呪文は、『精霊使い』を参考に塩梅良く一文字にまとめてみてください。
『夢大陸』は、『RPGマガジン』1992年10月号の投稿コーナーで参加者を募集していた同人PBMです。
モチーフは、『精霊使い』(岡崎武士著)の精剣戦争。
キャラクター登録後に届いた初期情報において個々のキャラクターが細かく描写されていましたので、結構期待していたのですが、残念ながらその初期情報をもってゲームは終了となりました。私が誘った、PBM初参加となる弟もキャラクター登録をしていたものですから、その後、ちょっと肩身が狭い思いをすることになった次第です。
なお、弟のキャラクターが登録したのは「溶岩」の精霊使い。「光」に「溶岩(マグマ)」ということで、時代が時代ならば、「何処の海軍大将だ?」と言われそうな選択です。
「ほら、晒斗。そんなところで何しているの? こっちへ来なさいよ」
晒斗の姉の梟華が晒斗に声をかけた。
今日は『蜂』のオアシスの祭りの日である。ここ『夏』には共同体として2つのタイプがある。それにはまず、この国の名物、オアシスについて少し語らなければならない。元来、火の精霊は非常にきまぐれで、一刻として同じところに留ることを知らない。したがって、各地には火の精霊の活動が活発な所とそうでない所が現れる。火の精霊が活発でない所には、国境を越えて、他の地水風の精霊が流入し、そこにオアシスが形成されるわけだ。だから、オアシスの場所も火の精霊の活動で刻々と変化する。ただ、稀に火の精霊の近寄らない、常時地水風の精霊の溜まり場のような場所があり、そこだけが常にオアシスを形成していた。
話は邑の形態に戻る。
一つが移動型のオアシスを追って、転々と『春』各地をさまよう旅団である。~の旅団と呼びならわす。『夏』の皇都『玳』も巨大な旅 団である。普通、旅団は家を築かず、テント(パオ)を居留地に設置して生活する。だが、『玳』だけは特別で、『玳』はなんと、その広大な皇都を巨大な亀に乗せて移動しているのだ。
もう一つにオアシスを単位としたものがある。これは『夏』でも数少ない非移動型のオアシスに邑を築いたもので、~のオアシスというように単にオアシスの名で呼ばれる。『蜂』のオアシスも数少ない、非移動型のオアシスだった。
「ほら! こんなお祭りの日になにしけこんでいるのよ。さあさあ、火酒をお飲みなさいな」
そう云って、梟華は晒斗に火酒をすすめた。晒斗は渡された杯を一気に呷ると、近くのテーブルに空になった杯を置いた。
「そんなにまずそうに飲まないでよ」
梟華が晒斗を睨み付ける。
「別に美味しいと思わないよ、姉さん」
「うまい・まずいの問題じゃないでしょ。晒斗、あなたその年になれば、飲まずにいられない時だってあるでしょうに」
「う~ん。やけ酒飲むほどの悲しいことも乾杯するほど婿しいこともなかったなぁ」
「あきれた。つまんない男ねぇ。あっ、また爪かんでる! 18にもなってやめなさいって云ってるでしょ」
梟華は晒斗の頭をこつんとこずいた。
その瞬間まで、確かに村人たちも旅人たちも 祭りを楽しんでいたのは間違いなかった。しかし、その陽気な祭りは一変して陰惨な地獄のサーカスと化した。
人々ははじめなにが起っているのか理解できなかった。突然、地面から魔族が出現したのである。
ふつう、魔族といえば家畜を襲う野獣のような輩と見られていた。『夏』は魔族といえど適した環境ではないらしく、あまり見かけることはない。ただ、他の国とは違って、群れる習性があるようで、襲撃を受けた時の被害は並みではなかった。それにしても、家畜にしているホーンヘッドを襲われることの方が圧倒的に多かった。オアシスや旅団には常に見張りが立てられていた。魔族対策にはこれで十分だったのだ。魔族はいつも正面から襲撃を行った。残虐ではあったが、狡猾ではなかったのである。
その魔族が、である。
人々が完全に気を弛めているその瞬間に、突如として襲ってきた。パニックに陥った娘は足下を掴まれ、地面から生えた林狗の腕が何だか理解できないうちに、頭部を叩き割られた。幸運にも帯剣していた男は、どこで手に入れたのか入手経路不明な錆びついてボロボロに刃こぼれした大剣を持った鱗倭にその自慢の剣を叩き折られて、胸を申刺しにされた。
晒斗もまた、自分の目の前で起っていることが理解できなかった。ガタガタと足を震わせ、死ぬ順番が、回ってくるのをただどうすることもできずに待っていた。
(なにをしているんだい!)
ふいに晒斗に呼びかける声がした。
「だ、誰?」
晒斗はあたりをきょろきょろと見渡した。すると、150タッド離れたところで、勇敢にも魔族に立ち向かっている少女がいた。とても声の聞こえる距離ではない。僕の頭の中に直接言葉が 飛び込んできたのだろうか?
(そうだよっ、君だって精劉いだろ。いい加減目を覚ませ)
風鈴はだんだん腹が立ってきた。こんな奴が精霊使いだなんて!?
確かに晒斗は以前に『夢』を視、自分が精霊使いであるとを知った。だがその自覚が全く湧かない。
「剣をふるうことより、ホーンへッド達の世話できる方がずっと立派だよ」
父親にそう云われて以来、晒斗は剣を握ったことがない。精霊極いとしての自覚がないのもそのためか。
「でも、僕は……」
晒斗はただオロオロするばかりだ。
(むっかあ~。なに云ってんだい。君には何も守る人がいないのかい?)
嵐鈴は思わずそう叫んでいた。
「あ…」
晒斗はとっさに梟華の姿をさがした。
はたして、晒斗は変わり果てた姉の姿を見た。鱗倭の腕に吊るされ、首を潰された哀れな姿を。その魔族は梟華をまるでゴミのように投げ捨て、晒斗の方へ歩み寄った。
その瞬間、晒斗のなかでなにかが弾けた。
「うああああああ!!! 光よ! 光よ! 僕に力を貸してくれ!!」
晒斗が叫ぶと、彼の両腕からバキバキと音をたてて精霊榾芯が伸び出した。そして、彼のまわりが光りだし、次第にその輝きを増していく。
「足光光疾」
光りが弾け、その中央にいた晒斗の姿は消えていた。
「消えた……」
風鈴は呆然とした。ふつうこんな状況で一人で逃げる?
「信じらんない!! 人がせっかく『起こし』に来てあげたのに。…と、こうしちゃいられない、こうなったらわたしも逃げよっと」
風鈴もさっさと撤退を決めた。