!」
「オーグさん?」
レーズンが尋ねた。
「さすがだ、少年。よくぞわたしと見抜いたものだ。安心したまえ。このダンジョンで難儀している者を助けるのが、我々ウイロウ屋の仕事なのだよ」
そう、それがミュハの方針。
ぺちぃん!
「んなっ! なにをするのです!」
暗闇の中、小気味良い音が響いたかと思うと、コヴィが怒鳴り声をあげた。
どうやらオーグがコヴィの頭をひっぱたいたらしい。
うぅ~ん、い~音。
「まぁ落ち着きたまえ」
そういってオーグが何事か言葉を発すると、今度はたちまちあたりが明かるくなった。
……コヴィの頭を中心に。
コヴィの頭……光ってるぅ!?
「なんで光って……あ、なんか貼りついてる」
レーズンがコヴィの後頭部についている札に気がついた。
「それは『光輝札』というものだよ。効果は見ての通りだ。君に渡しておこう。使用法は裏に書いてある」
そういってオーグがレーズンに『光輝札』の束を手渡した。
「では、冒険を頑張ってくれたまえ。ハハハハ!」
オーグ、再び闇に消える。
そして――
「ふふふ。ふははははっ! 見なさい! この私を、この光を! これこそが私の信仰の証しなのです!」
両手を広げ、晴れやかな笑顔でコヴィ。
……どうやら、自分の輝く頭が嬉しいらしい。
コヴィ、君の信仰って……。
彼の足元では、黒猫のケイがため息をついていた。
で~でん。
「……何の音です?」
「あれれ?」
で~でん。
「あ、こいつだ。いままでちっとも喋らなかったインテリジェンスソード」
レーズンが腰からその剣、エクレカリバーを抜いた。
で、で、で、で、で、で、で、で、ちゃりら~。
「……なに歌ってんだよ」
「あちしは、こうやって怪物の接近を知らせるんでありんす。うぺぽぱぷぅ」
はう。
レーズン、困った顔で硬直。
コヴィ、光る頭のまま呆れる。
ど~いう喋りのインテリソードなんだ? こいつは。
「ヘイ、ヘへイ! モンスターが近づいているぜ」
「どうやら、本当らしいですよ。小型の怪獣です」
コヴィがある一点を見つめてレーズンに云った。
……って、なんでコヴィにもインテリソードの声が聞こえてんだ? 持ち主にしか聞こえないハズだぞ!
「……うぞ、本当にでたの!?」
「なんだって!?」
エクレカリバーの声に、レーズンが思わず尋ね返す。
なんか変だぞ、この剣。
「レーズンちゃん、あれは怪獣ウニコアラよ! 仔犬並のザコモンスターよ! でこピンでも倒せるわ!」
エクレカリバーが喚く。
なんだよウニコアラって。
ちなみに、彼等の目の前にいるのは――
怪獣『化』。古代生物(怪獣)兵器の一種。
……ぜんぜん違うぞ、エクレカリバー!
「うぉぉぉ! やってやる!」
エクレカリバーを構え、気合をぶちかますレーズン。それに呼応するかのように、その手にはめられたパワーグローブが魔法の輝きを発する。
びきっ!
「へ? いやぁぁぁぁぁん。そんなに強く握り締めないでぇぇぇぇぇっ! もっと優しくしてぇぇぇっ!」
エクレカリバーが叫んだ。直後――
べきょっ! ぐにっ!
「ぐぇぇぇぇ」
エクレカリバーの柄が潰れ、レーズンの手に妙にやっこい感触が……
「うわぁぁぁぁ!」
レーズン、思わず剣を投げ捨てた。
そして、床に叩き付けられたもの、それは――
ウイロウ屋丁雑、エクレア・メトロノーム!
……な、なにやってたんだ? お前。
「ね、姉~ちゃん事件です。ウチの家宝の剣には、ウイロウ屋の丁雑妖精が住み着いていたんだ!」
いや、レーズン、そうじゃないだろ。
「遊んでいる場合じゃありません」
『化』が一気に突っ込んで来る。途中、その体の色が灰色から赤に変化した。そして噴きだすは炎!
「わぁぁぁぁっ!」
「何がウニコアラですか! あれは『燐』です!」
コヴィが喚く。
コヴィ、エクレアには聞こえてねぇよ。まだ隅っこで伸びてるし。
ふたりは飛びかかって来る『化』をかろうじて躱した。そしてその腹に見えた、鋭い歯の並んだ丸い口。
まちがいない、こいつは肉食だ!
