以後、多く登録する「実年齢より若く見えるキャラクター」の第1号です。
当時、何を企んで「実年齢より若く見える未亡人」という設定にしたのかはもはや覚えていませんが、自由設定に「最近、再婚を考え始めている」などと書いているところを見るに、「ロマンスをやろう!」などと無謀なことを考えていたのかもしれません。
このキャラクターがいた『風夏の章』のリアクションは、正直、文章に外連味がなく、あまり面白くありませんでした。そのため、このゲームに関しては、他のプレイヤーさんからいただいた別ブランチのリアクションを読むことの方が楽しかったです。
なお、ゲーム自体は全7回予定中第4回で消滅しています(その後、運営主体である『メイルゲーム研究会』は『AIス×ウェア』になったという噂も耳にしますが、市民、噂は反逆です。)。
「そう言えば、ミワとアイラはどうした?」
辺りを見回してイズナが聞く。
「あ…」
一同、火事が起こる直前までは酒を酌み交わしていた。実はその酒がくせもので、しびれ薬が仕込まれていたのである。その為、剣士達の出足が遅れ、犯人の姿を見る事が出来なかった。ミワとアイラは、未だしびれ薬の効果を打ち破れずにいるはずである。
皆あわてて衛士の控所に駆け戻る。案の定、ミワとアイラが床に横たわっている。
「大丈夫ですか!」
キョウヤが叫ぶ。
「………ちょっとだめみたい………」
アイラが力無く言う。
「らいじょうぶ、らいじょぶ、きゃははは」
ミワは酔っぱらっていて自分が動けない事を理解していなかった………。
「これはいけまへん」
カツラが自らの気を送り込んでみるが、ほとんど効果が無い。
「放っておくとどうなる?」
ライガが何となくそんな疑問を口にする。
「さあね」
ハギの何とない返事。
「とにかく薬師を呼んで来る」
イズナは言うが早いか外に駆け出して行く。しばらくすると清楚な身なりの少女が連れて来られる。
「おいおいイズナ、こんな若い娘で本当に大丈夫なのか?」
「俺の所に来ている奴らが、時々世話になっている。腕は俺が保証する」
「東風(こち)のミコトです。よろしく」
ミコトはわずかに微笑むと、ミワとアイラの状態を見始める。しばらくの沈黙。そして懐から何やら薬を取り出し二人に飲ませる。そして薬の効果を高める為なのだろう、おまじないのような動作をする。
「さすがは薬師、たいしたものですえ」
「これで大丈夫。回復に少し時間が掛かりますが、毒も単なる麻痺毒みたいですし、後遺症も残らないと思います。もっとも、そこで酔っばらってる彼女は、明日頭が痛いでしょうけど」
「オマエ、若いのに随分と手際がいいな」
感心するライガを見て、クスッと微笑みながらミコトが言う。
「ライガさん。わたし、いくつに見えます?」
「17ぐらいだな」
「はずれです」
ミコトがちろっと舌を出す。
その頃、新斎神宮の方ではキョウヤの的確な判断もあって被害を最小限に食い止める事が出来、無事消火完了した所であった。
「御免下さい」
庭の方から声がした。一同振り向くと昨日の薬師がいる。
「ミコトですが、ミワさんとアイラさんの具合を診に来ました」
「誰じゃ? あれは」
「薬師のミコトさんといって、昨日ミワさんとアイラさんを診て頂いたのですよ」
バタラクの質問にキョウヤが答える。
「まあ上がりなさい」
「では遠慮なく」
ぎしっ、ばたっばたっ、ぎしっ、ぎしぎしぎし。
「昨日はありがとう」
「いえいえそれほどでも。あら、ミワさん、もうなんともありません?」
「えっ、何の事でしょうか?」
ミワは酔っぱらっていたので覚えていない。
ちょこん。
「ところで皆さんお集まりで、何の話をなさっているのでしよう。宣しければ聞かせて頂けません?」
「だめじゃ!」
「だめです?」
「別に構わないんじゃないのか、どのみち薬師にはしびれ薬の成分を調べさせるつもりだったからな」
「仕方ないのう。ミワ、後で話してあげなさい」
「はい」
一度は断られたミコトの好奇心であったが、ライガの一言がバタラクを納得させ、後にミワの口から事の全貌を聞かされる事になる。
「で、お前達、これからどうするんじゃ」
「オレはオレの知っている筋から当たる。しかしこれは今度の件がオレにも責任があるとは言え、別料金にしてもらおう」
「……解った。ある程度こちらで用意しよう」
「それからミコト、オマエにはしびれ薬の成分の割り出しをやってもらう」
「はいはいライガさん、わたしも別料金ですね」
「をい! で、ハギはどうじゃ」
「俺は一度引き受けた仕事は最後までやる、そういう主義なんでね。だが、今回は夜の見張りをやろうと思っている。そういう訳で夜食を頼みたい」
「うーむ……。よし、夜はミワが、朝はわしが持って行くようにしよう。次はイズナ、おぬしにはカイバクの所で剣術を教えるという仕事があるようじゃが、どうするんじや」
「俺は、俺が教えている奴等にいろいろやらせるつもりだ。一人でやるよりはよいだろう」
「そのうち剣の相手をしてもらうことになると思いますので、その時はよろしくお願いします。私は出来得る限り皆さんを手伝いましょう。それから、アイラさん、ミワさん、巫女王の身辺がどうなっているか調べておいてもらえませんか。この前から少し気にかかっているので」
「それならおやすい御用ですよ、キョウヤさん」
「ミワ、ぼくも工匠寮に付いて行きたいんだけど、いいかな?」
「アイラさんがついて来てくれたらわたしも助かります。しばらく一緒に行動しましよう」
「わたいが何をするかは、ひみつですえ」
「好きにしてくれ、わしゃ知らん」
バタラクは皆の意見を一通り聞くと「何かあった時は、必ずわしの所まで来るのじゃ。良いな」と言い残し、部屋を去った。
ミコトの家は斎睦の南西の方、斎神宮の南にある。そのほとんどを、ミコトは薬師の仕事に使っている。あまり広くない家であった。そしてこの家を支えているのはミコトである。ミコトは四年前に父と夫を同時に失い、今は母と二人で暮らしている。そこへライガが訪れる。
「分析は出来たか」
「これはライガさん、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
したしたしたした。
土間を歩いて行くと、何やら粉のような物が紙の上に乗っているのをライガは見付ける。その場所でミコトは止まる。
「この粉が、この前頂いたお酒から取り出したものですが、何かの草から作られたのでしょうが、わたしの知らない物で出来ているようです。しかし、奥越にこういうものに詳しい人がいるらしいので、そこへ行けば何か判るかも知れませんね」
「……そうか、考えておこう。ではまた来る」
「あっ、お茶くらい飲んで行きません?」
「……まあいいか」
こうしてライガはミコト宅でしばらくくつろいでゆく事になる。
ついに工匠寮へ行く、と言う知らせを受けたミコトを含めた一同はバタラクの部屋の前の庭に集まっていた。どこから話を聞きつけたのか、ラカとレイもやってきた。そこへカイバクが乗り込んで来る。
「バタラク殿、勝手にイズナを連れていってもらっては、困るのであります」
「イズナも関係者なのじゃ」
「しかしながら、こちらにもこちらの事情という物があるのでありまして……」
「じゃかましい! 昔はわしがお前のおしめをかえてやった事もあるというのに、最近偉そうな事ばかり言いおって、まったく」
「…………」
結局、カイバクは押し切られてしまう。一同、仕方なく立ち去るカイバクを尻目に工匠寮へ向かった。
ある日、一同はラカ、レイの所属するラクドウの一座の芝居を見に行った。その頃、ミコトはしびれ薬の成分や的確な治療法を知る為、奥越へ出向いており、ここにはいない。その代わりというか何というか、バタラクがミワの誘いでここに来ていた。一同のおおよその面々はミワの誘いを受けてここに来ている。