コヴィ、ライトクロスボウを射つ。
だがクォレルはあっさり炎に包まれ、弾かれた。
そして今度は体の色が黄金色に変化。
「『雷』!?」
『化』の周囲に雷光が閃く。
これでは、近づくのはまさに自殺行為になる。
レーズン、竜燐のダガーを手に歯噛みした。
「えぇい、このチビ饅頭が!」
だが後光を手に入れたコヴィは強気だ!
「こうなったら奥の手です。トルテ教会特製の、この『聖水』を喰らうがいいっ!」
こらコヴィ、『聖水』でどうにかなんのかよ! こいつはアンデッドモンスターじゃねぇんだぞ!
コヴィ、懐から壜を取り出し、蓋を抜くと中身を『化』にぶちまけた。
直後、『化』、全身から煙を噴き上げのたうち回る。
う、うそ、効きまっくてやがる。
「ははははは。これこそ『王水』を用いた究極の『聖水』! この『聖水』の前には、いかなモンスターも屈するしかないのです! これこそが太陽神の御力!」
お、『王水』って、そんな恐ろしいもん……
『王水』。ゆいつ金を溶かすことのできる強酸溶液。
なんか、威力は信仰心とかと関係ないような……。
かくして、『化』、昇天。
アクションはほぼ没。しかし、エクレア嬢のおかげで結構登場させて貰えている。ビバ、GA。それと、第1回以来ご無沙汰だった姉も登場。どーやら、けっこう常識人らしい。
さて、次回アクション。『マスターより』にて岩バスターの使用許可が下りた。といっても、そのまま戦闘に使用したのでは、第6回リアクションと同じになってしまう。それだけは避けたい。結果、ゲートを使って森羅万象を異世界に放り込む、というものにした。まかり間違ってコレが採用されたら、他の人の対森羅万象アクションを無意味なものにしてしまう可能性があることは承知していたが、「岩バスターに乗って戦う」というだけのアクションは、どうしても掛けたくなかったのだ。極論を言えば、「岩バスターに乗って森羅万象と戦う」とだけ書いても、それなりにリアクションには登場できたと思う。だが、だからこそ、それ以外のことをやりたかったのである。アイテムだけの力でリアクションに載っても寂しいではないか。
ただの自己満足かもしれないが。
「今やらなきゃ、みんな死んじゃうんだろ? そんなのヤなんだよ!!」
自分の行動に意味があるのかを知りたいため。
再びトルテ村【大怪獣対策本部】
「あいつをゲートから異世界に帰せないかな」
レーズン・ハーベストが提案した。
つい先日、あの『岩バスター』の修復兼改良が漸く完了したのだ。
「岩バスターで押し出すなり、誘導するなりできるよ」
「難しいの。それは……」
「どうして?」
レーズンの問い掛けに、海姫が肩をすくめて見せた。
「樹が邪魔じゃろう」
「あ……」
レーズン、思わず立ち尽くした。
ゲートがあるのは、アイシンクの森の中央部なのだ。
そこまで外の森と内の森に生える木々を薙ぎ倒さなければならない。その距離、約15メルリーグ。
「森林破壊をしてまで、ゲートに向けるのは難しかろう。ゲートの起動方法がまるでわからんという問題もあるしの。とはいえ、奴を誘導することは検討せねばなるまいな。キンツバ平原にまで持って行ければ、村や森への被害を気にせずに暴れられるからの」
「とすると、やっぱりゴリ押ししかないんか」
トルテ村太陽神教会隣
「岩バスター、出ます!」
レーズンが『岩バスター』を起動させる。
彼の任務は、『森羅万象』をキンツバ平原まで誘導、追い込むことだ。
あの化蟹に開けられた大穴は、いまやコクピットと整備されていた。
「よし、各部の動きもスムーズじゃ」
『岩バスター』の起動を確認していたサイレンが、思わず笑みをこぼした。
「よし、間に合った!」
岩バスターがブラウニー湖に到着したとき、『森羅万象』はちょうど上陸を始めたところだった。
スズカたちは、『化』の侵攻防ぐのに手一杯、森衆も同様らしく、『森羅万象』にとりつくどころの話ではないらしい。
やはり、ここで倒すことは無理なようだ。
ならば、足場のしっかりしているキンツバ平原へ!
「よぉし! たかが怪獣一匹、岩バスターで押し出してやる!」
レーズンが岩バスターで一気に『森羅万象』に突撃し、キンツバ平原の方向へと押す。だが――
ず……ずずっ!