芝居が始まる。内容はある男性が身分違いの女性と恋に落ち、二人で駆け落ちするのであるが、いずれ女性の一族の手の者に見つかってしまい男性はその場で斬り殺されてしまう。しかし、その時既に女性はその男性の子供を身篭っており……。というものである。
この芝居の男性の役というのがレイであり、子供の役はラカである。芝居が終わると、ラカとレイがもう一人の女性の役であった女の子を連れて、ミワ達のもとへ来る。情熱的な雰囲気を持つその女の子は、ミワ達の前に来るとお辞儀をし、自己紹介を始める。
「お初にお目にかかります。ケイヒと言います。一団の中では“紅のマイカ”という名前で呼ばれる事もあります。今後ともよろしくお願いします」
これ以後ケイヒも、ミワやアイラ達のいる斎神宮へよく顔を出すようになった。
ミコトは奥越でしびれ薬を含め、様々な薬の治療法を学んでいた。教えるのはかつてミコトの父の親友であった、タクマという男である。タクマはミコトの父とは違い、人々を助けて回る事はせず、毒薬の治療法を調べる事に心血を注いできた。ミコトはそんなタクマから教えを受けた。
「この度は本当に有り難うございました」
お礼の言葉を述べた後、斎睦へ向かう。途中、奥越の豪士らしい、二人の男に出会った。
「嬢ちゃん、年いくつー?」
「おじさん達がいいことしてあげようか」
「いいえ、結構です」
話がややこしくなってくる。男達はなかなかミコトから離れようとしない。
「あなたがたシュウケン殿の郎党ではありませんか。そんな御人が、こんな事していていいんですかな?」
一人の男が割って入る。筋骨たくましい男である。
ただ、顔の方はちょっと……。
「貴様、何者だ!」
「俺はただの通りすがりの……」
「使い古された言葉、使ってんじゃねえ!」
「どうしても俺達の邪魔するってんならここでたたっ斬ってやる!」
「ほーう、これでもですかい」
男が片腕を上げると、辺りの茂みからわらわらっと人影が出て来る。その数四、五一〇程。
「なっ、なんだこいつらは。貴様卑怯だそ!」
「そ、そんな事言ってる場合か! 逃げるぞ!」
ミコトにまとわり付いていた男達は、一目散に逃げて行った。
「大丈夫ですかい?」
「ええ、どうもありがとう」
「この辺は物騒だ。家までお送りしやしょう」
「……家は斎睦なのですが……」
「では、斎睦まで。野郎共! このお方を斎睦までお送りするぞ!」
「おお!」
こうして、ミコトは四〇人ばかりの野郎共にがっちり守られて、斎睦の都に戻って来た。
さすがに、都の中を大人数で歩く訳にはいかないので、ミコトを助けた男とその部下数人でミコトを家まで送る。ミコトの家の前にはライガがいた。
「あー! 貴様はライガ! 何故ここにいやがる!」
「それはこっちの台詞だ。オマエこそ、何故ミコトと一緒にいる」
どうやらライガとこの男はお知り合いの様である。
が、どう見ても仲がいいようには見えない。
「今、ここでけりをつけてやる」
じゃきん。じゃきじゃきん。
男とその部下が刀を抜く。
「いいだろう」
すっ。
ライガも刀を抜く。
「やめなさい!」
ミコトが大声で制止する。
「仕方ねえ。今回は、この方に免じて引き上げてやろう。だが次は容赦しねえ。野郎共! 引き上げだ!」
「おお!」
男は先程の殺気立った雰囲気の割には、やけにあっさりと去って行った。
いつ忍が来るかという事が判らないまま、各人一人一人がそれぞれの方法で、忍に対する対処法を準備していた。
アイラは、タハに戦えない人達をどこへ誘導すれば良いかを相談した。タハに対してはしびれ薬を飲まされた事もあってあまり気を許せるものではなかったのであるが、今はそれどころではない。
「そうですね。夜は見張りの剣士様達がいらっしゃるだけですので、戦えない人達の心配は必要ないと思いますが、昼間に付きましては今のところ兵士を集める事が出来ないので、避難経路を指示するという事だけしか出来ないと思われます」
「そう、仕方ないね。せめて忍がいつ来るかが判ればいいんだけど」
カツラは巫女に変装し、斎神宮外の宮を動き回って怪しい所が無いか、怪しい者がいないか見て回った。
こんな事をしている自分が一番怪しかった。
「今のところ、斎神宮の方は無事のようでおすな」
ミコトはいろいろな毒に対応出来るよう、多くの種類の解毒剤を調合した。
それを見てアイラは手を叩いた。
「毒を調合して、剣士達の刀に塗ってもらうというのはどうかな。相手が忍だけに、こっちも最善の方法でいくべきだと思うんだけど」
「私は命を守りたくて薬師をしてます。そういう事は出来ません」
こんなところは頑固なミコトはにべなく断った。
ミコトの家にライガがやって来る。
「ミコト、いるかーっ」
「はい。どなたさんでしよう?」
玄関先で話すのも何なので、ミコトはライガを奥の部屋まで案内する。
ライガは奥に行くなり、単刀直入に自分の予想をミコトに話す。
「えっ、わたしが狙われているんですか?」
「どうやら、そのようだ」
「で、わたしを守って下さると」
「そのつもりだが」
真面目に答えるライガ。でも、あかの他人が聞けば少し怪しくもある。しかしミコトも状況がよく解っているので、これを承知する。
「わかりました。では明日からでもお願いします」
「いや、もう支度はしてきた」
「お早いですね。……では、今から一つ部屋を空けますので手伝って頂けません?」
早速、今まで物置として使っていた部屋の荷物をおおよそはその部屋の隅に集め、残りは土間や別の部屋に移す。
「あら、住み込みの病人さんとはめずらしいわねえ。見た目は元気そうなのに」
ミコトの母親が含みのある言葉でそう言う。
「おかあさん、違うんです。この人はわたしの新しい夫……ですよね、ライガさん」
「ん?!」
これは、ミコトと母親の日頃からの会話なのであるが、ライガにはついてゆけない。
その様な会話を交わした後、ミコトとライガは先程整理して空けた部屋で打ち合わせをする。
「やはり守って頂くにしても、その事が他の人には解らないようにした方がいいでは? とりあえず、恋人同士というのはどうでしょう?」
ライガは恋人同士という付き合い方には慣れていなかった。
「うーむ。まあ、要は慣れだろう」
ライガはこのように割り切る。
こうして、ライガとミコトの同居生活が始まった。
ハギがミコト達の所へやってくる。
「よう、二人ともお熱いことで」
「あら、ハギさん」
「冷やかしに来たのではないだろう」
「ああ。念のため、あんたが前にいた盗賊団の拠点を聞いておこうと思ってな」
「ここで立ち話も何ですから、中へどうぞ」
ばたばた、どかどかどか。
ハギやライガ、彼等の足音はふだんは決して静かではない。
「ここだ」
ライガが、今自分が寝泊まりしている部屋にハギを招き入れる。
「では、わたしはお茶でも入れてきます」
ミコトは土間へ行く。
「で、今どうなっている」
ライガが聞く。
「それはこっちが聞きたい」
「からかうのはよせ。話が進まん」
真面目な話に戻る。
「今、レイがあいつ等に付いていっている。ケイヒの話によれば、あいつ等は奥越から少し外れたあたりに向かって、一直線に進んでいるそうだ。ケイヒもまかれるのに苦労したらしい」
「そうか、それでオマエはどうする」
「俺はレイが帰り次第すぐ、他の奴等を連れて奥越へ向かう」
「気を付けてな」
「あんたにそんな事を言われるたあな」
そこへミコトが入って来る。
「お茶が入りましたよ」
ハギはライガにライガいた時の盗賊団の拠点を聞いた後、ここでしばしくつろいでゆく。
斎睦のミコトの家。
「ライガさん、そこの薬とって下さいな」
「ああ」
傍目からみればかなり親しい仲のように見える。
ミコトからすればライガが来てくれたおかげで、仕事がかなり楽になっていた。薬師の仕事は力がいる時も結構あるのである。
ライガからすれば……どうなんでしょう?