岩バスターが地表をえぐりながら、『森羅万象』に押し戻されはじめた。
「ちょっくしょ、なんて力なんだ!」
そこにもう一体の巨人が加わった。
それはクイーンマルガリータ(通称)!
「苦戦しているようね。この私が手を貸して差し上げても……(溜め)……よくってよ!」
レッドの声が響き渡る。
どうでもいいが、なんだ? その喋り方はよ。
「ありがとう! アシリーザ!」
「ち、ちちち違うわ! 私はレッ……ングっ~ぅ」
レッドことアシリーザ、慌てて否定しようとして舌を噛んだらしい。
かくして、二体の巨人が『森羅万象』を押す。
だがそれでも止まらない!
「くぅ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれぇ!」
レーズンが叫ぶ。
直後、岩バスターとクィーンマルガリータの頭上に、第三の腕が出現して『森羅万象』を押しはじめた。
それは――
「む、『ムース』……」
レーズンは、見慣れていた歩く巨跡のその姿に、一瞬我を忘れて見つめた。
そして、『森羅万象』の前進が止まり、徐々に後退し始めた。
「今よ! 一気にキンツバ平原まで押し込むのよ!」
アシリーザの声にあわせたかのように、三人の巨人が一気に『森羅万象』をキンツバ平原へと向かっておし始めた。
なにーッ!? 対森羅万象戦って次回に続くの?
困った。前回もアクションを書くのにかなり悩んだというのに……いったい何をすればいいのやら。岩バスターを持っている以上、使わないわけにはいかないだろうなぁ。森羅万象を羽交い締めするなりして、他の人達が攻撃しやすいように……ってそれじゃ第6回アクションと全く同じだ。こーなったら、戦闘は普通に行うとして、何かパロディで遊ぶとするか。
といっても、今回貰った武器はヘカトンケイルアックス。斧を使った技って、何かあったっけ? ゲッターロボのトマホークブーメランぐらいしか思いつかんぞ。あぁっ、クィーンマルガリータのハンマーが羨ましい。それがあれば、間違いなく「光になれぇぇぇぇぇッ!!」ってゴルディオンハンマーするのに。
結局、納得行くものが思いつかないまま〆切到来。俺は負け犬だ。
森羅万象を倒ーす!
-
「な、なんだよあれ……」
レーズン・ハーベストが、もうもうと立ち込める煙の中から現われた巨人に呆然と呟いた。
現在岩バスターは一時後退し、魔力バッテリーの換装中である。
「おのれ、本性を出しおったか。さすが戦闘仕様に改造された怪獣じゃ……」
「戦闘仕様?」
レーズンがサイレン・マロングラッセに尋ねる。
「そうじゃ。あやつは人の手の加わった改造融合種同士の融合体じゃからな。あやつには闘争本能しかないのじゃ」
サイレンがふっと息をつく。
「じゃが、ある意味好都合じゃ。これでムースが使える」
「ムースが使えるって……?」
「ムースは奴を封じるための古代からの遺産じゃ。じゃが、饅頭形の時には相手がでが過ぎて、小手先だけの操縦者ではしくじるのが目に見えておるからの。とはいえムースは動きを封じるだけじゃ。奴にとどめを刺すのはおぬしらじゃよ。よし、終わったぞ。行ってこい!」
バン!