「御免」
ある日、病人とはとても思えない訪問者が訪れる。
よく見ると……タンラクである。
「オマエは馬鹿か。今すぐ刀の錆にしてやるからそこになおれ!」
「待て! 待ってくれ! この前の事は悪かった、謝る、この通りだ。だから俺の話を聞いてくれ」
タンラクはその場で土下座する。どうも調子が狂ってしまう。
「ライガさん、話だけでも聞いてあげましょうよ」
「……」
タンラクの話はこうである。
マドカは邪術を覚えたという理由で北黎を追放されたが、マドカは邪術を使えない。本人に聞いても「私は邪術なんか使わないわ」と、一喝されてしまうという。どうも、裏がありそうなのである。
考えてみれば多少邪術が使えたところで、巫女王直々に追放する必要はないわけで、今のマドカを見る限りでは本人の呪力で北黎そのものがどうこうするという事は考えられないので、やはりおかしい。
また、新斎神宮にかけられていた呪いというのは邪術では無いらしい。
最後にタンラクは言う。
「俺はあまり大掛かりな事は嫌いなんだよ。俺達は今のところ前の根城にいるから、何とかしてくれ。俺には無理だ。じゃあな。あばよ」
言うだけ言うと、タンラクはすたこら逃げて行く。
「ゆっくりしていかれたらいいのに」
ミコトはちろっと舌を出す。
一同は酒亭に集おうとしていた。ミコトの家に大勢で集うのも怪しまれると考えたのと、アイラのお帰り会の為である。この店は中年でやや肥満ぎみの威勢の良い女性が切り盛りしている。ハギは三ヶ月半前の食い逃げ騒動以来、時折この店を利用するようになっていたが、この店の女将(おかみ)とはあまり仲が良くなかった。
「あんた、性懲りもなくまた来たのかい」
女将がハギに対して、あわよくば追い出そうとせんばかりの言葉を掛ける。いつもこの調子である。
「ああ、性懲りもなくまた来た」
どうやらハギは、たまにはある程度緊迫した場所に身を置かないと気がすまないお人の様である。
引き続き、ぼつりぼつりと仲間が集まってくる。
「さあ、始めましよう」
全員が集ったところでミコトが言う。
「何を始めるのかは知らないけどね、まずは注文を決めとくれ」
「それは失礼しました」
ミワが一言謝ると、まず注文を決める。ちよっとミワさん、お酒頼んじゃだめですよ。と、それに引き続き一同注文を決めてゆく。
しばらくして、最初に口を開いたのはラカである。
「僕、どうしてもタハさんとマドカさんをあわせたいんだけど」
「それはわたしも同じ意見ですわ」
「あの二人、なんか悲しいのよね」
「なんとかしてあげたいね」
ケイヒとレイ、そしてアイラが続ける。やはり何か手を打って二人を会わせるのが良いだろうという事で意見が一致する。
「ところでマドカさんの事なんですけれども、お師匠様に聞いてもやっばり、邪術のせいで追放されているんですがミコトさんの言ったとおりで何か事件があって追放されたわけではないみたいなんです」
「しかし、アズハラ殿の仕業というのは考えられるのではないですかえ」
「それはないよ。巫女王様が直々に追放されたんだから、ご自分で確認されるはずだよ」
「どういう事かは分からんが、とにかく本人に聞いてみるしかないだろう」
ミワ、カツラ、アイラ、ライガの話をハギは口を挟まず聞いていた。
「なんにしても、呪いをかけたり、野党を雇って破壊活動をしたりするのはよくありませんよ」
ミコトがいつもの笑顔で静かに言う。
そして、料理が来る。さらにそこへ、来るはずのないバタラクがひょっこり現れる。
「アイラのお帰り会をするなら、わしも呼んでくれれば良いものを」
愚痴をこぼしつつ目の前にある料理をつまむ。
「いえ、お師匠様……あの……ごめんなさい」
「まあ良い。ところで話は後の方だけじゃと思うが聞かせてもらった」
一同に緊張が走る。
「ミワ、アイラ、お前達が成長するいい機会じゃ。アズハラには黙っておいてやるから、この事件最後まで自分たちの手で解決するのじゃ。他の者達も二人を宣しく頼む。よし、今日はわしのおごりじゃあ!」
後はどんちゃん騒ぎである。ミワはもとよりラカにまでお酒が入る。
ミワは笛を吹く。アイラに感謝の意を込めて。
騒ぎは夜遅くまで続いた。
どういうわけか、女将は店をしめる時間がきても何言う事はなかった。
「そろそろ帰らねえか?」
バタラクのろれつがまわらないところを見て、ハギが言う。
「そうだな」
「はい」
ライガとミコトが同意する。この二人、タンラクの一件にかたが付いたにも関らず、未だに同居生活を続けている。結構いい仲だと巻で評判である。
ややあって一同、帰り支度を始める。
「わたいはこれで」
最初に席を立ったのはカツラである。
「わたし達もこれで」
「さらばだ」
ミコトとライガが仲睦まじく出てゆく。
その夜はマドカの屋敷に遠留する事になった。部屋の配置はマドカの部屋に近い方から、ミワとアイラとミコトで一部屋、ラカとレイとケイヒで一部屋、ハギとライガで一部屋である。カツラは部屋を断った。
カッラは屋敷の屋根の上にいた。遠くにいるマサゴの無事を想う。そこで一夜を過ごす。
ミコトは夜がふける前にもう一度マドカに会う。
「何の用かしら」
「少し聞きたい事があって」
「何?」
「マドカさんご家族は?」
「もうとっくに北黎を引き払っているはずよ」
「やはりそうですか。お気の毒に。…ところでマドカさん、タンラクさんとはどのようにお知り合いになったのです?」
「ここに来る前にお世話になっていた、ある人の紹介よ」
「お金の話は?」
「全然聞いてないわよ。タンラクにでも聞いてみたらどうかしら?」
一方、ライガはハギと共に、屋敷の広間で久しぶりにタンラクと酒を酷み交わしていた。
「おめえとまたこうして酒を酷み交わせるたあ、思ってもみなかったな。まったく」
などとタンラクが話をしていると、レイとケイヒがやって来る。
「私達も仲間に入れてくれない?」
「お願いします」
「だーっ。そんな固い事は言いっこなしだ。こっち来て飲みねえ」
タンラクが二人を招き寄せる。
「タンラク、あんたそろそろライガみたいにいい女でも見付けて、賊から足を洗ったらどうだ」
「こらハギっ、オマエ何勝手な事を」
「ほう、ライガ、おめえも隅に置けねえな。かく言う俺もどうやらマドカの姫さんに惚れちまったみたいなんだけどよ。最近足洗おうかと本気で考えたりなんかしてよ。どうやら俺も、ヤキがまわっちまったみてえだな」
「タンラク、オマエかなり酔ってるな」
「ところでハギさん。今付き合っている人、誰かいるの?」
正体がばれてしまってから、レイはすっかり女っぼくなってしまっている。
「なんだいきなり」
「いないんだったら、私なんかどう?」
「からかってやがるな」
「半分はそうだけど、半分は本気よ。ずっと気になってたんだけど、どうして最初に会った時に私が女だって判ったのかしら?」
「雰囲気だ。はっきりと判ったわけじゃねえよ」
「ああ、イズナさん、どうかご無事で」
「ケイヒはね、イズナさんの事がちょっと心配みたいなのよね」
「どいつもこいつも色気付きやがって」
明くる朝、レイとケイヒはばたんきゅうである。退屈になったラカは、集落の真ん中にある広場で集落の子供達と戯れている。昨日、タハのマドカに対するわだかまりが解けた事でラカの心は幾分明るかった。しかし、未だすべてが解決したわけではない。ラカはそれが気になっていた。
ミワとアイラ、ミコトが井戸の水を汲み出して顔を洗っている。そこにカツラがやって来て同じく顔を洗い始める。
「おはようございます、カツラさん。今日もいい天気……きゃあーっ!!」
ミワはあまりの驚きのために気絶してしまう。
「ミワっ! 大丈夫?」
アイラはミワを助け起こす。
「あら、どうしたんでしょう? はっ……カツラさん……随分とお若くなりましたね……」
ミコトは茫然としている。
「何だ!」
「どうした!」
ハギとライガがどかどかと駆けつけて来る。
「どうしたのーっ!」
ラカがばたばたとやって来る。
「どうしやしたっ!」
「何だい朝っばらから。タンラク、何とかおしっ!」
「あんた、カツラだよなあ」
ハギもやや当惑している。
「とうとう素顔を現わしたか」
ライガは薄々分かっていた……らしい。
「わあ、カツラのおばあちゃんが、おばちゃんになったー」
ラカは喜んでいる。
「これがわたい……うちの素顔でおす」
一同の目の前にうら若き色白の美人が立っている。
声色もすっかり変わってしまっている。穏やかにして麗らかな声が奏でるこの独特の訛りは、涼しげな雰囲気をかもし出していた。
「ほう」
ハギの口からそのような言葉が出たのも、無理からぬ事であろう。
「とっ、とにかくミワさんを部屋に運びましよう」
ミコトがようやく言葉をはさみ、一同は昨日酒宴のあった広間へ移る。
「何だったんだい、今のは?」
「さあ、何でやしょう?」
後に、レイとケイヒもカツラの素顔を知ることになるのであるが、二人ともそれを信じるにはかなりの時間を要したという。