サイレンに思い切り背を叩かれ、レーズンがよろめいた。
「と、そ~だ。サイレン、もし持ってたら『鳳凰』借してよ」
「『鳳凰』? そんなものなんに使うつもりじゃ?」
問うサイレンにレーズンがぼそぼそと耳打ちする。
「また無茶なことを。ま、よかろう。『鳳凰』ではないが、『鳳凰』の上位種をおぬしにやろう」
サイレンが風の呼鈴が鳴らすと、中空に突然魔法陣が出現し、そこから怪獣が降りて(落ちて?)来る。
確かに形状は『鳳凰』だ。だが――
「なんか、真っ黒……」
「気にするな」
ひとことでサイレン。
かくて、『岩バスター』はなんだか得体のしれない大型飛行怪獣に乗って空へと舞い上がった。
魔装機もどき『クイーン・マルガリータ(通称)』は、『森羅万象』を前に手を出しあぐねていた。
『森羅万象』が本性を見せて、サイズが若干縮んだようではあるが、それでもクイーン・マルガリータよりも大きい。
それに、相方の岩バスターがまだ来ない。
「どうしちゃったのよ……」
{遅くなった。アシリーザ、オレが上から仕留める。だからヤツを足止めしてくれ!}
「上からって、あなたいまどこにいるのよ!」
サイレンがコクピットに取り付けた通信用の水晶玉から、いきなりレーズンの声が届く。
{だから上だよ!}
クィーン・マルガリータが上を見上げた。上空には界獣が旋回しているのがみえる。
「もしかしてそこの界獣がそう? どうやって攻撃しようっていうの!?」
{こっから飛び降りて、斧を奴に叩き付ける!}
レーズンの答えにアシリーザは目をぱちくり。
「飛び降り……って、そんな無茶よ!」
{無茶じゃない! 『ν-岩バスター』は伊達じゃない!}
い、いや、伊達じゃないってな。確かに以前よりパワーアップはしてるだろうけど、耐久性は変わってねぇんだぞ。その高さから飛び降りたら壊れると思うんだけど……。
「わかったわ! 何とか動きを止めてみる!」
{その機体じゃ無理よ。止めたほうが身の為よ。(降りろ~。降りろ~。あたしの~)}
いきなりの第三者の声。
……なんだか遠くから泣き声みたいなのが聞こえるけど、なんだこれ?
{だ、誰だ?}
「誰よあなた?」
レーズンとアシリーザ、ふたりして同時に問う。
{あたし? あたしはローレライ。タ・メラの暫定近衛魔女よ。サイレンお婆ちゃんに駆り出されたのよ。いまムースに乗ってるわ。(駄目~。動かすな~。そこからどいてよ~)うっさいわね~。ちっとは黙ってなさいよ!(バシッ! ベシャ! ぎゅぅ……)}
泣き声が消えた。どうやらローレライが元凶をひっぱたいたらしい。
「そういえば先生は!? 全然連絡がないわよ!」
{お婆ちゃん? 死んじゃったわよ}
{死んだって、嘘だろ?}
レーズンの動揺した声。
{こんなことで嘘ついてど~すんのよ。傭兵の性悪女に首の骨折られちゃったのよ。まったく、変なところで間が抜けてんだから}
「そんなぁ」
アシリーザはもはや半泣きだ。
{泣いてる場合じゃないわよ。ヤツを倒さないことには。お婆ちゃんも気がきじゃないのよ!ヤツはムースが止めるわ。ふたりはとどめを頼むわよ~!}
そうしてムースからの通信が途絶えた。
直後、ムースがクィーン・マルガリータの脇を駆け抜けた。
ムースは両腕を『森羅万象』に向けると、それを射出! だが射ちだされた腕は『森羅万象』の脇を擦り抜けて、後方の大地に突き刺さっただけだ。だが直後、ムースが分解して『森羅万象』の周囲を旋回しはじめ、光の文字が出現しはじめた。
あれは――
円錐型立体魔法陣。
魔法陣が『森羅万象』をその内部に捕らえ、動きを完全に封じ込めた。
「凄い。これがムースの力……」
だが、活動停止にはいたってはいない。封印の内部で『森羅万象』が無差別に魔法を放っている。このままだとこの封印は破られるのは時間の問題だ!
だがそこへ、レーズンの岩バスターが巨大なアックスを手に空から降って来た。
ざがっ!
岩バスターの全重量を乗せたアックスが封印もろとも『森羅万象』を捕らえた。
だが――
「しまった! 逸れた!」
アックスの狙いが若干それ、炸裂したのは森羅万象の頭部ではなく左肩だ!
アックスは二本の腕を切り落とし、衰えない勢いのまま大地に突き立った。
そして岩バスターも両足を自重で粉砕してしまい、もはや行動不能だ。
「後はあたしが―――――――――――っ!」
クィーン・マルガリータがタイタンハンマーを振り降ろす。
だが『森羅万象』の水の腕に阻まれ、頭部を破壊できない。しかし、水の腕は潰した。
直後、残った炎の腕がクィーン・マルガリータに襲いかかった!
クィーン・マルガリータ、炎に包まれ機能停止!
がつがつがつがつっ!
左手で丼を抱え込み、右手の箸で飯を掻っ込んでいるのは逃亡者コヴィ・キンドレット。
テーブルには香草を効かして焼き魚に、貝のたっぷりと入ったスープが並んでいる。
そんな鬼々迫る勢いで食事をする坊主を、呆れたような、困ったような顔で眺めているのはレーズンだ。
「コヴィさん」
「なんです? 少年」
「どうして教会に戻らないのさ」
レーズンの素朴な問いに、コヴィはお弁当を何粒も張り付かせた口許に笑みを浮かべた。
「ここトルテの人々に太陽神の教えを広めることこそが、この私の使命なのです! そして、あなたがその栄光なる第一号に選ばれたのです!」
すっかり空になった丼を、レーズンに差し出すように掲げてコヴィ。
そしてそのまま硬直。
……ありゃ? 動かねぇぞ。
「どうしたのさ?」
「おかわりですっ!」
丼を差し出したポーズのままコヴィ。
遠慮のない男である。
「オレの朝飯が……」
こんなときは、さすがに両親の目上の者は敬うようにと躾られていることが裏目に出るというものだ。
「ま、諦めや。こういう運命なんやて」
いつのまにかテーブルについて、さも当然の如く朝飯を喰っているのは、ウイロウ屋のラン。
「なんでランまでここでメシを喰ってるんだよ!」
「堅いこと云うなや」
スープをすすりつつ、ランは魚の骨から身を綺麗に落として行く。
「……ミュハと顔を合わせらんないんだろ」
目を半開きにしてレーズン。口許がつり上がった、ニヤリとした笑みがポイント。
途端にラン、硬直した。
実はラン、昨日、強行手段で通り魔的にミュハの唇を奪ったのだ!
……まぁ実際は、歯と歯の壮絶なぶつかり合いになったわけだが。
だがランの予想に反して、ヌンチャクもビンタも飛んで来なかった。確かにキスした直後、一目散に逃げたということもあるのかも知れないが、その後、ミュハの態度はなにひとつ変わらずなのである。
他の従業員にはもちろんのこと、ランにまで。
……はっきりいって、なんだか恐い。
「仕事あるんだろ? さっさと店に戻れよ」
「あ、あ、あ、朝飯を喰ってからや」
あからさまに同様してるな、ラン。
ばたん!
その時、いきなり扉が開き、大型犬をつれた女性が部屋に乱入してきた。
「ダーリン!」
その女性の姿にコヴィが思わず椅子から転げ落ちる。
「ぐわっ! ユニさん! ど~してここがわかったのです!?」
驚愕するコヴィ。
「どうしてて、ここ教会の隣やで。あんだけでかい声で騒いどったら誰でもわかるで、ジョニー」
その通りだ、ラン。
だが、隙を見てレーズン君が窓からユニちゃんを呼んでいたのには気付かなかったようだな。
「カールが教えてくれたの! これも愛の成せる技。さぁ、私たちの愛の教会へ帰るのよ、ダーリン!」
な、なんかキャラ変わってるよ、ユニちゃん。
「おのれプジョー。裏切り者~。ユニさん、私はトルテの者全員に太陽神の教えを広めるという使命があるのです。いずれ教会には帰ります。それまでは、さらばです!」
コヴィ、一目散に窓から逃走しようと駆け出す。
――が、
「ダーリン待つっちゃ~!」
ぴしゃ~っ!
「ふぎゃぁぁぁぁっ!」
コヴィに何故か突然の落雷。
ぽてくり。
あ、さすがに倒れた。
「な、なんやなんや!」
「雷だよ。さすが『晴天霹靂』……」
なんとなくレーズン拍手。
そう、ユニのたまちゃん(界獣『晴天霹靂』)の一芸がコヴィに炸裂したのである。
「しかし、この夫婦も大変だね」
「夫婦て、け、結婚してたんか?」
ランの問いに頷くレーズン。
そしてコヴィはユニちゃんに担がれ、ずるずると足を引き擦りながらレーズン宅から退場していった。
「ジョニー、きばりや~」
ランの言葉がはたして彼に届いたのであろうか。
さんさんと太陽の照りつける中、神父は新婦に引き擦られて教会へと帰ったのである。
かくして、トルテ村はじつに平和な一日が今日もはじまる。
そう来たかよ、コヴィさん。
というわけで、私的な『怪獣王女』のEDテーマは『炎のたからもの』に決定である。なんて身持ちのいい連中なんじゃろう。
レーズンのは、下手な鉄砲も数撃ちゃあたるとばかりに余白に書いた戦法の中から、上空からの質量攻撃が採用。決め台詞の「ν-岩バスターは伊達じゃない!」も言えたから、よしとすべきか。
さて、次回に続くらしい『怪獣王女』。レーズンは楽しかった思い出のまま引退してもらおうと考えている。さて、次回はどんなキャラクターでアイシンクの森にお邪魔しようか……夢は膨らむばかりである。